【感想・ネタバレ】教養としての社会保障のレビュー

あらすじ

年金局長、雇用均等・児童家庭局長等を歴任し、その間、介護保険法、子ども・子育て支援法、国民年金法、男女雇用機会均等法、GPIF改革等数々の制度創設・改正を担当。さらには内閣官房内閣審議官として「社会保障・税一体改革」を取りまとめるなど、社会保障改革と闘い続けた著者による書き下ろし。


日本の社会保障制度は、大きな曲がり角に差し掛かっています。安心社会の基盤となり、社会経済の変化に柔軟に対応し、社会の発展・経済の成長に貢献できる社会保障制度の構築は、これからの日本にとって必須の改革だと私は考えています。(中略)年金制度や医療制度を始めとする社会保障の諸制度は、市民一人ひとりの自立と自己実現を支えるための制度です。現代社会にあって、個人の自己実現を通じた経済の発展と社会の活力、そして市民生活の安定を同時に保障するサブシステムとして、人類が考え出した最も知的かつ合理的な仕組みであり、社会にとっても個人にとってもなくてはならない制度です。本書が、私たちにとってなくてはならない社会保障と、その社会保障制度が置かれている現状について理解するための一助になれば幸せです。(「はじめに」より)

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香取照幸(カトリ テルユキ)
元厚労省年金局長。1956(昭和31)年、東京都出身。東京大学法学部卒業。1980年厚生省(現厚生労働省)入省。1982年在フランスOECD(経済協力開発機構)事務局研究員、1990年埼玉県生活福祉部老人福祉課長、1996年厚生省高齢者介護対策本部事務局次長。2001年内閣官房内閣参事官(総理大臣官邸)、2002年厚生労働省老健局振興課長、2005年厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課長。2008年内閣官房社会保障国民会議事務局参事官、同安心社会実現会議事務局参事官、2010年厚生労働省政策統括官(社会保障担当)、内閣官房内閣審議官(社会保障・税一体改革担当)、2012年厚生労働省年金局長、2015年厚生労働省雇用均等・児童家庭局長等を経て2016年6月退官。2017年3月より在アゼルバイジャン共和国日本国特命全権大使(現職)。

教養としての社会保障
by 香取 照幸
 例えば、アメリカは端的にそういう社会だと言えると思います。アメリカでは、とにかく自由に何をやってもいい。能力を最大限に発揮して、勝負して生き残っていく。勝った者はアメリカンドリームを具現し、負けた者は自己責任でどうぞと、そういう社会の仕組みになっています。極端な話、アメリカでは自分の生命を守ることすら自分でやる。自分の身を守るのは自分の責任であり権利だと考えます。だから、銃を持つのも権利だ、となるわけです。つまり、刀狩りをしていない、刀狩り以前の社会ということだと思います。  (話が横道にそれますが、刀狩りというのは戦国の世の終焉を象徴する施策なんじゃないかと思います。「領民よ、もう自分の身を自分で守らなくても良いぞ、我ら(武士)が世の平和(生命と財産=治安)を守るゆえ、お主ら(農民)は安んじて農耕に精を出せ」ということですから。そう考えるとアメリカという国はまだ西部開拓時代のままってことなのでしょうか(笑)。)

 社会保障も同じです。基本的には自分の責任でやることを前提に、市場の中でそれを解決しようとするので、アメリカの社会保障制度は高齢者・障害者を対象とするメディケアや低所得者などを対象とするメディケイドを除いて、基本的に民間が担っています。医療保険制度も民間保険が基本です。お金のない人は保険には入れません。なので、何千万人という「無保険者」が現に存在しているのがアメリカ社会です。

 なんだかアメリカのことをあまりよく言っていないように思われても困るので(笑)、アメリカ社会の別の一面についてお話ししておきます。  アメリカでは公的な社会保障が脆弱である反面(あるいは「であるがゆえに」かもしれませんが)、民間の慈善活動、チャリティーがとても盛んです。事業で成功した人はこぞって慈善事業に寄付したり自ら財団をつくります。そうすることが社会的成功の証、と見なされるようなところもあります。古くはカーネギー、ロスチャイルド、最近…

 たしかに、そういう見方をすれば、そういう一面がないとは言えない。しかし、現代社会においては、人間は一人ですべてができるわけではなくて、社会全体が様々な形でお互いにつながっていること、ネットワークができていることで生きていくことができるわけです。完全に自給自足の生活をしようとすれば今日食べるものにも、飲む水にすら困るのが現代社会です。  社会というのは壮大な相互依存・役割分担と協働のネットワークによって形成されています。そこに目を向けなければ、社会保障は理解できません。

