山野辺太郎のレビュー一覧
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これはSFなのか、はたまた壮大なコントなのか…
いや、すごいわ。
文章だけみれば、非常に真面目で熱いものがあり一見熱血サラリーマン小説を読んでいるのかと錯覚してしまいます。
しかし根底にあるバカバカしさが常に脳裏を過ぎり、ワタシは一体何を読まされているのだろうと…。
筆者のデビュー作とあるが、文章は非常に巧みで上手。が、その上手さがバカバカしさに一層の拍車をかけているのが余計にタチが悪いなと。
しかし、何はともあれめちゃくちゃオモロいです。
人を選ぶ小説だとは思いますが、普通の読書に飽きた方はぜひ一読あれ。唯一無二の読後感を味わえます。
未曾有の読書体験をさせてくれた本書に感謝感謝。 -
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孤島の飛来人
2025.08.06
歴史ファンタジー?初めて読んだジャンル。歴史物が得意でない私にもかかわらず最後まで飽きずに読めた。ファンタジー要素が多いのに会社員の堅苦しい考え方もあって不思議な感覚。
ここでは軽量化こそが至上命題だった。もっと軽く。極限まで追求が求められ、ついに風頼みの域にまで達した。すでに大航海時代には、人々は風の力で世界中を渡っていたのだ。
この文章によって、吉田さんの風船での飛来という情けないことを実行している自分の部署に対し、虚しく思い馬鹿にするようなまたは嘲笑うような気持ちと誇りを持って取り組む気持ちの対立が表現されていて面白かった。
そして、『時代は繰り -
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奇想天外のお仕事小説。おバカ計画「日本ーブラジル間をつなぐ穴」のプロジェクトに挑む大人たち。「そんなん無理って小学生でもわかるやん!」なのだけれど、もし実現したらという世界線を極めて冷静に真摯に描き切ったのがこの作品。
裏金とも言える予算をつけてもらい、極秘プロジェクトとして進められる計画。その広報係として、真面目に仕事に向き合う主人公・鈴木。
極秘プロジェクトの広報係というのがポイントで、世間に発表できることが何もない。自分は果たして必要なのか。広報にすら知らされない進捗状況に頭を悩ませながら、穴まわりで起こる出来事や出会いを日記という形で文字に残し続ける。果たして勤勉だと言えるのか、仕 -
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ある1人の男性の半生を、いろんな目線で楽しめるお話だと感じました。
所々で視点が変わり、一つの物語、一つの人生には様々な人の想いや考え、それこそ人生が関わっていて、読者である私もこの本の中で誰かとなって生きていたんだと読んだ後に何となく感じました。
主人公のラストは衝撃的で、すんなりと納得がいくものではありませんでした。
でも、ある意味それは人が生きてる上で、
誰かの期待通りには進まなくて、終わらなくて、でもたまに好きな展開もあるけれど、終わりは期待を裏切られることもある。
つまり、人(物語)の終わりには、その後の物語を自分なりに紡げるんじゃないかって考えたんです。
その物語の続編が気に -
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ネタバレ誰もが一度は思う、ブラジルまで穴を掘っていけるのかと。そのバカバカしさを真面目に小説にした本書だが、最後の最後までその冗談めかしたトーンは続く。だが、穴を掘っていく過程の所々に散りばめられる実話っぽい挿話や情報。それは戦時中の人間魚雷や戦後の南米からの日系人出稼ぎの話であったり、中国からの研修生やはたまた東日本震災後の実情であったりと、必ずしも明るい話題ではないのだが、これらが事実に裏打ちされているだけに、バカバカしさが度を越さずに現実の範疇にとどまっていそうに思わせてくれる。
それにしてもバカバカしいと思いながら読み進めさせてくれた愛すべき主人公の最後がこれって。いきなり虚無感に突き落とされ -
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ネタバレこれは、単にトンデモ計画に振り回される人々の話として読むか、SFとして世界観を受け入れるかでかなり印象が変わる本だと思った。
SFであると感じた理由として、作中に登場した登場人物は皆(基礎研究者ですら)、この計画は「原理的に無理」とは言わず、「やってみないとわからない」と考えているというところにある。もし通常の世界であれば、義務教育で地球に穴を開けられないことを理解できるだろうし、こんな計画もアイデアも、初期の段階で「〜だから無理」と1人でもいえば終わっていただろう。「上がやれと言ったから」という理由ができる前(計画が走る前)ですら誰もそれを指摘しなかったのは、もしかしたら本当にやってみないと -
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面白かったー!
暗くない小説が読みたいと思い、そうだ穴を掘る物語の作者だ、と閃いた私を褒めたい。大当たり。
この作者さんの著書はまだ2冊しかないが、頭の良い人程説明が上手なように、本当に読みやすい。
そして何より真面目なのが良い。
風船で横浜から父島を目指す。
こんな設定なのに不思議な説得力。
読んでいて何故アホらしくならないのだろう。何故夢中に一気読みしてしまうのだろう。
細かいところはツッコむ気にもならない、ツッコまないで読み進めてしまう魅力がある。
海亀と満天の星空。
ひっそりと暮らす緊張感と同時に混在する安らぎ。
戦争の続きを生きている小島で閉塞感に満ちているはずが、若者は伸びや -
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東北の大きな街の丘の上にそびえ立つ、巨大な全身純白の大観音。その大観音が傾いていると言って大観音の足元を懸命に押して傾きを直そうとしている老人達。市役所に勤める新人の修司は市民の声を聞くために大観音を訪れ、様々な人達と触れ合っていく……最初は奇想天外な発想の市民たちの苦情に振り回される新人職員のお仕事小説かと思っていました。完全に笑おうと思って読み始めた物語。結果、全く違うトーンの物語でした。
そもそもなぜ大観音が傾いていると思う人達が現れたかというと、その背景には東日本大震災があるのです。大観音を取り巻く人達の話を聞いていると、震災での辛い経験がポロポロと出てくる。皆がそれぞれ何かを抱えてい -
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ユーモアと愛情に溢れる風変わりなお仕事小説。
主人公の高村修司は、東北の大きな街の市役所に新入職員として採用される。彼のいる出張所の近くには、異様に大きな観音像が立っている。あの大震災をきっかけに、住民のなかに「大観音が傾いた」という者たちが現れ、その足元を押す者、爆破することを進める者が出てくる。修司はさまざまな人々に出会い、対応策に奔走する。
大観音の傾きについて、大真面目に対応を考えるというユーモアさがベースにありつつ、震災で受けた悲しみがリアルに迫り、なんとも言えない不思議な感情になりました。作中で大観音の心の声が聞こえてきますが、東北弁の温かさの中に心中の切なさが混ざり、涙なしでは読