ヤニス・バルファキスのレビュー一覧
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・賢く、戦略的に怒れ。
・衝突があるからこそ人は変わる。
・制約は自分の動機を自問させてくれ、それによって我々を解放してくれる。
・自分の身の回りで、そしてはるか遠い世界で、誰が誰に何をしているのか?
・私たちは探検をやめることはない
そしてすべての探検の終わりに
出発した場所にたどりつく
そのときはじめてその場所を知る
・「誰もが経済についてしっかりと意見を言えること」が
「真の民主主義の前提」、
「専門家に経済をゆだねることは、自分にとって大切な判断をすべて他人にまかせてしまうこと」
・「君には、いまの怒りをそのまま持ち続けてほしい。でも賢く、戦略的に怒り続けてほしい。そして、機が熟したらそのときに、必要な行動をとってほしい。この世界を本当に公正で理にかなった、あるべき姿にするために」
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搾取の主導的な形態を時代の変遷に沿って、《封建制/領地/農奴/地代(レント)として差し出さねばならない生産物》、《資本主義/生産手段/労働者/利潤として巻き上げられる価値》、《テクノ封建制/クラウド領地/クラウド農奴/クラウド地代(レント)として差し出さねばならない個人情報》と描いてみせる。そして、テクノ封建制においては、クラウド領主であるGAFAMなどのプラットフォーム企業が、従来型の企業(資本家)を封臣とし、彼らが労働者から搾取した利潤からクラウド地代を吸い上げる。また人々は、デジタル空間で興味関心欲望を操作され、クラウド領主に無償で個人情報やコンテンツを差し出し続け、そこから抜け出すことのできない、クラウド農奴と化している。今この世界で起きている経済構造の変化を、このように見通してみせる著者の力量に脱帽。巻末の斎藤幸平の解説もコンパクトかつ見事なまとめになっている。
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資本主義は欲望を作り、富を独占する社会
これは資本主義の後の世界を求めた思想家、経済学者、IT技術者によるSFチックな世界を妄想し、現実の史上分析からなる創造力豊かな世界を描いた小説だ。「資本主義」とは「私たちの中に欲望を作り出す世界」だから富む者はより富む社会システムであり、人々の間には様々な格差が生じる、と言う。その資本主義が滅びた後、GAFAのような独占巨大資本が失くなり銀行は中央銀行だけとなる。富の分配を公平にする世界が始まり、企業が納税者となり国民は納税の義務はなくなる。よって富の根源である投資・株市場も一変し社員が一人1株、議決権1票を持ち企業、個人を評価することで給与・ボーナスは定額を中央銀行から配給される。いわゆる富の集中化を無くし大きな格差も無くなる世界を模倣させるのだ。
現実の記事:「ザッカーバーグが「世界3位の富豪」に、株価急騰で資産27兆円」、これは一人の人間の域を超えた額であり、このような富が集中することが「資本主義」の典型なのだ。 -
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『「あんた。人が痛い目に遭ってるって時に、SF世界の夢物語は贅沢品だよ」聴衆のひとりが叫んだ。「資本主義とSFには共通点がひとつあります」コスタが冷静に答えた。「どちらも架空の通貨を使って、未来の資産を取引することです。たとえそれらのツールがいまだSF世界のものだとしても』―『第一章 現代性に敗北する/コスタ』
今年一番の刺激を受ける。オルタナ右翼という言葉を最近聞くけれど、それに対抗するのが詰まるところ新オルタナティブ・レフト(差し詰め新・新左翼という感じ?)というか民主社会主義ということであるとすれば、識者が語るその世界は専制的な政治制度に基づく共産主義よりは緩やかな社会主義に基づく統制によって格差が解消され弱者への手厚い支援が行き届いた社会、例えば一歩進んだ北欧風の社会、という印象で多くの人は語っている気がする。とは言え「識者」にしたところで何処までその概念が遍く行き渡った世界を想像し得ているのだろうか、という素朴な疑問に対して、本書はそんなやわな印象を一蹴して、現実感を伴った社会を設計し具現化して描いて見せる空想科学小説。