 情緒的な意味ではなく現実の問題として、社会とつながりを持っていなければ、人は一日たりとも生きていけません。ですから、社会が健全で安定していることが、たくさん稼いでいる人にとっても非常に重要です。だから、この制度があるわけです。  社会保障という形で、所得を再分配することが社会全体の安定につながるから、この制度がある。そこが社会保障という制度を理解するのにもっとも重要なポイントです。社会保障は、単なる所得の分配ではありません。

北欧は社会保障先進国として知られています。社会福祉と言えば、誰もが北欧のスウェーデンやデンマークを思い浮かべます。一時期「北欧病」などと言って、北欧の国々のように社会保障が厚い国では誰も努力しなくなる、働かなくても国が面倒を見てくれるから活力がなくなる、社会が停滞するなどと揶揄されたこともありました。  ところが、事実は違います。日本が長い景気停滞に苦しんだ 20 世紀終盤から 21 世紀初頭にかけて、世界でもっとも経済成長したのは、アメリカと北欧でした。

 セーフティネットには、落ちて死んでしまったり怪我をしたりするのを防ぐ機能があります。予めセーフティネットを張り巡らせておくことによって、落ちても怪我をしないだけでなく、怪我をしないから再び挑戦できる。一度失敗したらそれで終わり、ではない。貧困に陥ることを防ぐことができます。

今、アジア諸国は急速に経済成長しています。例えば中国。改革開放路線に転換した後、急速な経済成長でGDPが世界第2位になるほど豊かになりましたが、同時に大きな所得格差が生まれました。あれだけ所得格差が開き、生活水準に差がついてしまったら、農民と都市住民とが同じ保険制度に入って同じ保険料を払って同じ給付を受けるということは、もはや無理でしょう。いかに共産党政権といえども、今の中国では所得の格差に応じた別々の制度しかつくれないだろうと思います。社会保障に関しては、中国はおそらくアメリカのような道を進むことになる。社会がすでに分裂してしまっています。

一人暮らしの人というのは、社会保障の仕事をしている者の立場からすると、二人暮らしの人よりもお金がかかる人です。例えば、厚生年金の標準的な受給額は夫婦で 22 万円位なので、仮に高齢夫婦が月額 22 万円で生活しているとしましょう。この金額だと大体この程度の生活になる、という生活水準を、一人暮らしで半額の 11 万円で維持することはできません。一人になっても住居費や光熱費、通信費その他生活に必要な固定費は半分にはならない、一人暮らしだからといって台所も風呂もトイレも半分、というわけにはいきません。つまり、同じ生活をするための費用は一人暮らしの方が高い。社会保障の側からすればその分だけお金がかかるということになるわけです。

さらに、二人で暮らしていれば、多少仲が悪くても、一方が病気がちになったりしても、お互い助け合いながら何とか家庭の中でやりくりできることもありますが、一人暮らしになった瞬間に誰も助けてくれないので、極端な話、トイレの電球が切れただけでヘルパーを頼む、誰かに助けてもらわないといけない、という事態に陥ります。つまり、何らかの形で公的な支援を開始しなければならないタイミングが夫婦二人の世帯より早くなってしまう。なので、一人暮らしの人が増えるということは、よりコストのかかる人が増えるということになります。

戦後の混乱期とはいえ、個人財産の9割を取り上げる累進課税は空前絶後、過酷なものだったと思います。しかもこの時政府が断行した施策は財産課税だけではありません。農地解放、預金封鎖、デノミ敢行、新円発行、ドッジ税制、できることはすべてやって乗り切りました。  これはもうほとんど革命です。財産課税や農地解放はレーニンやスターリン、毛沢東ですら完遂できなかったほど徹底した改革でした。戦後の日本の財政政策は、社会主義革命以上の革命だったと言っても過言ではないでしょう。

消費の減少の解決策は、所得再分配の他に、もう一つあります。若い労働者の給料を上げることです。そもそも税制や社会保障制度によって所得再分配をするより前に、再分配前の所得、原初所得(市場における第一次分配所得)の段階で付加価値がもっと分配されるようにすることです。  若い世代の所得が増えないと、結婚もできない、子どもも産めない、自分の人生、将来に希望が持てない。それでは社会全体の活力が失われます。将来に対する不安や諦観のある社会は停滞してしまいます。

