沼田真佑のレビュー一覧
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ネタバレ•『ラサンドーハ手稿』高原英里
この作品が最初で良かった。退廃的な世界観、暗い路地裏から話しかけてくる仮面たち、ひょっとして私たちの世界でも起きているかもしれないよと錯覚させるような精神が入れ替わるストーリー。百点満点です。
•『串』マーサ•ナカムラ
奇妙なお役目がグロい!
連綿と続いていくんだなと主人公の微笑みで感じます。なんだか鬱りたくなるのに爽やかで奇妙な読後感。
•『うなぎ』大木芙沙子
あーっ、純文学!うなぎが臍から出てくる超自然的現象はさておき、不良と仲良くしているところをいい子ちゃんの家族(になりかけの人と母親)に見られたくないっと顔を背けてしまった…小さなしこりが今も残り続け -
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文學界新人賞の受賞作が芥川賞を受賞ということで、公募においてのかつては定番コースだったがこの頃聞かず、久しぶりの王道だなと思って、さて、どんなものだろうか、と特に前評判を聞かずに読んでみたがなかなか良い短篇集だったと思う。
地の文中心の密度の高い文章で紡がれているが、そう重々しさはない。もっと会話文を増やせば軽妙さも出るだろうと思ったが、このスタイルもこの頃の作家にはあまりないタイプであると思えるから貫いても良いかもしれない。
作品の八分辺りに山を持ってきて、弛緩して字を追ってきた読み手に張り手を食らわしてシャキッと覚醒させてから余韻を残して終わる、という構成は収録三篇に共通していて、こ -
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影裏 沼田真佑 著
短編が3編。
#読書好きな人と繋がりたい
読み終えたあとに、終わってしまったあとの余韻が少しだけ胸騒ぎする、そして時をかけて鎮まる感じの著書でした。
1.影裏
東北が舞台です。地方の静かな空気感、自然の音や香りが行間から溢れてきます。
転勤で住み慣れない男性とその職場の同僚の物語です。
釣り、酒、互いに間合いがよいと感じる2人ですが、少しずつずれ始めます。
同僚の互助会への転職、そして東日本大震災が襲います。
ある時、同僚が津波で死んだと噂を耳にします。
本当にそうなのか?
彼は同僚の足跡を尋ねがら考えたことは?
読者に解釈を委ねる余韻。
2.廃屋の眺め
5 -
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沼田真佑『影裏』文春文庫。
第157回芥川賞受賞作の『影裏』の他、『廃屋の眺め』『陶片』を収録した短編集。
味わい深く、様々な思いが心を過る、そんな3編の短編。芥川賞受賞の表題作は見事と言うしかないだろう。『影裏』というタイトルさえも見事である。人間には表と裏があり、光があって影があるのが人生の機微なのかも知れない。
『影裏』。自分が生まれ育った盛岡、岩手の風景とそこに暮らす優しい人びとが目に浮かぶような短編。後半は一転、まさか東日本大震災が大きな鍵として物語が描かれるとは思わなかった。
会社の出向で盛岡に移り住んだ主人公は同僚で気の合う釣り仲間の日浅と楽しい日々を謳歌するが、日浅は突 -
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読書開始日:2021年7月4日
読書終了日:2021年7月4日
所感
これぞ純文学といった作品に思えた。
主人公目線で、日浅、主人公のことが淡々と語られる。
日浅の心情、主人公の心情もそれぞれそこはかとなく描かれていて、日常で相手の心情を図ろうとする力と同じ程度の力で推測しながら進めることが出来た。
文章がとても綺麗で、かっこいいと思った。津波の「ついに顎の先が迫り来る巨大な水の壁に触れる」描写には震えた。
主人公は、友として、そして恋人として、日浅に惚れていたのだと思う。
最後まで日浅の圧倒的な味方でいて、最後のシーンも日浅を追いかけていた。
終の住処の雰囲気に似ている。
好きな作品。
要 -
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岩手を舞台に、疎遠になった同僚に思いをはせる表題作ほか、2編を収録した短編集。
芥川賞受賞作は初めて読む作家であることが多く、手に取るときには新たな作家に出会える期待と少しの緊張が伴って、背筋が伸びる。
この「影裏」も同様で、ひとつ深呼吸してから読み始める。
冒頭から、情景描写に魅了された。こんなふうに丁寧に言葉を紡いでいく作品は、読んでいて心地よい。その落ち着いた雰囲気から、途中まで主人公は中高年かと思っていたら、もっと若かったのが意外。
さらには、同性愛者であることが見え隠れしてからは、友人に対する言動も異なったものに見えてきて、ぱらぱらと読み直した。
「陶片」は、女性が主人公の性的マ -
ネタバレ 購入済み
謎が残る
芥川賞受賞、映画化等で興味を持ち、読みました。短編集なのですぐ読み進める事が出来ますが…。表題作に関しては、主人公の妹の結婚のあたりから、最初の疑問が生じ…というのは、主人公の性別が、男性だと思っていたけど男性と付き合っていて別れたと思われる描写があったからです。さらに、読み進めると震災が起こり親友が失踪したのを知った主人公が、親友の父親を訪ねて捜索願を出すよう頼みに行くと、親友がしていた不正や裏切りを知るというところで、真相は明らかにされず物語は、終わってしまいます。読者の解釈に任せるということでしょうか?私が思うのは、親友は、不正はしたかもしれないけど、親がお金を脅し取られる謂れはないとい
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意識が深化していく。記憶を辿るたびに文章は深みへ向かう、深まるほどに時間や空間という軸の制限が取れていきなり視点が飛躍する、我に返る、繰り返し。深い内面描写とともに今目に映る光景の描写もまた枝葉の端まで見つめようとしている。まさに影の裏までを見ようとする静謐で貪欲な文章。
でも個人的には表題作「影裏」よりも最後の「陶片」がいちばん好き。この本の小説の主人公の一人称は一貫して「わたし」でどれも冒頭読んだ程度ではこの人が男性か女性かわからない、そもそも性別にあまり「こう」だと思っていないところがいいなと思った。でもフラットなんだけど、情念がすごい。