吉田篤弘のレビュー一覧
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本作は、『流星シネマ』『屋根裏のチェリー』に続く物語ですが、単独でも吉田篤弘さんの世界観を楽しめます。順に読むと、確かにより広く深く堪能できると思います。
読み始めてすぐに、「あ〜吉田篤弘さんだなぁ」と、静かな世界に没入できます。本の静寂の中に、筆者のつぶやきにも似たいくつもの声が、紙の上から伝わってくる感覚です。不思議な安心感に包まれ、穏やかな気持ちで読み進められます。
大きな事件や出来事も、感動的な結末もありませんが、何気ない日常生活の機微を焦点化し、淡い希望の物語を紡いでいきます。
廃墟や古いものも登場しますが、寂寥感もなく、むしろアンティーク、スタイリッシュなイメージで、光沢 -
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「屋根裏のチェリー」を買おうと思っていたが、その前の話があると分かり、こちらから読むことにした。
都会のへりの窪んだところにあるガケ下の町で、「流星新聞」を発行する手伝いをしている太郎君と、その周りの人たちの話。
自分が創刊した「流星新聞」を太郎君に託して故郷に帰ったアルフレッド。
「メアリー・ポピンズ」を愛読しジュリー・アンドリュースにあこがれるミユキさん。
編集室に置いてあるピアノを弾きに来るバジ君。
詩集屋を営む“煙草をくわえた女神”カナさん。
幼馴染で〈オキナワ・ステーキ〉の店主・ゴー君と、流し目が素敵な看板娘のハルミさん。
個性的なコーヒーとカレーのお店〈バイカル〉の店主・椋本さん -
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ネタバレ「1」を読み終わった後に娘に手渡しておいたら、あっという間に読み終わり「2」も先取りされ、早く「3」を持ってこいと要求してくるほど。
いや、だからまだ出てないんだって。。。
ということで、小学生高学年から楽しめる幻想旅物語、『それでも世界は回っている』の第2巻。
”6番目のブルー"を探してエクストラへ向かうはずが、いつの間にか唄のメロディーを求めてリリボイに向かうことに。
”人生っていうのは「いつの間にか」をめぐる戦いなんだ”とのことなので、それもまた必然。
それにしても登場人物が多い。
それほど長くない章立ての中、ほぼ1章に1人のペースで出てくる。
吉田さん自身のイラストを毎回 -
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「螺旋」プロジェクトの4冊目。
語られる時代としては一番後ろになり、皆さんのレビューを見ると最後に読むほうが良いように書いてあったが、読み始めたものはしょうがない。
2095年、四半世紀前に建てられた壁で街を東西に分断されている東京が舞台。
そこは不眠の都と化し、睡眠ビジネスが隆盛を誇っているという設定のもと、巻頭に紹介されているだけでも25名+1匹、色んな人物が登場し、それぞれの周辺が描かれていく。
睡眠コンサルタントに勤め覚醒タブレットの開発を命じられたシュウが〈いばら姫〉の物語の謎を追うパート、〈眠り姫の寝台〉という本を巡ってシュウの姉で探偵のナツメと小説家のマユズミが動き回るパート、 -
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アパートの屋根裏部屋で一人暮らすサユリは人見知りで、人とうまく話すことができない。
元オーケストラのオーボエ奏者で、彼女の所属していた、がけ下の町のはずれにあったアマチュア楽団〈鯨オーケストラ〉はすでに解散していた。
サユリの頭の中に現れて、時々話しかけてくる小さな彼女の名前はチェリーという。
レモン・ソーダやハンバーガーやササミカツ定食などおいしい食べ物が登場し、物語全体が居心地良く優しい雰囲気がします。
私の住む町で身近におこった、先日の淀川の迷いクジラの出来事を思い出し、『流星シネマ』のことが即頭に浮かびました。
小説も侮れないなと、嬉しさがこみ上げてきました。
個性的で、懐かしい -
Posted by ブクログ
本作の1行目は、まるで「流星シネマ」の1行目に続く文章のように始まる。
「そして、冬はある日、何の予告もなしに終わってしまう。」
「屋根裏のチェリー」は「流星シネマ」と響き合う作品だ。
なので、「流星シネマ」から読むことをお薦めしたい。
この物語はガケ上の街に暮らすサユリが主人公で、「流星シネマ」と同じ時間軸を別角度から描いている。
その為、2作品を読むことで、双方の物語の厚みが増す。
とあるシーンに登場していなかった人物が、その間に誰と何をしていたか?が明かされたりする。
それから現実にも起こりうる事だが、対面で会話をしていても、言葉を発した者と言葉を受け取った者とで、印象が違ったり、心 -
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文章が好き ◯
作品全体の雰囲気が好き ◯
内容結末に納得がいった ◯
また読みたい ◯
その他
連作を途中から読むことは滅多にしないのだけれど、なぜか「読みたい」が勝ってしまった。
アパートの屋根裏でひっそり一人暮らしをするサユリの物語。
本作は『流星シネマ』の続編ですが、こちらから読んでも大丈夫、みたいです。
物語がリンクしているところもあれば、本作が前作よりも先に進んでいるところもあるそうです。
なので、前作を読んで自分なりの答え合わせをするのが楽しみ。
答え合わせをして「大丈夫」だったかどうか検証しよう。
吉田篤弘さんの作品は全てを語り尽くす感がなく、その余韻が好きだったり -
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何気ない日常を淡々と綴った小説です。町の喧騒や雑踏からかけ離れ、会話のテンポややり取りも余計な感情が削ぎ落とされた印象なのですが、不思議なことにずっと読んでいたくなる魅力があるのです。これが吉田篤弘さん特有の世界でしょうか。
主人公・太郎の視点で描かれる日々は、優しさと静けさ、寂しさと哀しさが同居し、幻想的な雰囲気さえ醸し出しています。
物語の舞台が、<鯨塚>というガケの下の町で、暗渠(地下埋設の川・水路)があり、かつて、この川に鯨が迷い込んで絶命し、埋葬されたという逸話があるのでした。
「今」と「かつて」を結び付ける、というより、つながっていることを示した浪漫が感じられます。「あとが -
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「電球交換士」という肩書を持つ十文字という名の男が主人公です。
バー〈ボヌール〉の半永久的常連客で、酒場は好きだが酒は呑めない。
いつも炭酸水を飲んでいて、どこまでも終わりのない電球交換をし続ける不死身の男。
彼の行く先々で、小さな事件が起こり、謎々みたいな、ちょっと愉快であぶない話が続いていきます。
(吉田篤弘さんの場合は、謎解きではなく謎々と言った方がしっくりくるのです。)
バーやキャバレーがひしめく一角や、吹けば飛ぶような粗末な映画館、海の近くのサーカス小屋など、まるで古い映画に出てきそうな街に思わず迷い込んだような気持ちになります。
彼は古いものへのこだわりと、新しいものに挟まれ、柔