ところが、アメリカは医療費が高い。日本のように公定価格でコントロールしていませんから、医療費は基本的に自由価格です。患者と医者の力関係(bargaining power)は当然医者の方が強い。事実上医療側は自由に請求額を決められる(患者も選べる)ことになります。なので、それを賄う民間医療保険の保険料は恐ろしく高くなる。サービスが厚い保険であれば、当然保険料が高くて普通の人にはとても払えない。加えて、保険会社側の選択(保険会社側が加入者を選別する、つまりリスクの高い人はなるべく加入させないようにする)もあるので、高齢者や障害者、既往症のある人の保険料率はプレミアムが乗って高いし、場合によっては加入を拒否される。仕方がないので保険料の安い保険や病気があっても入れてもらえる保険に入る。そうすると、既往の病気は対象外だったり、支払額に上限があったり、使えない薬があったり、入院費が出なかったり、通院の回数に制限があったり、いざという時に役に立たない、ということになります。

社会学者の宮台真司氏(首都大学東京教授)は、その著書『日本の難点』(幻冬舎、2009年)の中で、現代を「社会の底が抜けている」と表現しています。社会の中に一人裸でいると、自分のことは自分で守らなければならない。その意識が強くなりすぎると、利他意識が低下し、自分勝手な人が増えます。「他人に迷惑をかけさえしなければ、何をしてもいい」と言いながら、他者に迷惑をかけていることにすら気づかない人が多くなり、それがまた社会の不安材料となっています。さらに、長い経済の低迷により、人々の目標は失われ、何をやっても、一生懸命に働いても明るい未来など来ない、といった閉塞感で人々は息を詰まらせています。

しょせんこの世の中不公平だ、不公正だ、フェアじゃない、と多くの人が感じていると社会は発展しません。自分の他に悪い奴がいる、そいつのせいで自分たちが割りを食っている、となれば、犯人捜しが始まります。ウォールストリートの連中が富を独り占めにしている──それは一面の真実ですが──、そいつのせいで自分たちが割りを食っている、そいつらが世界を支配し、そいつらのせいで俺たちはこんなに苦しい思いをしている。そうなったら社会に対する信頼はなくなっていきます。誰も真面目に働かない、バカバカしい、何をやっても報われない、となって、誰も努力しなくなって社会は停滞します。法律やルールも守られなくなって治安も悪化します。

資本主義社会ですから、競争の勝者には称賛と利益が与えられるべきですが、一人占めは社会自体を停滞させます。社会の中で富が循環しなければ資本主義社会は維持できません。勝った人が社会的責任を果たし、負けた人が何度でも敗者復活戦に挑める仕組みをつくっておかないと、社会は維持できません。富が偏在すると、最後には騒乱が起き、革命が起きます。  そうならないように、先人が知恵を絞ってつくり上げてきたのが社会保障制度なのです。

長時間労働の慣習も、企業と社会の責任で解決しなければならない問題です。結局、皺寄せを受けているのは家族です。長時間労働で疲れ果てた男たちは家族の責任を果たさない。家事労働も子育ても協力しない。ゴミすら出さない。地域活動にもPTAにも参加しない。すべて奥さんに任せきり。これでは女性が働けるわけがありません。

 「そうすれば、現場の何が真実で何が噓だか分かる」。  「現場には真実がある。だが同時に、現場は往々にして噓をつくことがある」。  これは、多くの行政官の実感です。現場の何が真実で何が真実でないか。個別の事象の奥にある問題の本質は何か。それを読み取る力、表面的な事象の奥にある真の実態を見極める力。それこそが「実態把握能力」なのであり、その能力は、 ① どれだけ多くの現場と接したかという「経験」から生まれる「人や社会に対する想像力」 ② 相矛盾する様々な事象を分析・理解しそこから解を導く「専門知」  そして、 ③ 人間としての「感性」 を磨くことでしか獲得することはできません。

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2024年09月09日

Posted by ブクログ

コロナ前(2017年)の本で、社会情勢はまた少し変わっている(悪化している)と思うけれど、日本の社会保障制度について網羅的に理解するには最適の一冊だと思った。さすがその道のプロが描いただけあって、意見の偏りが少ないと感じた。
難しい内容の割に読みやすい。

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2023年07月13日

Posted by ブクログ

社会保障って希望だと思った
北欧に学ぶところ
失業しても救済され続けるのではなく
学校卒業後の学びの機会を提供することで
時代に合わなくなった産業から次の産業の担い手となり続けられる
生産性のある時間を長く持てる
各人の能力に合った働き方を続けられるというのはいいな

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2023年05月10日

Posted by ブクログ

これはいい本だった。巻末に後輩のためのメッセージもあるし。全くもって仰るとおり。社会保障の本当の改革が一刻もはやくできますように。

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2023年04月02日

Posted by ブクログ

本の内容は正にタイトル通りと言える。
社会保障というと少子高齢化社会の日本ではどうしても感情的な議論が先に出てしまう。
この本は今一度社会保障に対する知識や現状の日本の財務状況などを学ぶ良いきっかけになった。
内容も非常に分かり易い。

