松家仁之のレビュー一覧

  • 天使も踏むを畏れるところ 下

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     上下二冊本の長篇天皇小説。著者のデビュー作『火山のふもとで』の前日譚にあたるという。いちおう読まないといけないか。
     物語としては、1968年に完成した皇居新宮殿の設計と建築をめぐって、「戦後天皇制」をどう表象するのか、「天皇」が現前する空間をどのように体験させるのか、設計者の建築家と予算を仕切る宮内庁の担当官、「技術」一辺倒の建設省の若い技官とが陰に陽にしのぎを削り合うプロセスが読みどころになっている。特定の視点人物の語りで一貫させず、立場の異なる人物それぞれに語りを担わせてそれを組み合わせていくというスタイルだが、不思議と多声的なテクストとは感じられない。その点がこの小説のポイントであり、問題点だろう。

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    2025年04月28日
  • 火山のふもとで(新潮文庫)

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    四季折々の自然と、人の暮らしと共にある建築設計が、透明感ある静けさをもって描かれていて、とても美しかった…
    主人公が強い意思でもって物語を引っ張っていくタイプの小説ではないけれど、彼らを取り巻く北軽井沢の動植物や火山、実直であたたかみのある建築を生み出す所員らの真摯な仕事振り、作中随所に散りばめられている名だたる建築家、芸術家、作曲家らのマスターピースの気配が、小説全体に深みを与え、高原の心地よい風のように、読者の胸を吹きすぎていく
    続けて前日譚も読みます

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    2025年04月24日
  • 沈むフランシス(新潮文庫)

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    いきなり物騒な始まりですが、中は至ってまともな恋愛小説。
    都会に疲れ北海道の寒村で郵便配達を始めた女性と、小水力発電の管理をする謎の男性。あるいみ、ごく有りがちなストーリー。主人公の女性のキャラクターだけ綺麗に立って、周り登場人物が全体にぼんやりした感じがありますが、何と言っても素晴らしいのはその文体。奇を衒うでもなく平易な文章なのですが、何故か染み込んで来るます。
    『火山のふもと』程の充実感はありませんが、これはこれで良い小品です。

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    2025年04月16日
  • 沈むフランシス(新潮文庫)

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    なんという綺麗な本なの。
    聞いている音を通して、実際はわたしはただ活字を読んでるだけなのに、景色がとても鮮明に美しく広がる。


    清少納言の枕草子
    「春は、あけぼの。やうやうしろくなりゆく山やまぎは、すこし明あかりて、紫むらさきだちたる雲くもの、細ほそくたなびきたる。」
    に通じるものがある。

    本作
    「春はまず空からやってくる。」
    「抜けるような青空でもなく、雪を生むぶ厚い雲でもない、かすみで薄ぼんやりした白く明るい空が広がるようになった。」



    御法川さんが見た夕焼けのシーンでは、自然と涙があふれてた。
    目の前は本なのに、御法川さんの言葉でわたしのまわりが雲とオレンジの夕焼けが広がった。
    その後もね。御法川さんの「無理をして起きあがろうとは絶対にしないこと」の言葉に涙があふれた。

    呼吸を聞くだけでも、いろいろなことが分かる。
    そう、緊張してると呼吸って浅くなるもんね。
    でもその音に意識を向けたことってあったかな。
    自分自身にも、かかわっている相手にも。



    かたちあるものはいつか消えてしまう
    消えたものは、かたちを失うことでいつまでも残る

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    2025年03月26日
  • 火山のふもとで(新潮文庫)

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    昔の良質な日本映画を見ているような感じがした
    登場人物が頭の中で勝手に、岡田英二、原節子、三国廉太郎、高峰秀子の姿で動くので、とっても楽しかった

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    2025年03月19日
  • 沈むフランシス(新潮文庫)

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    連綿と続く川の流れの中で意図せず出会い意図して一緒に過ごすことを選んだふたり。
    フランシスに堰き止められ灯りを灯し続ける未来が垣間見えた矢先に沈むフランシス。
    連綿と続く川の流れの中で今度はふたり離れずにどこまで寄り添い流れるんだろうか。
    そうかもしれないし枝分かれする川の流れに逆らえず手を離してしまうかもしれない。

    流れてときにとどまる煽りだけは確とした揺るぎない自分自身ですよね覚束なくとも。

    …ジャケ買いしたんですが。
    (雪の結晶鼻に乗ってるし…)

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    2025年03月17日
  • 火山のふもとで(新潮文庫)

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    丁寧かつ親密な手紙を読むような多幸感。綴られる文章は的確で、その場に自分が居るように情景が浮かぶ。緩やかな時間の流れと感情の機微を捉えるディテール。建築への愛情、仕事への情熱、寡黙で誠実な師への尊敬、才能への嫉妬、秘めやかな恋。隅々まで繊細な為、読み進めるうちに少々疲れてくるが、清冽ながら密度の濃い読書時間を過ごせた。