原題は「Another Now - Dispatches from an Alternating Present」。故に、「クソったれ」という修飾語は訳者によるもの。いわゆるコペンハーゲン派の多元論的世界観による「What if」式の空想科学小説だが、リーマンショック後に取り得たマクロ経済学的な選択肢が現在を越えて近未来にどのような社会を築き得るのかを示している。Dispatchesという言葉からは、これまたオルタナティブな世界観を夢想して描く「Dispatches from Elsewhere(別世界からのメッセージ)」という米国のテレビドラマを思い起こすけれど、こちらも夢や在り得るもう一つの理想的な現実という主題を扱っていて、本書の世界と呼応している気がする。ただしドラマの方がそんな共生社会を理想として描くのに対し、本書の枠組みは、一見したところ民主的で公的正義の行き渡った社会のように見えるその世界に対して、隠遁生活に入っている急進的な左派の元社会人類学者と元リーマン・ブラザーズのパートナーで自由市場主義の経済学者の二人の対立を通してその世界が真に理想の世界なのかを吟味していくという構図。オルタナティブ(別の選択肢)な共産主義的社会を現在進行形の歴史と並行する架空の世界として描くことで、読者にもその世界がどのようなものかを具体的に提示する。架空の世界を描いた小説とは言え、民主社会主義で知られるバーニー・サンダースとの関係の深い経済学者である著者の啓蒙書的意味合いも本書にはあるのだろう。
だからと言って、本書は単純にそんな世界を理想像として描く訳ではない。『資本主義が約束する永続的な至福の状態とは実のところ、一種の煉獄にすぎない』という深遠な哲学的警鐘もまた、本書の大きな主題の一つだからだ。例えば古代ギリシアの直接民主主義のような「公の正義」を極端に強いた世界は、既知の価値観に基づく正義以外に入り込む余地を無くし、未来の可能性をある意味で排除してしまう。それは人間的な揺らぎ、自由度を無視し、価値を固定し、現状の絶対的な安定をテーゼとする世界でもあるだろう。だとすれば、如何に民主的な制度の行使者(達)であろうと、それはポピュリズムの名の下のビッグブラザーとも言うべき存在とならないか。もちろん、性悪説に基づく人類の行動様式の傾向には対処しなければならないが、その代償として手放すもの大きさは如何ばかりかというのが最初の疑問として湧いてくる。その立場を代弁するのが自由至上主義の経済学者である。
一方の元社会人類学者は、自らが描いていた公共性に基づく社会が具現化しているのを知って何を思うのか。本書が非常に刺激的なのは、経済学者と対立する左派の元社会人類学者が、ある意味で自身の理想に近い社会に対して、手放しで礼讃するのではなく、慎重に吟味し課題さえ指摘する点。そして、その解決されていない課題こそ現代人の抱える根本的な問題ではないかと著者は指摘したいのだろう。それは汎世界的な感染症の広がりの中で改めて浮き彫りになった現在進行形の格差や対立の問題とも重なり合い、読者に大きな課題を突き付ける。そして原題にあるDispatch(送り出)されるものとは何か、というのは読んでのお楽しみ。
もちろん、著者ヤニス・バルファキスが描くのは俯瞰した世界像であって、その中では人間は集団的な傾向に要約された因子として存在するだけ、とも言える。従って、個々人の生活のような小さな(しかし膨大な数の)波動は考慮されていないという意味ではどこまでも単純化された架空の世界であることは否めない。それでもギリシアの経済危機に対処した経験を持つ著者が考察したもう一つの世界の可能性について考えることが、今人類が抱える汎世界的な格差問題に対処する上で必要なことであるようにも思えてならない。 -