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2023年02月23日

Posted by ブクログ

初心者にもわかりやすくまとめられていて勉強になった。
社会保険料は高いと思っていたけど、そうではないな、と感じるようになった。

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2023年01月27日

Posted by ブクログ

とても読みやすく社会保障の全体像を知るには最適ではないだろうか。
老後2,000万円が物議を呼んだことで漠然とした不安が拡がっているが、筆者も述べている通り年金破綻は国家破綻であるから根拠なき心配は不健全だろう。
世界でも例を見ない皆保険、皆年金。戦後の格差が少ない時期に、非正規がほとんどいない終身雇用ができた絶妙なタイミングだったから成し得たことであったようだ。

ただ現在は大きく構造が変わり、今日の財政規模で社会保障全体は維持できるのか、どのような取り組みが求められるのかを視点に読んでみた。

社会保障の基本的役割は、
自助を共同化
所得再分配
負担だけでなく大きな成長産業の一面がある。

現在の社会保障の課題は、
世界的にも稀な医療フリーアクセス化による医療リソースの疲弊
景気低迷により収入が伸びない中での給付の伸長
きめ細かく対応するあまり制度が複雑化している。

課題への対応は、
社会構造にあわせた制度変更
受益者負担による増税での収入確保
プライマリーバランスを黒字化する。

皆保険、皆年金と言うすばらしい共助システムを永く運用するため、収入面では次世代への先送りを回避し増税での受益者負担は避けられないと思った。
支出面では過剰貯蓄と年金を正しく理解し、医療機関との接し方改革と、なんと言ってもプライマリーバランスの黒字化を一刻も早く実現することが必要。

社会保障に関しては政争の具とせず日本の未来のために「安心」を盤石にして欲しい。
現在の閉塞感の根源はここにあるような気がした。

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2022年10月02日

Posted by ブクログ

素晴らしい良書。苦手な社会保障分野の景色を極めて分かりやすい文章で綴ってありました。社会保障の基本的な分類や考え方、課題、処方箋。社会保障は単に「負担と給付」の問題ではなく、「国の骨格」となる財政問題、経済問題というマクロであるとともに、一人一人の生活にかかわるミクロな問題。そして、そこから見える風景が大きく異なることから生じる合意形成の難しさ。「犯人捜し」しかせず、改革を阻む者の存在。改革の手がかりも、きれいに整理してあります。もっともっと多くの国民が本書の内容を知って確認してほしいと思いました。

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2021年07月19日

Posted by ブクログ

題名の通り専門的すぎず教養として知っておくべき内容を分かりやすく説明している。
公教育でここくらいまで踏み込んで学べたらいいのに。
「現金給付よりも現物給付に重点をおく」はこのコロナ禍で本当に考えるべき。
一律現金給付をして一体どのくらい市場にまわったんだか…

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2021年02月14日

Posted by ブクログ

日本人は、老若男女全員これを読むべし。日本の将来を考えてみる良いきっかけになる本。
個人的2020年上半期No.1の本。

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2020年06月01日

Posted by ブクログ

オーディオブックにて聴了。ものすごく勉強になった!本も購入を検討。

日本の皆保険制度が世界的にも珍しく、よく出来た仕組みだったとは。

一方で、リタイア後の層に手厚く、現役世代に優しくないという日本の社会保障の設計自体は、もはや時代に即していない。こういった制度も現実に合わせて刷新されていくべきだと思う。
マクロ経済スライドはまさに現実に合わせて保障を見直す、年金制度持続のための仕組みなのに、「年金が減る!」と騒がれて叩かれていたような…?

思想の一貫性なくその時々で政策を批判し煽り立て、有権者側に無知や無関心が植え付ける(政治は誰がやってもダメなもの、変わらないと諦観の念を抱かせる)マスメディアにも責任の一端はあろうが、高齢者優遇の政策や制度が変わらず残存するのは、最終的には《選挙に行かない》という行為を果たしてしまう若年世代自身の責任でもあると考えさせられる。