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    2025年03月16日
  • 沈むフランシス(新潮文庫)

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    松家仁之『沈むフランシス』新潮文庫。

    デビュー作の『火山のふもとで』を皮切りに本作の『沈むフランシス』『光の犬』と、3ヶ月連続で新潮文庫から刊行されるようだ。

    タイトルの『フランシス』とは一体何か。表紙に犬かキツネのような生き物の顔の写真が掲載されているが、これが『フランシス』ではない。読んでみてのお楽しみなのだが『フランシス』とは全く予想外の意外なものだった。

    自然豊かな北海道の小さな村を舞台に描かれる男女の恋愛の物語。静謐な自然を背景に儚くも、綺麗ごとだけでは済まない恋愛の形が少しずつ明らかになっていく。

    他人との付き合いに煩わされることなく、自分のことなど誰も知らない自然豊かな田舎でひっそり暮らしたいという主人公の撫養桂子の気持ちはよく解る。自分も昨年、隣近所の無い田舎の中古の平屋に住み始めた。地域の住人とは最低限の付き合いをすれば良いし、他人の目など気にしなくとも良いので、非常に楽である。

    本作に描かれる撫養桂子と寺富野和彦の30代半ばの男女の肉体を優先する恋愛関係も解らないでもない。恐らく2人は結婚などという形式的なことなど頭には無く、残された若さを肉体的なつながりで費やしたいと思うのだろう。


    都会での仕事を35歳で辞め、男とも別れ、北海道の小さな村に郵便局の非正規社員となった撫養桂子は郵便配達をする毎日を送っていた。やがて、桂子は川辺に佇む木造家屋で世界中で収集した音をオーディオで楽しみながら暮らす37歳の寺富野和彦と知り合う。2人は急速に惹かれ合いながら、身体を重ね合う日々を送る。

    桂子は、和彦の噂を耳にすると共に和彦に対する疑惑から心が揺れ動きながらも、肉体は和彦を求めていた。やがて、村を嵐が襲い、和彦の川辺の家にも危機が迫る。


    読んでみるとデビュー作の『火山のふもとで』の出来が良く、そこまでのレベルではないが、巧い小説であると思う。

    本体価格550円
    ★★★★

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    2025年03月04日
  • 優雅なのかどうか、わからない

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    前に井の頭公園の近くに住んでいたこともあり、映画のように映像が浮かび上がってきたわたしはラッキー!
    松家さんの作品は3作目ですが、わたしの中での評価はこんな感じです。
    火山のふもとで>優雅なのかどうか、わからない>沈むフランシス

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    2021年02月04日
  • 新しい須賀敦子

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    確かに、何度も読みたくなる文章というのはあんまりないし、それが ”いい文章” ということだと思う。

    須賀敦子の文章は、時々読み返したくなるし、何度でも読みたくなる。

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    2016年05月18日
  • 新しい須賀敦子

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    須賀さんの魅力がぎっしり詰まった本書は、2014年に神奈川近代文学館で開催された
    「須賀敦子の世界展」に付随するかたちで行なわれた対談や講演を軸にまとめられたもの。
    文章を書くためには「ある種の力が湧いてくるまで」ひとりで考えること。それがはやくから分かっていた須賀敦子さんだったからこそ、執筆にとりかかるまでに時間が必要だったのかもしれないけど‥作品を通じてもっともっとお会いしたかったと思う。

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    2016年03月08日
  • 優雅なのかどうか、わからない

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    ネタバレ

    離婚して古い一軒家を条件付きで借りることになり、
    自分好みにリフォームを進めるなかで、既婚時代に付き合っていた佳奈が近所に住んでいる事実がわかった。

    アメリカに留学中の手のかからないできた息子には、同性の恋人がいて、
    佳奈の父の手術後の認知症が進行するのを見守り手伝いながら
    気ままな野良猫のふみの愛想の良さに和む日々。

    季節が変わる頃には、改装した一軒家も大家さんの都合で引き渡さなければならなくなり
    佳奈との関係も曖昧なまま、ふみとの別れ。

    一見優雅だろうけれど、孤独でもある。
    岡田氏が説明することにたいして、別れた妻がそんなに得意になって説明しなくていい、
    ってところがたしかに男の人ってそういうところあるかもってわろたw

    佳奈の魅力、父の介護の大変さ、猫のふみちゃんが死んでしまったところは涙出そうになった。

    だけど生活を疎かにしない感じが、いいね。)^o^(

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    2015年07月07日
  • 優雅なのかどうか、わからない

