【感想・ネタバレ】いつか深い穴に落ちるまでのレビュー

あらすじ

だって、近道じゃありませんか。戦後まもない日本で、ブラジルまで直通の穴を掘る前代未聞の新事業が発案された。極秘事業の「広報係」となった鈴木一夫は、計画の前史を調べ、現在まで続く工事の進捗を記録していく。地球の裏の広報係との交流や、事業存続の危機を経て、ついに「穴」が開通したとの報告を受けるが……。奇想天外な発想力で多くの本読みたちを唸らせた、唯一無二のサラリーマン小説。第55回文藝賞受賞作。

この小説は、突拍子もないのに生真面目で、奇妙なのに誠実で、愛おしいけれど残酷な、私にとって忘れ難い物語でした。 村田沙耶香氏
作り込まれたリアリティーと荒唐無稽なファンタジーの狭間を行き来する異空間的小説。 ニシダ氏(ラランド)

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

これはSFなのか、はたまた壮大なコントなのか…

いや、すごいわ。
文章だけみれば、非常に真面目で熱いものがあり一見熱血サラリーマン小説を読んでいるのかと錯覚してしまいます。
しかし根底にあるバカバカしさが常に脳裏を過ぎり、ワタシは一体何を読まされているのだろうと…。
筆者のデビュー作とあるが、文章は非常に巧みで上手。が、その上手さがバカバカしさに一層の拍車をかけているのが余計にタチが悪いなと。
しかし、何はともあれめちゃくちゃオモロいです。

人を選ぶ小説だとは思いますが、普通の読書に飽きた方はぜひ一読あれ。唯一無二の読後感を味わえます。

未曾有の読書体験をさせてくれた本書に感謝感謝。

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2025年11月05日

Posted by ブクログ

奇想天外のお仕事小説。おバカ計画「日本ーブラジル間をつなぐ穴」のプロジェクトに挑む大人たち。「そんなん無理って小学生でもわかるやん!」なのだけれど、もし実現したらという世界線を極めて冷静に真摯に描き切ったのがこの作品。

裏金とも言える予算をつけてもらい、極秘プロジェクトとして進められる計画。その広報係として、真面目に仕事に向き合う主人公・鈴木。

極秘プロジェクトの広報係というのがポイントで、世間に発表できることが何もない。自分は果たして必要なのか。広報にすら知らされない進捗状況に頭を悩ませながら、穴まわりで起こる出来事や出会いを日記という形で文字に残し続ける。果たして勤勉だと言えるのか、仕事というものに向き合う姿勢を問う小説でもある。

戦後から現代へ続く壮大な物語だった。

あらすじ。
戦後、新橋の闇市で酒を飲んでいた山本。戦争から生き残った自分には「なさねばならぬことがあるはずだ」という使命に駆られている。焼き鳥を食べながら思いついたのは、串に貫かれた肉のように「日本からブラジルまで穴を貫通させる」ということ。理由は近道だから。ブラジル側からのOKの返事、幾度も運輸省で行われた会議を通して、極秘プロジェクトとして事業化が決定したのは山本が亡くなった二ヶ月後だった。

主人公は、新卒すぐ極秘プロジェクトの広報係としてアサインされた鈴木一夫。本作は彼の生涯をかけた長いプロジェクトの広報係に選ばれる。それから計画の前史を調べ、現在まで続く工事の進捗を記録していく。ついに「穴」が開通したとの報告を受けるが……。

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2025年04月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

これは、単にトンデモ計画に振り回される人々の話として読むか、SFとして世界観を受け入れるかでかなり印象が変わる本だと思った。
SFであると感じた理由として、作中に登場した登場人物は皆(基礎研究者ですら)、この計画は「原理的に無理」とは言わず、「やってみないとわからない」と考えているというところにある。もし通常の世界であれば、義務教育で地球に穴を開けられないことを理解できるだろうし、こんな計画もアイデアも、初期の段階で「〜だから無理」と1人でもいえば終わっていただろう。「上がやれと言ったから」という理由ができる前(計画が走る前)ですら誰もそれを指摘しなかったのは、もしかしたら本当にやってみないとわからなかったからかもしれない。

これがSFであると受け入れて読んでいくと、この話が自分にも返ってくるように思う。
戦時中に登場した誉高い人間魚雷は、戦争という目的が消えた後には異常なものとして語り継がれた。
人々の歓声を浴びながら穴に入っていった鈴木を、その計画の外の人たち(記者、読者など)や現場の末端にいた作業員が否定的に見ていた。
この話は、こうした読者すら巻き込んだ入れ子構造になっていると思う。しかし、穴を掘っていた人たちにとって、その計画は生きがいの一つになっていたのでは?穴を掘っている間、彼らはある種幸せだったのでは?

似たようなことは現実でもある。体育祭や会社の大きいプロジェクトまで、「やってみないとわからない」ことはありふれている。もしかしたら自分も、ただの深い穴を掘っているだけなのかもしれない。その結末は、穴に落ちてみないとわからない。

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2025年10月05日

Posted by ブクログ

良いSFの条件は一つだけフィクションがありそれ以外はリアルなものである、と聞いたことがある。
まさにそれだ。

読み物してはスラスラ読めるし面白い。
でも読後感はモヤモヤしてしまった。
この結末から何を感じればいい?と思った

ネタバレ解説をいくつか読んで納得。
自分も読解力が欲しいなと思った今日この頃。

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2025年06月29日

Posted by ブクログ

近道だからという理由で掘ることが決定したブラジルと日本を繋ぐ穴。
穴掘り計画の広報係となった主人公鈴木。

ハチャメチャだけど凄く面白かった。
穴を掘るだけの話でこうも膨らむものかと。
最後の最後まで楽しかった。

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2025年03月18日

Posted by ブクログ

「ブラジルまで直通する穴を掘る事業に携わる人」という発想自体は突飛で、でもそれが粛々と、ときどきふわふわしながら描かれていて引き込まれた。
「おしごと小説」なのかもしれないけれど、
「おしごと」がもつロマンと恐ろしさが、
誇張されずに語られていた。