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2020年05月30日

Posted by ブクログ

人間は助けてあって生きていく。その思想を形にした画期的なシステムが社会保障

●本の概要・感想
 多くの社会人が給与明細の控除額を嘆く。その控除額が社会保障を支えているのである。徴収分を嘆くのはミクロの視点であり、その意義を理解するにはマクロの仕組みを知らなければならない。社会保障の制度は一人ひとりが安心して暮らせるために作られた合理的なシステムだ。これを守り、生かし、いかに日本を発展させてゆくか。きちんと社会保障を学べば、給与明細や税徴収の見え方が変わるに違いない。社会保障は生きる価値の無い人などいないとする。人は時に助け合い、支えあわなければならないとしている。その制度を皆で選んでいる。そのことを我々は知るべきだろう。
 
●本の面白かった点、学びになった点
*社会保障がリスクを分散させる。不安を軽減させる
・人生にはリスクがつきものだ。明日事故にあうかもしれぬ。一家の大黒柱がいなくなるかもしれぬ。難病を発症し、いつものように働けなくなるかもしれぬ。もし、そんなリスクが現実になったとき、誰も手を差し伸べてくれない世界だとしたら。自分の貯蓄や家族だけしか当てにできないとしたら。人々は不安を抱き、他者を信頼しづらくなるかもしれない
・社会保障は助け合いを約束したシステムだ。生きづらい人、生活に困窮する人皆を支えていく仕組みである。生活には困っていない人たち同士でお金を出し合って、いざというときに備える。そのような仕組みがあるからこそ、僕たちは安心して人生を送ることができる

*社会保障が経済を回す
・日本の成長産業は社会保障と深く関わっているところばかりだ。福祉や医療、教育等..。もし、社会保障がなければ、金持ちは自分の資産を抱え込んでしまう。そうならないように、一定の額を徴収し、社会保障として還元することで、経済が豊かになる
・今や社会保障に関わる消費および投資がその地域を潤している場合もある

*社会保障は恵まれない人々の自立を支援する。自助・互助・共助・公助の考え方
・社会保障は何でもかんでも人々を支援するというわけではない。皆でリスクを分散しつつ、本当に大変な目にあっている人にはお金を渡すという仕組み
・まずは自助と互助を求める。あくまで自分の力で、それでもうまくいかない場合には周りの力で助けあう。それでもうまくいかない場合には共助の仕組みが働く。自分が普段払っている保険によって支援を受けられる仕組みだ。それでも困窮にあえぐ人には公助によって支える。虐待や生活保護者などがこれにあたる

*年金は破綻しない。なぜなら、ある分しか払わないから
・年金が破綻すると吹聴された政権があったが、全く払われなくなるということはない
・マクロ経済スライドという仕組みを導入した。ざっくり言うと、「払える分しか払わない」という仕組みになっている

*皆保険を達成した日本の奇跡
・皆保険を達成したのは日本が戦争に負けて資産格差がほとんどなくなったから。今の中国などでは、皆保険制度を作り上げることはムリだろう。資産家や金持ちが金銭的に割りを喰う制度になるからだ

●読んだきっかけ
 オーディオブックのセール。図表が54もあってびっくりした。とても良い本だったけど、図表はオーディオブックと相性悪いんだよな

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2020年02月01日

Posted by ブクログ

社会保障の理念、社会保障制度と経済成長との関連性の説明がわかりやすい言葉で丁寧に説明されており、とてもわかりやすかった。

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2019年03月30日

Posted by ブクログ

厚生省の統計問題がわちゃわちゃ言われている今この時期(2019年頭)に自信を持って言う事は出来ないけれども、官僚としての長い実務経験のある著者が、良質なデータを数多く提示した上で、日本の社会保障の現状についてイデオロギーを交えずに歴史背景や他国との比較の上で冷静に分析している。
「教養としての」という名のついた本には表面的な話を並べ立てるだけで、学びが少ない本も少なくないが、本書は本当の意味で「教養としての社会保障」と言い得る良著である。

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2019年01月23日

Posted by ブクログ

社会保障のバイブルと言っても過言ではない基本書。制度のできた背景から始まり、マクロでの課題、ミクロの課題、改革の方向性、未来への提言と、それぞれのパートで豊富な資料、統計を元に丁寧に説明されている。制度が複雑に入り組んでいるので、とっかかりが難しいが、もう現状維持では立ち行かない、改革待った無しという状態にあることはよくわかった。社会保障の課題は、同時に日本の成長に向けての課題でもあると思う。

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2018年07月02日

Posted by ブクログ

現在の日本の社会保障を歴史、世界との比較から見ることで勉強になる。
社会保障は、現代社会とりわけ資本主義社会で競争がある世の中になくてはならない仕組み。なぜなら個人の自由な人生選択とリスクを恐れず挑戦するためのセーフティネットが必要だから。
長期不況、少子高齢化、人口減少と日本が直面している課題と解決に向き合う必要がある、社会保障は複雑で理解しづらい部分が多いが、少しずつ勉強していこうと思う。