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    2作目同様、中編くらいの軽い小説なので、やはり物足りなさを感じる。ストーリーはやや妄想に近いけど、文章が巧いので今回も楽しめた。村上春樹のように比喩が独特で、料理を作って食べたくなる(笑)
    2作目のレビューでも書いたけど、次作こそ長編を期待しています。

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    2015年04月20日
  • 優雅なのかどうか、わからない

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    40代男の悶々とした日常。そこが丁寧に綴られていてイイ!登場する女性陣に言われる様々な事にまたまた悶々とする描写が良かった。

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    2015年04月11日
  • 優雅なのかどうか、わからない

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    おしゃれで、結局は優雅なんじゃないの!とやっかみ感を残すような作品かと思ったが、様々なことが起き、テンポの良い展開で一気に読めた。が、結局は不景気といえども高給取りの悠々自適な生活じゃないと思ったり。
    不倫の恋に終わりを告げ30半ばで父親と二人暮らしを選択した

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    2015年03月03日
  • 優雅なのかどうか、わからない

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    離婚からマンションを出て古い一軒家へ移り住む。
    上司から「気ままなひとり暮らし。これを優雅と言わずしてなんと言う」と言われる。
    かっての恋人、佳奈との再会。
    どう向き合えば良いのか。48歳の現実がそこにはある。
    日々の暮らしが静かに、そして丁寧に描かれる。
    優しい文章の中に男臭さが感じられる時もありハッとさせられる。次回作がもう待ち遠しい。

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    2014年12月05日
  • 天使も踏むを畏れるところ 上

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    慌ただしく読んだので勿体なかった
    この時代の建築に関する歴史人情もの、好きです
    昭和天皇以前の皇族の系譜を知らないので人物の多さに少しストレスを感じた
    が、それでも「下巻はパス」とはならないほどの力のある本だと思う

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    2026年08月12日
  • 火山のふもとで(新潮文庫)

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    毎年夏になると避暑として夏の家に数ヶ月間大移動をする事務所に入った建築家の卵を主人公に、建築、恋愛、料理、物作り、壊されるもの、気付かれない拘りなどなど、丁寧に向き合っていく生活?人生?のお話。
    最初は何読んでるんだろう…?の気持ちになったけど300ページ越えた中盤から妙におもしろくてどんどん読んでいた。

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    2026年06月30日
  • 天使も踏むを畏れるところ 上

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    第二次世界大戦で焼け落ちた明治宮殿。戦後15年経った後にようやく新宮殿を造営することになり、それに関わった建築家の村井俊輔(吉村順三がモデル)とその周囲の人々を丁寧に描いた作品。

    題材がとても興味深いのと、小説としても面白いには面白いのだが、描写が丁寧すぎて、退屈だなぁとどうしても思ってしまう部分も多い。

    建築が好きな人にはおすすめ。吉村順三、東山魁夷、谷口吉郎、丹下健三等を明らかにモデルにした人物が出てくる。
    ただ皇居の宮殿は一般人が入ったり近くで眺められるような種類の建物ではないため、小説にある設計の検討過程と実際に建築された建物との「答え合わせ」が読みながら出来ないのが、少し辛いなあと思った。

    昭和天皇が敗戦後15年間も、「御文庫」という、戦争の爆撃を生き延びるためだけにつくられた防空壕のような、住み心地最悪のコンクリート構造物に住んでいたとは全く知らず、とても驚いた。

    また戦前は現御神であった天皇の存在が、戦後には「象徴」と形を変えたことで、象徴としての天皇を示すにふさわしい皇族のあり方を踏まえた宮殿の設計、というテーマがとても面白いと思った。

    皇居に面したオフィスで、毎日皇居を見ながら仕事をしているだが、そんなふうに皇居の中の建築について考えたことがなかったので、目から鱗だった。

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    2026年02月23日
  • 天使も踏むを畏れるところ 上

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    先の大戦後、新しい皇居=新宮殿がいかなる顛末で建てられたのか、建築家をはじめ宮内庁の職員、侍従など、その難事業に関わった様々な人々の生き様を交えながら、事実をベースにフィクションとして再構築して描く、なんとも濃厚な物語。
    天皇家の面々の一般人には見えなかった姿も(それが事実かは別として)赤裸々に描かれていて、戦後新しい皇室を模索しながらも、“民間”ではない戦前の皇室と、“民間”を受け入れた戦後の皇室の軋轢などはさもありなんと思わされた(美智子様、雅子様の苦労よ。。)。
    しかし、主要な人物の個人的な生き様まで詳細に記述されるため、あれ?これ新宮殿建てる話しだよな?と本題どこいった状態になりがち。まぁそれはあとで、そういう人だから、そういう思考をするのだと納得に繋がるわけだけど、それにしても本題の進みが遅すぎたのがもったいなかった(まだ下巻あるし)。

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    2026年01月28日