香取照幸のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ総論中心で読みやすい。社会保障の問題を考えるきっかけになった。
・近代化によって、農民は農村から都市の工場へと移動させられた。社会保障は近代化によって失われた社会=コミュニティーの相互扶助の機能を国家が代替・補完するもの
・社会保障は自立を支えることが目的なので、自分で支える自助が大前提で、これに加えて病気などでリスクを防御しきれなかった時に互いに支え合う共助から成る。自助と共助でカバーできない困窮などを公助によって補完する。自助のない共助はない、というのが基本的な考え方。
・社会保障給付は120兆円でGDPの22.8%。財源は6割が保険料、3割が公費、1割が保険料を原資とした積立資産の運用
・日本の社会保障の制度はよくできている。これは始めた時期(1950年)がよかった。皆貧しい時期だった。所得格差が開くと、みんなが同じ保険制度に入って、同じ保険料を払って、同じ給付を受けるということは無理。中国などは今となって所得の格差に応じた別々の制度しか作れないだろう。社会が既に分裂してしまっているので社会保障に関しては中国はアメリカのような道を進むことになるだろう。
・年金の役割の一つに高齢者の過剰貯蓄を減らすということがある。日本の高齢者は過剰貯蓄の傾向はあるが、年金がなくなればもっと過剰に貯蓄し、消費はますます減るだろう。しかし、諸外国では六〇台で貯蓄のピークが来るのに対し、日本はその後も貯蓄が増え続け、六〇台よりも七〇台の貯蓄が多い。これはやはり社会保障制度に対する安心感がないのだろう。
・日本でも1948年に財産課税が行われた。10万円以上(現在の価値で5000万以上)の財産を保有する個人に課せられ、最高税率は90%(資産1500万超)。
天皇家がトップの納税で37億4000万円だった。
・社会保険の役割は雇用という観点からも重要で、リーマンショック時にはアメリカで1000万の雇用が失われたが医療、教育分野の雇用が増えた。日本でも2002年を基準にすると医療福祉の雇用は50%以上増えており、10年で238万人の雇用を創出している。
・年金の給付は年間56.7兆円になり、これが消費につながっていることも重要。地方では県民所得の多くを占めており、東京、愛知以外の45都道府県では県民所得の一割以上が年金給付。鳥取と島根では17%にも達する。
・高所得の高齢者に保険料を負担させたり、年金受給を待ってもらうことは低所得の高齢者への支援を若者世代に頼るのではなく、高齢者内での再分配でカバーするということで、こういう考え方をもっと社会保障の中に取り込むべき
・年金と医療・介護の決定的な違いは、後者の方が高齢化の影響を受けるということ。六五歳が七五歳になっても年金の額は変わらないが、医療・介護費用は増えるため、高齢者の中での高齢化が進むと給付が増える -
Posted by ブクログ
長年、厚労省の官僚として社会保障政策に関わった著者が、社会保障制度の意義と、これからのあるべき姿について語った一冊。社会保障は医療・介護、子育て、年金、生活保護、公共衛生等、テーマが多岐に渡り、かつGDPの2割を占めるインパクトを持つことから、その全体像を掴むのは容易ではない。それを長年の官僚としての経験から、教科書的な説明を非常に平易にまとめることに成功している。
さて、そうした教科書的な意味合いもさることながら、本書のメインメッセージは、「経済成長と社会保障は相互に関連しており、対立軸で語るのではなく、その両方を満たす政策を考えるべき」というものである。本書を読むまで、経済成長と社会保障の関連性をあまり意識したことがなかったが、セーフティネットとしての社会保障があるが故に、個々人がリスクを取ることができ、結果として経済成長を促進する、という考え方は、もっと多くの人に理解されるべきものであると思う。 -
Posted by ブクログ
香取照幸氏の著書『民主主義のための社会保障』を拝読し、経済成長、財政規律、そして社会保障の持続可能性が密接に結びついていることを改めて認識しました。
まず、経済成長なくして社会保障の充実が困難であるという点は明らかです。経済が停滞すれば、税収は伸び悩み、社会保障を支える原資が不足します。結果として、給付の削減や負担の増加を招き、国民生活の不安定化につながりかねません。
一方で、財政規律の追求だけでは、必ずしも経済成長に結びつくとは限らないという指摘も重要です。単なる歳出削減や増税といった緊縮財政は、かえって消費や投資を冷え込ませ、デフレを深刻化させるリスクをはらんでいます。経済成長を伴わない財政再建は、国民の生活を苦しめるだけでなく、長期的な財政悪化を招く可能性すらあります。
社会保障は「富の削減」ではなく「資本の移転」
社会保障制度は、しばしば「富の削減」や「負担」として捉えられがちですが、香取氏が指摘するように、これはむしろ**「資本の移転」と理解すべきです。社会保障は、困窮する人々を支えるだけでなく、教育や医療、介護を通じて人材という社会の資本を再生産し、中間層を厚くする役割**を担っています。これにより、人々の生活基盤が安定し、安心して働き、消費する意欲が高まります。結果として、労働参加を促進し、経済全体の活性化に貢献する側面があるのです。
安定的な社会保障と経済成長の両立こそが鍵
現代社会が問われているのは、まさに社会保障をいかに安定的に維持しつつ、経済成長を達成するかという、この二律背反に見える課題の両立です。単なる財政規律の強化や、社会保障費の抑制に終始するのではなく、社会保障を「未来への投資」と捉え、それが経済成長の原動力となるような政策設計が求められます。
具体的には、少子高齢化が進む中で、いかにして生産年齢人口を維持・増加させるか、そして高齢者や障がい者を含む多様な人々が社会で活躍できる環境を整えるかが重要です。質の高い医療や介護、教育を提供することで、国民一人ひとりの能力を最大限に引き出し、持続可能な経済成長を実現する。この循環を生み出すことこそが、民主主義社会における私たちの最大の課題であると言えるでしょう。