あらすじ
年金局長、雇用均等・児童家庭局長等を歴任し、その間、介護保険法、子ども・子育て支援法、国民年金法、男女雇用機会均等法、GPIF改革等数々の制度創設・改正を担当。さらには内閣官房内閣審議官として「社会保障・税一体改革」を取りまとめるなど、社会保障改革と闘い続けた著者による書き下ろし。
日本の社会保障制度は、大きな曲がり角に差し掛かっています。安心社会の基盤となり、社会経済の変化に柔軟に対応し、社会の発展・経済の成長に貢献できる社会保障制度の構築は、これからの日本にとって必須の改革だと私は考えています。(中略)年金制度や医療制度を始めとする社会保障の諸制度は、市民一人ひとりの自立と自己実現を支えるための制度です。現代社会にあって、個人の自己実現を通じた経済の発展と社会の活力、そして市民生活の安定を同時に保障するサブシステムとして、人類が考え出した最も知的かつ合理的な仕組みであり、社会にとっても個人にとってもなくてはならない制度です。本書が、私たちにとってなくてはならない社会保障と、その社会保障制度が置かれている現状について理解するための一助になれば幸せです。(「はじめに」より)
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Posted by ブクログ
## 感想
- 普通に知識の勉強としてよかった。歴史を紐解く、というとあれだが、国民皆保険を作るところから現代までの話をざっと眺められた。
- 元、内閣官房内閣審議官の人ということで、どこかに寄った話だと嫌だなと思ったが、思ったよりもニュートラルな立場で書かれていた。最後の方はエモさもあったがご愛嬌(定量や戦略ではなく思いが乗っかる文章で終わる、という程度の意味)
## メモ
- 社会保障が理解されづらいのは
- ①政治・経済・雇用・家族政策・医療・など幅広くまたがるため。
- ②マクロ経済の仕組みを踏まえなければいけないが、ミクロ経済の感覚が混ざるため(往々にしてマクロにとって正はミクロにとって悪≒逆行する)
- 自助を基本とし、共助が補完し、それでもダメなら公助がある。
- 共助は、年金や雇用保険など、防貧の考え方。公助は救貧(救済施策。例えば年金で支払い能力がない人は保険料免除ができたりすることもそれ。)。
- チャレンジができて、失敗しても貧しない仕組み、がセーフティネットがある、と言える状態。
- 日本の社会保障は、終戦時期且つ高度経済成長時代だから成り立ったモデル。
- 号令で民営化したり中央管理的にしたり。
- 人口オーナスの時期、少子高齢化では、立ち行かなくなる。
- 逆に言うと、労働人口を増やすしか無い。
- 女性を増やす、高齢者でも働く、(外国人を受け入れる)、生産性を上げるetc
- 女性雇用ではなく、家族労働戦略(男女でどうやって総量としての雇用を増やすか)の視点で考えるべき。
- 日本の制度は、国民皆保険という奇跡や、医療や介護の手厚さはピカイチ。
- アメリカはいまだに保険に入れない人もいる。
- すぐ救急車呼んじゃうみたいな問題もあるが(やかかりつけ医などがないスウェーデンでは病院が数週間先まで待つとかもザラらしい
- 内部留保(会社が蓄えているお金)が多い
- 高齢者の貯金も多い
- ps.最後に、職場の後輩に引退時に送ったとされる文章が思いの外よかった。初めて社会人=公務員になった諸君へ。実態把握能力・コミュニケーション能力・制度改善能力、が必要だ、という話。
Posted by ブクログ
総論中心で読みやすい。社会保障の問題を考えるきっかけになった。
・近代化によって、農民は農村から都市の工場へと移動させられた。社会保障は近代化によって失われた社会=コミュニティーの相互扶助の機能を国家が代替・補完するもの
・社会保障は自立を支えることが目的なので、自分で支える自助が大前提で、これに加えて病気などでリスクを防御しきれなかった時に互いに支え合う共助から成る。自助と共助でカバーできない困窮などを公助によって補完する。自助のない共助はない、というのが基本的な考え方。
・社会保障給付は120兆円でGDPの22.8%。財源は6割が保険料、3割が公費、1割が保険料を原資とした積立資産の運用
・日本の社会保障の制度はよくできている。これは始めた時期(1950年)がよかった。皆貧しい時期だった。所得格差が開くと、みんなが同じ保険制度に入って、同じ保険料を払って、同じ給付を受けるということは無理。中国などは今となって所得の格差に応じた別々の制度しか作れないだろう。社会が既に分裂してしまっているので社会保障に関しては中国はアメリカのような道を進むことになるだろう。
・年金の役割の一つに高齢者の過剰貯蓄を減らすということがある。日本の高齢者は過剰貯蓄の傾向はあるが、年金がなくなればもっと過剰に貯蓄し、消費はますます減るだろう。しかし、諸外国では六〇台で貯蓄のピークが来るのに対し、日本はその後も貯蓄が増え続け、六〇台よりも七〇台の貯蓄が多い。これはやはり社会保障制度に対する安心感がないのだろう。
・日本でも1948年に財産課税が行われた。10万円以上(現在の価値で5000万以上)の財産を保有する個人に課せられ、最高税率は90%(資産1500万超)。
天皇家がトップの納税で37億4000万円だった。
・社会保険の役割は雇用という観点からも重要で、リーマンショック時にはアメリカで1000万の雇用が失われたが医療、教育分野の雇用が増えた。日本でも2002年を基準にすると医療福祉の雇用は50%以上増えており、10年で238万人の雇用を創出している。
・年金の給付は年間56.7兆円になり、これが消費につながっていることも重要。地方では県民所得の多くを占めており、東京、愛知以外の45都道府県では県民所得の一割以上が年金給付。鳥取と島根では17%にも達する。
・高所得の高齢者に保険料を負担させたり、年金受給を待ってもらうことは低所得の高齢者への支援を若者世代に頼るのではなく、高齢者内での再分配でカバーするということで、こういう考え方をもっと社会保障の中に取り込むべき
・年金と医療・介護の決定的な違いは、後者の方が高齢化の影響を受けるということ。六五歳が七五歳になっても年金の額は変わらないが、医療・介護費用は増えるため、高齢者の中での高齢化が進むと給付が増える