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「ひとり立ち続ける大観音の寂しさと慈しみ。声にならない声が、今、語られる」――芥川賞作家・松永K三蔵。ユーモアと愛情にあふれる、著者初の新聞連載小説。
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Posted by ブクログ
高さ百メートルにも及ぶ巨大な観音像が、仙台とおぼしき東北の街の丘に立っている。 かつて震災が一帯を襲ったとき、大観音は遠くの海のほうに顔を向けたまま、そこに立ち尽くしていることしかできなかった。 大観音が傾いている、と訴える人々が現れる。主人公の青年は、市役所の若手職員として訴えに向き合うことになる...続きを読む。 それは物理的な現象だったのか、それとも心のなかの問題なのか。傾きをめぐる問いが息長く展開してゆく。
東北の大きな街の丘の上にそびえ立つ、巨大な全身純白の大観音。その大観音が傾いていると言って大観音の足元を懸命に押して傾きを直そうとしている老人達。市役所に勤める新人の修司は市民の声を聞くために大観音を訪れ、様々な人達と触れ合っていく……最初は奇想天外な発想の市民たちの苦情に振り回される新人職員のお仕...続きを読む事小説かと思っていました。完全に笑おうと思って読み始めた物語。結果、全く違うトーンの物語でした。 そもそもなぜ大観音が傾いていると思う人達が現れたかというと、その背景には東日本大震災があるのです。大観音を取り巻く人達の話を聞いていると、震災での辛い経験がポロポロと出てくる。皆がそれぞれ何かを抱えていてその苦しみの象徴が大観音のような気がします。 だから傾いた大観音を元に戻したいという人もいれば、壊してしまいたいという人、遠くから眺める人、そのままでいいという人、捉え方は人それぞれなのかな、と思ったりしました。 修司と大観音が交互に語り手になるのですが、大観音もあの日、ただ立って見ているだけで何もしてあげられなかったことを苦しく思っています。 設定はユニークでコミカルなのだけれど、全体にもの悲しさが漂っている物語でした。
ユーモアと愛情に溢れる風変わりなお仕事小説。 主人公の高村修司は、東北の大きな街の市役所に新入職員として採用される。彼のいる出張所の近くには、異様に大きな観音像が立っている。あの大震災をきっかけに、住民のなかに「大観音が傾いた」という者たちが現れ、その足元を押す者、爆破することを進める者が出てくる。...続きを読む修司はさまざまな人々に出会い、対応策に奔走する。 大観音の傾きについて、大真面目に対応を考えるというユーモアさがベースにありつつ、震災で受けた悲しみがリアルに迫り、なんとも言えない不思議な感情になりました。作中で大観音の心の声が聞こえてきますが、東北弁の温かさの中に心中の切なさが混ざり、涙なしでは読めませんでした。 特に老婆が大観音に向けてかける言葉に号泣です。 笑えて泣けて、心に沁みる温かい作品でした。
災いの降りかかった地に立って非当事者がおぼえる負い目と当事者だからこそ抱え続ける負い目。深さの違いは言うまでもないけれど、それでも僅かに重なったその部分が両者を癒していく頼りになるんじゃないだろうか。新入職員(非当事者)が仙台の人達(当事者)と触れ合い、大観音(当事者)は牛久大仏(非当事者)と会話す...続きを読むる。そんな双方向の関係の先に暗い意味だけでは無い哀しみと共に生きていく“わたしたちの日々”は生まれるんだと思う。派手なことは起こらない。けれどこの静かな営みの中には、人が人である上で手放してはいけない心の水晶球の全き光がある。
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大観音の傾き
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山野辺太郎
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