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「黒い匣(はこ)」とは、管理者側もその全容を理解できないほど巨大で多くの人に影響を多大に与える重要なシステムのこと。
金融工学者が複雑化し続けるデリバティブを隅々まで把握できないことや、グローバル銀行、グローバル企業のCEOが自身の所属組織の全容と影響力を把握しきれないなどが”「黒い匣」と権力者の関係”にあたる。
「陰謀論」では「黒い匣」の中で権力者らが「お主も悪よのぉ」と不敵な笑みを浮かべながら公共善と弱者搾取のための悪巧みをしていると語られがちだが、政府関係者やIMF高級官僚たち、グローバル企業の幹部たちの多くは職務に真面目に取り組んでいるし、結果的に公共善を毀損し弱者搾取になっていたとしても自分たちがそれに加担しているという自覚がないのが現実だ。日本人の多くがペットボトル飲料を飲んで捨てることが中国やマレーシアにプラゴミの山を生んで環境破壊に拍車をかけているのを知らないのと同様だ。
ただ、「黒い匣」の中の人々は、インサイダーの一員である自覚はある。例えば政治家から偏向記事を依頼されたジャーナリストであれば、その仕事を拒否すればその政治家とのパイプが切れて「黒い匣」から追い出されてしまうことを知っている。こうして「踏み絵」や「毒まんじゅう」などでインサイダーかアウトサイダーかを常にテストされ、インサイダーとして認められる術も心得ている。一度アウトサイダーとして追い出されると、裏切り者としてインサイダーからの総攻撃のリスクにさらされることも知っている。
本書は、2013年のギリシャ金融危機の時に財務大臣を務めたヤニス・バルファキスが、インサイダー側のEUやIMF、欧州中央銀行、独仏政府を相手に、ギリシャ国民を守るためにアウトサイダー側に立って戦い抜いた回顧録だ。
一方こういう告発に対して、インサイダー側からはヤニス・バルファキス個人やギリシャの怠惰な国民性、当時の政権へのスキャンダラスな叩き記事で感情論に訴えて、彼らは信用に足りない、との印象操作が怒涛のごとく連打されることもコンテンツ消費者としては留意しておきたい。つまり、政治に関係のないスキャンダルや証明できない情緒的な叩き記事などで騒がれている政治家は、インサイダー側から総攻撃を受けるほど「仕事をしている(既得権益と戦っている)」というシグナルなのである。 -
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ギリシャが破綻する間際の2013年の財務大臣に任命された著者がトロイカ(IMF,EU、ECB)を相手にしてギリシャの未来を守るために侃侃諤諤の議論をして戦い抜いたノンフィクションです。小説調で進んでいくので大変読みやすいです。このノンフィクションでは、小説ではとても書けないようなギリギリの状況で交渉を行ってきたことが描かれており、まさに事実は小説より奇なりです。仲間の裏切りで追い込まれても追い込まれても、なんとかギリシャの有権者の為に尽くそうという著者の献身には尊敬に値するものがあります。この本は、のちの若い人がギリシャの破綻の経緯を知るための貴重な本だと思います。
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【偉大な悲劇作家たちが教えてくれたように、最高の権威とまったくの無力さの組み合わせほど、悲惨なものはないのだ】(文中より引用)
金融危機の最中にギリシャのチプラス政権の下で財務大臣を務めたヤニス・バルファキスが記した回顧録。EUエスタブリッシュメントとの行き詰まる交渉から政権内での駆け引き、そしてあるべきヨーロッパの姿に到るまでを縦横無尽に語り尽くしています。原題は、『Adults in the Room: My Battle with Europe's Deep Establishment』。
上下段組みで500頁超えという圧倒的な分量ですので、分野に興味がない読者にとってはとっつきづらいかもしれませんが、文句なしに圧倒的なインサイダー情報が得られる一冊。国際金融や欧州情勢のみならず、民主主義や財政の問題などについても広く考えの糧を与えてくれる読書体験でした。
素直に読んで良かったです☆5つ