小田嶋由美子のレビュー一覧
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アルコールと煙草漬けの両親に育てられ、自身もアルコール依存症のリハビリを受けたことのある精神科医が、経験談を交えながら酒や薬物に依存する人びとと社会の歴史を辿っていく。
依存症の経験を持つ医師が依存症治療の歴史をまとめた、いわゆる当事者研究というやつで、まずいきなり結構ヘビーな著者フィッシャーの入院体験とカミングアウトから始まる。
でもカタい本ではない。とてもフランクな語り口で、アルコールが自分をダメにしていると認められなかった逡巡の日々を綴ったエッセイとしても面白いし、酒と薬物という切り口で見たアメリカ史としても超面白い。最近読んだなかではレベッカ・ソルニットの『ウォークス』に編集意図が -
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ネタバレ依存症当事者の精神科医著。
自身の体験も絡めつつ、依存症を取り巻く治療の変遷、政策と問題点、依存症に対する社会的な価値観とそれらがどう作られてきたのかまで深く掘り下げて書かれていてとても面白かった。
↓特に好きだった所
「依存症供給産業」が安全だと信じこませるために、その悪影響への疑いを持たせる。悪影響がある人と無い人がいて、薬物の影響ではなく個人の責任とした。p.35
依存症者は病人であり、法が「病気を犯罪とし、病人が病気であるからと罰せられることを許す」とした。それは「残虐な行為」である。p225.1
私自身が回復し始めたころ、特に問題はなかったが、それ以上ではなかった。p309.23 -
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「ワクチンは打たれる側にとってはわけのわからない液体である。自分の体に入ってゆく液体がただの生理食塩水か、劇薬か、それとも未来の自分と他者を守る液体かを確かめるすべはない。自分がある病気に罹らなかったのはワクチンのせいなのか、単に運がよかったからなのかを確かめるすべもない。そのような不確かな状況においてもなお、その液体を体内に入れることを決断させるのは、注射器の中の液体が自分にとっても他人にとっても意味があるという暗黙のあるいは意識的な確信である。その確信は、ワクチンを接種する医師、配布する行政、それを作り出す企業、そして社会全体へと続く期待と信頼によって生み出され、支えられる。だからこそ、
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【麻酔薬を投与するとき、私はいつも患者に「一〇〇からカウントダウンしてください」と言う。私の経験では、九〇より先まで数える患者は一人もいない】(文中より引用)
もはや現代の医療に欠かすことのできなくなった麻酔。その発明に至るまでの歴史を振り返りつつ、麻酔科医がどのような問題意識を抱えながら職務に臨んでいるかを垣間見ることができる作品です。いまだに麻酔がどのようなメカニズムで効くのかが完全には解明できていないというのは驚きでした。著者は、小児科を専門として年間1000人以上の子どもに麻酔処置を施しているヘンリー・ジェイ・プリスビロー。訳者は、翻訳家として活躍する小田嶋由美子。原題は、『Coun -
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ヘンリーマーシュは権威あるイギリスの脳外科医でウクライナとも関係のある人物。本書は、自身の進行性前立腺がんの診断後の体験を綴ったエッセイ。医者としてのマーシュが患者としての視点から、がんの検査や治療の過程、死への恐怖と向き合う日々を赤裸々に描く。教養溢れる内容で、睡眠科学や進化人類学、量子力学などの幅広い知識も織り交ぜながらの記録であり、勉強にもなった。
― 標高二五〇〇メートルを超えると、急性高山病が発症することがある。一部の人が他の人よりもこの病気を発症しやすい理由や、同じ人が場合によって発症するときとしないときがある理由はわかっていない。しかし、チベットの人々は低地人とは異なるDNAを -
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現在のコロナ禍は2年以上が過ぎ、やや落ち着いてきた印象もあるが、なお完全終息からは遠そうだ。
終息に向け、ワクチン接種が推奨され、3回目の接種も進みつつはあるが、一方で、ワクチンについては強く反対する人も一定数存在し続けている。
本書は、コロナ禍に合わせて刊行されたかのようなタイトルだが、実は原著はコロナ以前に書かれている。最終稿が脱稿されたのが2020年の1月末、その数日後にWHOが新型コロナウイルスに関して緊急事態宣言をした、というタイミングだった。
つまりは、ワクチンに関する「噂」、それに関連する反ワクチン運動というのは、以前から繰り返されてきたということである。
著者はそれを「生態系 -
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ネタバレ下北沢B&Bにて購入。麻酔科医は何をしているのか?という副題はちょっとミスリーディングかもしれないと感じた。これは、プロフェッショナルがプロフェッショナルとして何を行動規範としているのか?ということに関しての文書であって、その題材が、たまたま麻酔科医であるということなのだと思った。このプロフェッショナル感がたまらないのだが、このようにプロフェッショナルとしての倫理を彼が何故磨いたのか?
麻酔導入に使われる笑気ガスを吸うと何故人は意識を失うのか?のメカニズムが全くわかっていないという。この事実が一つ倫理観を磨き上げる理由となっている気がした。 -
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前著『医師が死を語るとき』では、脳外科医としての日々の医療や、友人医師を助けるためのネパールでの奮闘やウクライナにおける活動といった、医師としての著者がどのようなことを感じ、考え、治療に当たってきたかが第一の読みどころであったが、気に入って購入したオックスフォード運河沿いのコテージのリフォーム作業に勤しむ愉しさを語るマーシュ先生の姿も微笑ましかった。
そんなマーシュ先生が前立腺がんの診断を受けてしまう。医師として多くの患者に対してきたマーシュ先生であったが、今回は自らが治療を受ける老いた患者の立場になった。”死”を身近に感じるようになってからの死への恐怖が率直に語られるほか、死について著者