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2024年05月19日

Posted by ブクログ

人口減少、社会保障費などの詳細データや国際比較などありよくまとまっている。
後段の施策部分は少し抽象的

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2024年01月04日

Posted by ブクログ

社会保障をこれから学び始めるのにいい本はないかと探していたところ、極端に振れていないバランスの取れた良書との評価を見て購入。

事実、I部、II部では制度理解から位置付け、国際評価など、今後の社会保障を考える準備をするために必要な理解が、端的にできる。正確でコンパクト。
資料が豊富だったのは客観視できるのでありがたいところだった(国際間比較、資産保有配分の年度比較など)。
Ⅲ部の今後のあり方について(一般論として)言及し、それを踏まえた付章では提言(具体的政策)する。
2017年、5年前に初版の本だが、この提言が今実現しているものも多いので、現場で実際に携わった経験値のある人が書いた本なのだなと説得力がある。中の人の声というか。
納得させられることも多く、私にとっては学びの深い書だった。最新の情報もアップデートしたいので、他も探してみようと思う。
(もっとも、北欧推しではあるようです。ページの都合で他を取り上げられなかったのかもしれませんが。)

目次的中身
・社会保障の基本理解(制度、哲学、歴史的成立過程)
・社会保障、経済、財政は三位一体(豊富な資料あり)
・今後の社会保障はどうあるべきか

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2022年09月29日

Posted by ブクログ

社会保障というものは、年金、医療、介護、福祉関係かな?という程度の知識しか持ち合わせていなかったのですが、社会保障は経済活動に結構密接な関係にあったのだと知りました。
確かに、病院や保育園があれば雇用が生まれるし、消費も生まれます。国がやってるんだから、国がやれば良いというのは、合理的無知でした。

気になったのは、高齢者の預金残高額でしょうか。高齢者に詐欺行為を仕掛けるというのは、的外れでは無かったんですね。

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2022年02月17日

Posted by ブクログ

-高齢化で給付は増加、不景気で収入は停滞、公費投入
-社会保障の二面性
 −社会保障は負担
 +経済成長のエンジンでもある1つの産業
-過剰貯蓄を防ぐはずの社会保障
-人口減少、少子高齢化、経済停滞の結果、資金は高齢者と企業に留保、格差拡大
-経済社会、政治への不安←一億総中流社会の崩壊、グローバル
-財政再建経済成長社会保障のために政治への信頼を取り戻すことが肝要
-今後の社会保障の役割(安心社会基盤、ルール、人口減少社会を乗り切る持続可能な社会実現)
- 持続可能な制度の構築、制度の簡素化、ITによる効率化が必要
-社会保障による雇用の創出、地方への所得配分

想像していた内容とは違ったが、漠然とした不安の内容はとても共感した。

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2021年06月23日

Posted by ブクログ

国民と政府では見ている視点がミクロとマクロで異なっているためどうしてもギャップが生まれてしまう
全国民に過不足なく保障を行うことは不可能であることを改めて感じた

少子高齢化の対策として本著で提案されている対策は非常に興味深かった
こういった本を書いているようなレベルの方々が役人として働いて、考えた上で現在の社会保障があるのであればちゃんと税金を納めようと思った

一回さらっと読んだだけなのでもう一度読み直したい

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2020年06月03日

Posted by ブクログ

普段当たり前と思っている社会保障。でも、世界を見渡すとこんなに恵まれた国は稀なんだなぁ。日本に社会保障ができた背景、制度の仕組み、充実した社会保障のために私達はこれからどう行動していくべきなのかとても勉強になりました。教養として一度は読んでほしい本です。

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2020年05月15日

Posted by ブクログ

誰もがなんとなく知っているけど、明確には答えられない。
そんな「社会保障」について、これ1冊でみっちり学べる本です。

社会保障は「あくまで自立して生活することが前提で、もしダメになったらみんなで助けるよ」っていう制度で、だけどそれにはいろんなパターン・ケースが存在することを知りました。
日本の社会保障は世界一と言われているが、一方で世界一の高齢化の国でもあると言われています。
そのため、このままのルールでは無理が生じてくるという考察も勉強になります。

個人的に、この本を読んで、いま契約している生命保険の無意味さに気づいて
解約できたことが一番の収穫です。

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2020年04月16日

Posted by ブクログ

少し表現や記載が冗長な部分もあるが全体を通して楽しんで読めた

深く考えたことはなかった社会保障の意義、制度設計の重要性など、当事者ならではの視点で描かれていて勉強になる。
タイトルの通り大人の教養として読んでおきたい本

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2020年01月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