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2025年01月11日

Posted by ブクログ

日本からブラジルまでの穴を掘るプロジェクトの広報になった男の話

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戦後から現在まで続く「秘密プロジェクト」があった。
発案者は、運輸省の若手官僚・山本清晴。
敗戦から数年たったある時、新橋の闇市でカストリを飲みながら彼は思いつく。「底のない穴を空けよう、そしてそれを国の新事業にしよう」。
かくして「日本-ブラジル間・直線ルート開発計画」が「温泉を掘る」ための技術によって、始動した。

その意志を引き継いだのは大手建設会社の子会社の広報係・鈴木一夫。
彼は来たるべき事業公表の際のプレスリリースを記すために、
この謎めいた事業の存在理由について調査を開始する。

ポーランドからの諜報員、
業員としてやってくる日系移民やアジアからの技能実習生、
ディズニーランドで待ち合わせた海外の要人、
ブラジルの広報係・ルイーザへの想い、
そしてついに穴が開通したとき、鈴木は……。

様々な人間・国の思惑が交差する中、日本社会のシステムを
戦後史とともに真顔のユーモアで描きつくす、大型新人登場。
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穴を掘るというのは何かの比喩かと思ったけど、本当に地球の裏側まで穴を掘るだった

科学的にありえない事ばかりで、終始その非科学的な事へのツッコミで中々物語が中に入ってこなかった

マントルまで到達するようなボーリングをどうやってするのだろうな?
堀った穴をどうやって維持しているのかが謎
マントルという存在や中心部の鉄を無視して岩盤で構成されていたとしても、
長年に渡るプロジェクトのようだけど、それ程の速さで掘れるわけがない

そして、最後のアレ
重力は中心に向かうにつれて弱まり、そこから先は逆にブレーキが掛かるから絶対にああはならないでしょ
そもそも、空気抵抗もあるし、穴がそんなに狭かったらところどころで壁にぶつかるだろうし
ってか、

そもそも、テストの前に開通確認しないの?
人の前に物体のみでテストしたりするし
掘ってる最中に作業員はどうやって現場まで移動してたんだろうね

そんな設定に関する疑問が満載


ショートショートや短編ならこの荒唐無稽な設定も許せるけど
この長さで科学的な考証を無視しているのは受け入れられない

一発ギャグではなく、スベってるシリアスコントを長々と見せられるような気持ちになった

ストーリーで言えば評価は1か0くらいに酷い
どんなに文章力や表現力に長けていると評価されている作品であっても、個人的に気になるところが多すぎて物語に入っていけなかったのはかなりのマイナス

ちょっとウケたのは北の国からの視察のあれこれ
明らかに金正男がディズニーランドに来てたという事件を元ネタにしてる


恐らく、鈴木一夫という男の仕事人生として、無為無謀なプロジェクトのに携わり、無意味に思える作業も誠実に向き合うというのが描かれているのだろうな
その中で、ブラジル側の広報ルイーザとの数少ない接触に反した同士意識という心の交流も



作中でも触れられているけど、人間魚雷を始めとする戦争における無謀なプロジェクトへのアンチテーゼを示しているように思った
根本が間違っていても、それでもまだましな方に舵を切った方がいいというね

当初の目的が何であれ「やる」事が決まると、「やりきる」が目標になってしまう事が多々ある
そもそも、最初から目的なんてものはない場合なんてのもある

荒唐無稽に思えるプロジェクトでも、上からの指示に愚直に従わざるを得ない主人公
その中でもできることをやるという教訓だろうか
だとしたら、もっと他に描き様があると思うんだがな

広報なのに、隠されるプロジェクト情報、上に上げても公開される見込みのない報告
情報が漏洩した際に対応する役割だが、平時はほぼ意味がない仕事
そんな立場でも矜持を持って自分の役割を果たすための仕事をするという物語なのだろうな

ただまぁ前述の通り、設定がザルすぎて私は評価しない

何かに似ているなぁと思って考えてみると
村上春樹の小説に納得いかない感覚に近い事に気づいた
意味深な事柄が何かのメタファーかのように思わせていて、結局は作中で明確にしない感じや、設定と登場人物の行動に違和感を覚えるところ

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2025年10月30日

Posted by ブクログ

独特な読後感。
歯車であることは心地良くて、変えが効くとしても、今この瞬間に自分の存在が誰かのためになってるなら、その人にとって自分というのは唯一無二になるのかなと。

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2025年06月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

日本とブラジルを結ぶ穴を掘り進める事業の広報担当となった男が綴る35年間の記録のお話。

奇想天外な事業の歴史と共に戦後の日本史、世界史が描かれるような内容で、正直事業の内容はほぼ出オチなので、このネタだけでこのボリュームの作品を作り上げたのがすごい。

そんなバカな!という壮大な物語で、最後のオチがちゃんとネタっぽい感じ(でもモチーフの伏線がちゃんとはられてる)のも良い。

中編くらいの長さはあるけど、全体的に星新一っぽいですね。

ものすごく真面目に戦後日本史を絡めながら日曜劇場とかでドラマ化したら面白いんじゃないかと思う。

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2025年02月22日

Posted by ブクログ

バカすぎる笑

このネタで168ページ書くのすごいな
結果的に、飛び込んでも飛び込まなくても平社員だったという落とし穴

リニアモーターカー事業に携わる人はこんな乗り物危険すぎて乗れんわ、とか思ってるのだろうか
闇が深い

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2025年01月27日

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