吉實恵のレビュー一覧
-
「夏空白花」につぃて
日本人の多くが熱狂し、感動する全国高校野球選手権大会。
公共放送が試合を中継し、球場の名前である"甲子園"が通称になるほど多くの人に親しまれ、学生スポーツの中では屈指の人気を誇っている。
十代の限られた時期にしか立てない球児の夢の舞台に、こんな歴史があったとは知らなかった。
須賀しのぶさんの「夏空白花」は、戦争によって失われた甲子園の復活に燃えた男の物語だ。
夢の甲子園の陰の一面も描き、ただ気持ちよく読者を泣かせてくれる感動秘話で終わらないところが、実にいい。
まず主人公の新聞記者の神住が、元甲子園球児なのに、「野球は愉快だが、そこまでたいしたものではない」と思っている男なのだ。
戦時中は、軍部の言いなりになって紙の爆弾としての新聞を作り、敗戦後は平気で米軍の美談を取り上げた記事を書いている。
目的も矜持もない彼が、甲子園の復活に挑むのは、アメリカ人と日本人が共に好む野球の大会を成功させて、存続が危ぶまれる会社と居場所がなくなりそうな自分を救うため。
それでも、大会の実現に向けて奔走するうちに、かつての情熱は甦ってくるが、球場は米軍に接収され、ボールすら満足に手に入らない。
野球が新生日本の希望になるというスタンスも、関係者に批判される。
特に安斎という写真部員の「なぜ未熟な少年たちのプレーこそが日本野球だと言うんだ?」や「体を壊すほど必死にプレーする彼らを見て、それを感動という言葉に置き換えるあんたたちが、俺は時々怖くてならない」という指摘は痛烈だ。
これは現代の甲子園をめぐる状況にも、そのまま当てはまるのではないかと思う。
著者は、日本野球をこよなく愛しているが、その弱点から目をそらさない。
日本という国の過去を断罪せず、擁護することもなく、史実をできる限り冷徹に見て、希望を模索する。
終盤に描かれる奇跡の試合、夏空に咲く美しい白い花は、フェアネスを重んじる精神から生まれているのだと思います。
-
Posted by ブクログ
伊吹さんの小説、2冊目。読み終えて感じたこと。
美鷲の風景描写が、想像できるくらいの表現の素晴らしさに惹かれた。
家族を失った貴美子と心の風邪をひいてしまった哲司。
貴美子の優しさと気遣い、テキパキとこなす仕事。かっこいいと思った。
お互いに欠けているもの、大切なものに気付き前に進もうとするストーリー。
貴美子は本当に温かい女性だと思う。
謙虚でどんな人にも温かく接することができる女性。
弱いようで、芯の強さもある。
大切なものを手にするために、自由に生きれたらどんなに幸せかなぁ、と思ったストーリーだった。
ちょっぴりもどかしくてせつなくもなる大人の恋も描かれてて、色んな気持ちになれた。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ終戦直後の日本って、こういう感じだったんだろうなあということがよく伝わってくる。
戦争が終わり、今まで自分がやってきたことと、これからやっていかなければいけないこと。
その辻褄を合わせるのに、厚かましくやっていける人とそうでなかった人。戦争で勝った人たちと負けた人たち。戦争では勝ったけれど、日系人として差別を乗り越えなければいけなかった人たち。いろいろな立場の人がぶつかって、様々な葛藤があり、それを野球好きとしての共通点で乗り越えていく。僕自身はそれほど野球に思い入れがあるわけではないけれど、人物がとてもしっかり描かれていて、本当にこういう人がいたように思えた。どこまでがフィクションで、どこまでが事実なのか、そのあたりももう少し知りたい。
少しだけ違和感を感じたのは、主人公が下手な英語で話しているはずのことが、どう考えても日本語でしか表現しづらいような言葉で書かれていたところ。もう少しカタコトの英語感があったほうが良かったと思う。 -
Posted by ブクログ
野球について私は興味なかったけれど、凄く胸が熱くなる作品だった
戦後の日本
困窮が続く中で甲子園を再開するために尽力する
甲子園の場面はほぼなく、甲子園を復活させるまでの物語
そして甲子園を復活させるために尽力した男の物語
米兵が統治する中、直談判に行き用具を集める
並大抵の覚悟では出来ないことだろう
甲子園という存在が朝日新聞のもと運営されているのは知らなかった
それが今でも続いているのはとても凄い
甲子園の存在は、過去の先人たちがどうにか若人の為に再開したいという熱い想いが今に続いているのかもしれない
そんな昔から野球が、甲子園が行われていたのだと
そういった歴史の中で培われてきたのだと
物語が本当にあった事だとは限らないけれど、それでも戦後に復活させるのは本当に覚悟が必要だっただろうと思ってしまう
過去の甲子園の夏空も、さぞ美しいものだっただろうな
この物語とは関係ない話ではある
正直、丁度戦争の別作品を読んでいる最中だった
それは戦時中の特攻隊の物語
それを読んでいる時にこの物語を読むと、日本はなんて呑気なんだろうと思ってしまう
でもたぶん、実際に徴兵されない人々はこんなものなんだろうなって
戦後、徴兵されたもの達が戻ってきたら食糧に困る
その言葉が別作品を読んでいるからこそとてもとても苦しかった -
Posted by ブクログ
哲司39歳、銀行員、出世コースから外れ、外資に勤める妻の年収の方が多くなった。うつ状態になり休職することになった。三重の田舎に家を建てた母が死に、その家の始末に来た。喜美子39歳、息子に死なれ、あちこち転々としていた。たまたま会った哲司を助け、家の片付けを手伝うようになった。自称オバチャン
ある種の完璧な小説だった。
ヒッチハイクをする喜美子を説明するプロローグ、悩みを抱えた哲司。彼を助けてあげる喜美子。こうなったらいいな、こうなったらいやだなと読む者を振り回すストーリー。素晴らしい。
喜美子は理想のタイプの女性だなと思うのと、どんな事があっても、人間は再生できる、やり直せると深く思った。 -
Posted by ブクログ
著者の作品を読むのは雲を紡ぐに続いて2回目です。エリートコースを歩んできたサラリーマンが、うつ病になり、妻にも浮気され男としての自信を失い、自殺するつもりで亡くなった母の住んでいた街、美鷲(おそらく三重県の尾鷲市)に訪れます。休職期間中のその街での出会いや恋愛を綴った、切なくも優しいストーリーです。
哲司も喜美子もお互いを好きなのに常識のある人間だからこそ先に進めない感じがなんとも切ない。
雲を紡ぐを読んで、夫婦や親子関係の機微を描写するのが上手な作家だなと思っていましたが、その魅力が存分に詰まった一冊で、今まで読んできた小説の中でも1番と言っていいくらい好きな本です。少し日々の生活に疲れてしまった人にぜひ読んでもらいたいです。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ伊吹さん。今年に入ってすでに7冊目。今回は自分の年齢と似たアラフォーの主人公・哲司と喜美子のカタルシスWITH恋愛の話し。哲司はエリート銀行マン、妻との関係は冷え切り、心身の不調から休職。静養がてら、母が住んでいた海辺の町・美鷲を訪れる。同い年の喜美子は、明るく世話好き。夫と息子を亡くした心に辛い傷を負っていた。喜美子の健気さと懐に入り込む愛嬌が何とも愛らしい。完全に喜美子が気になる。哲司には喜美子が必要だが妻との諍いから辛い展開に。最後は久しぶりに涙が出た。伊吹さんの本で一番感情移入したベスト本。⑤↑
これがデビュー作なんだね。