## 感想
- 普通に知識の勉強としてよかった。歴史を紐解く、というとあれだが、国民皆保険を作るところから現代までの話をざっと眺められた。
- 元、内閣官房内閣審議官の人ということで、どこかに寄った話だと嫌だなと思ったが、思ったよりもニュートラルな立場で書かれていた。最後の方はエモさもあったがご愛嬌(定量や戦略ではなく思いが乗っかる文章で終わる、という程度の意味)

## メモ
- 社会保障が理解されづらいのは
 - ①政治・経済・雇用・家族政策・医療・など幅広くまたがるため。
 - ②マクロ経済の仕組みを踏まえなければいけないが、ミクロ経済の感覚が混ざるため(往々にしてマクロにとって正はミクロにとって悪≒逆行する)
- 自助を基本とし、共助が補完し、それでもダメなら公助がある。
 - 共助は、年金や雇用保険など、防貧の考え方。公助は救貧(救済施策。例えば年金で支払い能力がない人は保険料免除ができたりすることもそれ。)。
 - チャレンジができて、失敗しても貧しない仕組み、がセーフティネットがある、と言える状態。
- 日本の社会保障は、終戦時期且つ高度経済成長時代だから成り立ったモデル。
 - 号令で民営化したり中央管理的にしたり。
 - 人口オーナスの時期、少子高齢化では、立ち行かなくなる。
  - 逆に言うと、労働人口を増やすしか無い。
  - 女性を増やす、高齢者でも働く、(外国人を受け入れる)、生産性を上げるetc
  - 女性雇用ではなく、家族労働戦略(男女でどうやって総量としての雇用を増やすか)の視点で考えるべき。
- 日本の制度は、国民皆保険という奇跡や、医療や介護の手厚さはピカイチ。
 - アメリカはいまだに保険に入れない人もいる。
 - すぐ救急車呼んじゃうみたいな問題もあるが(やかかりつけ医などがないスウェーデンでは病院が数週間先まで待つとかもザラらしい
- 内部留保(会社が蓄えているお金)が多い
- 高齢者の貯金も多い
- ps.最後に、職場の後輩に引退時に送ったとされる文章が思いの外よかった。初めて社会人=公務員になった諸君へ。実態把握能力・コミュニケーション能力・制度改善能力、が必要だ、という話。

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2020年01月03日

Posted by ブクログ

【ミクロとマクロ】

福祉の現場にいてミクロの視点で社会保障の物足りなさを感じている。だからこそこの本でマクロの視点を知ることが有意義だった。

寿命延伸
医療の進化
労働力不足
少子化
人口減少

「安心して子供が産めない」社会であるがというが「計画的でない子供」が問題になっている気がする。家計が苦しく両親が働くことによる子供に対する愛着不足。貧困による教育格差。非行化。引きこもり…などなど。
制度の整備が必要なのは大前提。
加えて「共助」など心の整備?が必要。
「自分さえ良ければ」という考えが社会保障制度の最大の敵ではないだろうか。

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2019年04月23日

Posted by ブクログ

これは良書。元官僚の著者の上から目線だけ気にしなければ、最良の分析考察を厳密なデータとともに把握できる。

成長が止まり、税収が減り、社会保障の予算に占める比率が50%を超え、政策的な自由度が限りなく小さい。例えば教育に全く使えない。それが我が国の実態。
そんな中、日本人の貯金好きは異常。無駄にため込まないために一番大事なのは公的年金への信頼感だが、政争の具になってそれが失われている。

結果として今、日本は貧困が進んでいる。しかも中間層が減って貧困層が増える二極化。何といっても最大の原因は非正規雇用。同じ会社で働いているのに、非正規は社会保険が自腹。つまり低所得者ほど相対的な社会保険負担が大きい。

打ち手は何か。とにかく皆が働くこと、働きやすい環境を作ること。規制緩和でビジネス作ろう。高齢者にもどんどん働いてもらおう。知的産業では、フィジカルな優位性は関係ない。女性の活躍が広がる。北欧は60年代に女性のGDP貢献が壮絶だった。保育所作ろう。
海外では少子化対策ではなく家族政策(Family policy)という表現が普通。そして消費税増税。使途は若者。老人しか投票しない日本を変えよう。

参考文献として本書の主張への反論も多数収められている。そういうところも健全。

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2019年01月01日

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ネタバレ

総論中心で読みやすい。社会保障の問題を考えるきっかけになった。

・近代化によって、農民は農村から都市の工場へと移動させられた。社会保障は近代化によって失われた社会=コミュニティーの相互扶助の機能を国家が代替・補完するもの

・社会保障は自立を支えることが目的なので、自分で支える自助が大前提で、これに加えて病気などでリスクを防御しきれなかった時に互いに支え合う共助から成る。自助と共助でカバーできない困窮などを公助によって補完する。自助のない共助はない、というのが基本的な考え方。

