松家仁之のレビュー一覧
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毎年夏に事務所機能を移転する浅間山のふもとにある、設計事務所の山荘「夏の家」。新卒入所の主人公が、この山荘で過ごすひと夏の時間が静かなタッチで描かれていて、自分も軽井沢の澄んだ空気の中にいるような気持ちになりました。
三度の食事の支度や買い物、掃除洗濯、山の日々の暮らし。日常を丁寧に過ごすことが建物を創ることに繋がっていくのかもしれない。設計の専門的なことはわからないけれど、レトロ建築が好きなので、ずっと残っていくものを創る意味についても考えさせられました。
読み終わってもまだ「夏の家」にいるような余韻が続いています。
美しい小説でした。 -
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戦後10年ほどを経てようやく社会が軌道に乗り、戦災で焼け落ちた皇居の新宮殿を造成する話。天皇皇后、皇太子、皇族、宮内庁、建設省、大蔵省、通産省、文部省、東京都などの職員、ゼネコン(と大工さん)、建築デザイン事務所など、非常に複雑な思惑が絡み合う。それだけなら、ああみんな勝手なことを言うし、ポジショントークだし、我田引水だし、そんななかで情熱を持った主人公が頑張って素晴らしい宮殿を建てましたとさ、めでたしめでたし。と言う陳腐な小説になるところ。本作は、複数の主人公の生い立ちから青年期に経験した数々の出来事(空襲体験、留学、メダカを買うことなど)、浮気も含めた日常生活、食の好みまで描いていことで、
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ミア・ファローが、じっとこちらを見つめている。その右頬あたりに白抜き、横書き三段組でタイトル。同じフォントの漢字の上に小さくローマ字を添えた作者名。映画かファッション関係の雑誌のような装丁だが、著名な編集者でもある著者三冊目の小説である。なぜ表紙がミア・ファローなのかは読めばわかる。処女作が軽井沢、二作目が北海道、そして今度は吉祥寺。舞台となる町や村にある種の選択眼が働いているようだ。
岡田匡は四十代後半の雑誌編集者で、金融関係の研究所に勤める妻と離婚したばかり。息子はアメリカ留学中で卒業後も海外で暮らす。マンションは妻に明け渡し、自分は井の頭公園を見下ろす古い家を改装して住むつもりだ。優雅 -
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ネタバレ下巻。新宮殿建設は牧野の暴走に伴って歩調が合わなくなり、ついに村井は設計者の立場を降りる選択をすることになる。上巻から皇帝とはどのような存在か、宮殿とはどういう建物であるべきか、などの問いが繰り返し作中で語られているが、登場人物たちの考え方のずれが致命的になっていくのを見せつけられるようだ。
牧野の暴走と暴言は本当に読んでいて嫌な気持ちになって読むのがしんどくなったが、侍従の西尾さんのパートの軽さに救われる感じがする。とにかく壮大な小説で、この時代を生きてきたような人ならさらにこの小説を楽しめるのかもと思った。緻密な構成に溢れるような専門知識、実在の人物の人柄をちょっとした会話などからにじませ -
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ネタバレ焼け落ちた明治宮殿に代わる新宮殿を建てるという大仕事、宮内庁の杉浦と建築家村井を中心として、様々な人々が書かれる重厚な群像劇。「火山のふもとで」の前日譚ということで、村井の生い立ちや登場人物たちの若かりし頃の話が読める。村井と衣子との不倫がなんの罪悪感もなく気軽におしゃれに描かれている(下巻の紹介「恋人」じゃないだろ、愛人か不倫相手と書けよ)のがイラッとするが、いかにも松家さんの作品という感じでもあるな。衒学的なところもまた、いかにもって感じ。
建築は全然わからないし、天皇や日本現代史は全く興味がなくて小学生レベルの知識すらない始末なのだが、それでも面白く読み進められるのはさすがだ。このボリュ -
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50手前の編集者の男が妻とアメリカ留学した息子を持ちながらも離婚をする。周囲からは子育ても終わっての一人暮らしでゆうがだなと羨望を持ったか言葉もかけられる。離婚前にしゃないでの不倫相手と別れていたが、離婚後再会し、付き合い始める。井の頭公園の近くの古い一軒家をかり、大規模改修して住み始める。大家の七十過ぎの女性はアメリカにゆき息子と生活をしている。不倫相手だった三十半ばの女の父が脳梗塞で倒れ認知症に侵され始め、彼女と一緒に生活をし介護をもうしでるが、彼女からは良い返事がない。
50手前の男の心模様を描いた小説である。肩を凝らずに松家仁之の「火山のふもとで」とは異質のシチュエーションの本である