吉實恵のレビュー一覧
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初めて読む作家さん。
以前、某公共放送の歴史番組で、終戦わずか一年後に開かれた高校野球(当時は中等学校)の大会について視聴して驚いたことがあったが、この作品はその史実をさらに深掘りしてあって興味深く読んだ。
主人公が夏の甲子園大会の主催者である朝日新聞の記者でありかつて甲子園でプレーした球児であるものの甲子園で苦い思いを残したままというキャラクターならではの視点、そしてGHQ側、つまりアメリカ側から見る日本の「野球」とアメリカの「ベースボール」との違い、更には戦時中難しい立場で生きてきた日系人、更には当時すでに甲子園があこがれであり目標でもあった球児たちや球児たちを取り巻く大人たち、それぞれの -
Posted by ブクログ
現代の高校球児、その時代は中等学校の球児だった朝日新聞の記者が、終戦直後に高校野球を再開させようと奮闘する。
史実にもとずくフィクションは大好物です。
初めは読みにくく、気づけば流し読みとなっていて、もしかして合わないかも?と残念に思っていましたが、ジョーの秘密に到り、ビビビと来てしまい、改めて初めから読み直しました。
高校野球再開に奔走する神住の熱意が今ひとつつかみにくい感じでしたが、この時代にあれだけの行動力は熱意なくてはできないことかと、後に読み込みきれていなかったことに反省しました。
高校野球、六大学野球、プロ野球の当時の立ち位置が、今とは少し違うようでとても興味深かったです。
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Posted by ブクログ
ネタバレ著者作品は3作目。
ドイツが好きで、ヨーロッパの近現代史が得意分野と思っていたが、高校野球を題材にしたものもあるのも知っていた。その著者が、2018年夏、高校野球100回大会の節目に世に送り出したのが本書。
大戦後1年で復活を果たした高校野球。その史実を基に、その復活までの尽力を、朝日新聞社運動部の一記者神住を軸に描く。
舞台は、1945年夏の大阪、物語はあの玉音放送から始まる。それまでの正義、価値観がひっくり返り、食うや食わずの焼け野原の中、敗戦翌日からストーリーは動き出す。
物質的な困難は容易に想像つくが、GHQの存在、文部省との綱引きなど、周辺には多くの障害があったことを、ひと -
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終戦直後、高校野球の復活を目指して全国を回る記者。彼はかつて投手として活躍していたが、苦渋を味わって野球から遠ざかった身だった。
そんな彼が、戦争の傷跡が深く残る世間に野球を復活させようと駆けまわる。彼を動かすものはなにか…そして、大会の再興を阻むものはなにか。
真摯にその時代を描き、野球にまつわる人々の思いを様々な側面から描いた物語。
この作者さんは、戦争ものも残酷さ含めて難なく描き、さわやかな青春小説も軽く描いてしまう幅広く豊かな作風を持たれています。
そんな手練れの作者さんが、いたってストレートに(フィクションとはいえリアルに)高校野球大会の復活までを市井の人々の視線で真正面から描い -
Posted by ブクログ
お久し振りにこの作者さん、デビュー作に行ってみる。
仕事にも家庭にも疲れた哲司が、亡くなった母が最後に住んでいた港町の家を訪ねたところから始まる物語。
そこで偶然知り合った喜美子に母の遺品整理を手伝ってもらうことになったが、喜美子にも息子と夫を相次いで亡くしていた過去があり…といった展開。
悪くない話なのだが、何故だかあまり響かずで、実際にあったらいいよねえというか、もはやこういう話はお腹いっぱいって感じ?
病んでいる割には偉そうかつ頑なな哲司にも、自分を守るためとは言いながら自らをオバチャン呼ばわりする喜美子にも、あまり魅力を感じず。
哲司の奥さんもどうだかとは思うのだが、なんか男だけに都 -
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須賀しのぶさんの敗戦直後から1年後、1946年8月15日の高校野球大会開催までの朝日新聞社運動部員の話。「道」を追い求める野球と才能を生かすベースボールの違いを日米の違いとして抽出する捉え方は須賀さんらしい視点であるように思えた。しかし「また桜の国で」などヨーロッパもののスケール大きな緊張感にあふれる物語に比べると「小さな国」の話だなと思ってしまう。それにしても1964年までの19年間であれだけの復興とその後の経済的発展の基盤を成し遂げた大正・昭和世代のエネルギーには驚嘆するばかりだ。その後の経済成長がさまざまな取り返しのつかない自然破壊を起こし、その陰に多くの棄民を生んだとしても、彼らの力は