・社会保障給付は120兆円でGDPの22.8%。財源は6割が保険料、3割が公費、1割が保険料を原資とした積立資産の運用

・日本の社会保障の制度はよくできている。これは始めた時期(1950年)がよかった。皆貧しい時期だった。所得格差が開くと、みんなが同じ保険制度に入って、同じ保険料を払って、同じ給付を受けるということは無理。中国などは今となって所得の格差に応じた別々の制度しか作れないだろう。社会が既に分裂してしまっているので社会保障に関しては中国はアメリカのような道を進むことになるだろう。

・年金の役割の一つに高齢者の過剰貯蓄を減らすということがある。日本の高齢者は過剰貯蓄の傾向はあるが、年金がなくなればもっと過剰に貯蓄し、消費はますます減るだろう。しかし、諸外国では六〇台で貯蓄のピークが来るのに対し、日本はその後も貯蓄が増え続け、六〇台よりも七〇台の貯蓄が多い。これはやはり社会保障制度に対する安心感がないのだろう。

・日本でも1948年に財産課税が行われた。10万円以上(現在の価値で5000万以上)の財産を保有する個人に課せられ、最高税率は90%(資産1500万超)。
天皇家がトップの納税で37億4000万円だった。

・社会保険の役割は雇用という観点からも重要で、リーマンショック時にはアメリカで1000万の雇用が失われたが医療、教育分野の雇用が増えた。日本でも2002年を基準にすると医療福祉の雇用は50%以上増えており、10年で238万人の雇用を創出している。

・年金の給付は年間56.7兆円になり、これが消費につながっていることも重要。地方では県民所得の多くを占めており、東京、愛知以外の45都道府県では県民所得の一割以上が年金給付。鳥取と島根では17%にも達する。

・高所得の高齢者に保険料を負担させたり、年金受給を待ってもらうことは低所得の高齢者への支援を若者世代に頼るのではなく、高齢者内での再分配でカバーするということで、こういう考え方をもっと社会保障の中に取り込むべき

・年金と医療・介護の決定的な違いは、後者の方が高齢化の影響を受けるということ。六五歳が七五歳になっても年金の額は変わらないが、医療・介護費用は増えるため、高齢者の中での高齢化が進むと給付が増える

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2018年04月22日

Posted by ブクログ

米国と比較して第二次大戦後の混乱期で格差が少なかったことが国民皆保険につながった。社会保障制度の成功は社会の同質性が条件であるならば出版時に成功とされていた北欧の社会保障制度が現在移民が原因で行き詰まっていることにも納得がいく。
多様性や競争は大事だろうけど安定した社会を作るにはバランスが必要。

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2023年03月04日

Posted by ブクログ

現役世代が社会保障のコストを負担する見返りの一つに、ジョーカーのような無敵の人による無差別殺人を防ぐ事があると思うのだが、果たしてこうした犯罪に対して社会保障に抑止力があるかは定かではない。それとこれは別次元の話で、セーフティネットが必ずしも犯罪抑止に効果があるわけではない。

社会が資本主義を選択し、企業や人間を競わせる事を前提にするならば、競争敗者への社会保障が必要という建前は分かる。また、そうした対象以外に寧ろ高齢者や介護の対応が必要で、120兆円の内訳は、年金60、医療40が圧倒的で生活保護は3程度。日本にいると暮らしやすいという実感はあるが、大多数は給与から保険料が引かれる現状に「諦めている」のが実態ではないだろうか。

本著を読んでも答えはない。ヒントはあるが、自分の頭で考える、当然の事。ネット上には、高齢者大量自決、現役世代を諦めるなどの極論もある。テクノロジーの前提を変えない限り、極論に至る。しかし、そういう意味で、戦後GHQによる外圧は極論を通すのには好機で、天皇家からも多額の税徴収に成功している。他力による革命と言えるが、こうした革命に期待するしかないのか。

それと、大衆の合理的無知。それによる世論形成の重要性という考え方を改めて思い出した。制度やルールを詳しく知ろうとしないのは、学ぶための手間が大きく、知った所で何になる、ここでも諦めの現象なのである。とにかく税金を払えば良いのだろう。諦めさせる、とは共通認知の社会において、大衆操作の大きなヒントになるだろう。恐ろしい話だ。

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2022年04月30日

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