かげはら史帆のレビュー一覧
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オーディブルにて
軽い気持ちで聴き始める、軽い集中力で聴けるものの、内容はものすごく深く、緻密な研究の積み重ねの上にあることが素人でも分かる。歴史スペクタクルでありながら、人間の滑稽さや歴史の皮肉に笑ってしまったりほっこりしたり。ベートーヴェンも生身の人間だったんだな。
作者がシンドラーに対してもベートーヴェンに対しても冷笑的でシニカルな距離感なのがとても新鮮で面白く、でも結局のところ(とりわけ主人公シンドラーに対して)深い愛があるのがなんかよかった。
シンドラーにしても、アメリカ人青年にしても、捏造を最終的に暴いた人にしても、そして作者にしても、生涯をかけて他人の人生を丹念に研究するとい -
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面白かった!
ベートーヴェンの秘書を務めていたアントン・フェリックス・シンドラーという男がベートーヴェンの名誉を守るため、そしてちょっとだけ自分を良く見せるために、さまざまな人がベートーヴェンとの会話に使用された「会話帳」を独占して、かつ内容を改竄するという大それた行動に出るのだ。
シンドラーはベートーヴェンを守るために証拠品に手を加え、ベートーヴェン伝を出版する。
でも。改竄はベートーヴェンが生きている間にも十二分にしてきたのだろうと思う。自分の頭の中で。
ベートーヴェンという大物に尽くす自分、頼りにされる自分、常に美しい主従関係をイメージしながら生きていたのだと思う。
そしてそれをベー -
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積読をしていたら、何と文庫化されてしまった。というわけで、読み始めたのだが、これが滅法おもしろかった。
ベートーヴェンといえば、いかつい目つきにモジャモジャ頭…。小学校の音楽室に必ずといっていいほど飾られた肖像画を連想する。そして、授業や書籍で語られてきた印象的な数々のエピソード。「運命はこうして扉を叩く」という台詞は、音楽に疎い私でも知っている。ところが、そうしたエピソードは、ベートーヴェンの秘書アントン・シンドラーによる伝記に由来し、実はそのほとんどが捏造されたものだった。
ベートーヴェンが若くから難聴を抱えていたことは有名で、コミュニケーションはノートへの筆談に頼っていた。ベートーヴ -
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ネタバレ宮部みゆきさんの推薦コメント「徹夜本です。」の帯文も強烈な印象の文庫新刊。
我々世代が子供のころに読んだ子供向けベートーヴェンの伝記は、交響曲5番がなぜ運命と呼ばれるかとか、不滅の恋人へのラブレターは誰に書いたのかとか、テンペストの命名由来とか、8番シンフォニー第2楽章がメトロノームを作ったメルツェルと関係があるだとか、あとなんといっても甥のカールの自殺未遂事件が、カールの悪行、放蕩癖などベートーヴェンの悩みの種の末の事件だったりとか、魅力的なエピソードにあふれてました。だからそういった知識で子供なりのベートーヴェン像ができあがったのだけど、そのほとんどが1人の男による捏造であり、その顛末を史 -
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著者の修士論文をもとにノンフィクション小説らしく書き直された作品とのことで、内容は大変読み応えがあり最後まで興味深く拝見しました。
これまで全く知らなかった事実を目の当たりにして驚きの連続でした。
これは本当に面白い作品です。
誰もが知る偉大な音楽家ベートーヴェン。
交響曲第5番を聞けば「あ、運命っていう曲だ!」と思い当たる人がほとんどだと思います。
あの有名なフレーズの「ジャジャジャジャーン」は運命以外の何者でもないですよね。
それが捏造だったなんて!!!!!!笑
ベートーヴェンが後世にも語り継がれるほどの偉大な音楽家になったのは、名プロデューサーであるシンドラーの功績(?)だったので -
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語り口がカジュアルで、俗語も使われたりするので、ベートーヴェンの体裁を守るためのドタバタコメディのように感じる部分があり楽しめた。
耳が聞こえないベートーヴェンだからこそ、会話帳が存在し、それを元に捏造できるという特殊な状況がおもしろい。
自分がもつ、天才音楽家ベートーヴェンへのイメージが壊れたら嫌だったけど、捏造はどちらかというと素行の方面の話だったので安心した。
シンドラーの捏造は罪だけど、愛ゆえの狂気というか、それほどまでに人を熱狂させる特別な魅力がベートーヴェンならばあったのだろう。
むしろ、歴史上の偉人の中にも、名プロデューサーによって聖人君子にされている人がいるかも。