バルガス=リョサのレビュー一覧

  • ラ・カテドラルでの対話 (下)

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    圧倒的な筆力で書かれた20世紀文学の集大成。下巻では、ペルー社会の腐敗がえぐり出されていく。独裁政権が張り巡らせる権謀術数のもと、勝者と敗者とに分かれていく。そのなかで弱い立場の人間ほど、悲惨な結末をたどっていくし、強い立場の者には、敗れても、それなりの地位が残されている。最後、敗れたあとも、サンティアーゴ/サバリータが採った態度は"一寸の虫にも五分の魂"を示すものであり、そこに微かに人間の気高さに対する期待が残される。

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    2025年11月09日
  • 世界終末戦争(下)

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    もともとボリュームはあるけども、割と仕事を忙しくしていたこともあり結局上下読み終わるのに2ヶ月かかった。
    私にとっての初バルガス=リョサ。ラテン文学好きで、ノーベル賞作家なのに、初でした。

    ブラジルが帝政から共和国制に切り替わった19世紀末、時代の流れに取り残されたブラジルの内陸部地方エリアで勃発した通称「コンセリェイロ」率いるキリスト狂信者集団(作中ジャグンソと呼ばれる)の反乱と、それを鎮圧すべく向かうブラジル共和国との戦い。史実をベースに、細部がセミフィクション化された物語。
    史実の通り最終的には鎮圧される。鎮圧されるまでの両サイドの思想なり人間模様なりが、群像劇のように視点を変え語られ

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    2025年11月08日
  • ラ・カテドラルでの対話 (上)

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    長く、複雑で、シーンの数も登場人物の数も多いので、かんたんに理解できる小説ではない。しかし、退屈ではない。おそらくこれがバルガス=リョサがノーベル賞を授かった主な業績なのだろう。そう思うほどに前衛的なやりかたで、社会と政治の腐敗を描いている。話のおもしろさを理解するためには、サンティアーゴ/サバリータを主人公とみなし、父親のドン・フェルミンとの関係がどういうものか、そして彼自身がどういう人生を歩んでいくのかを常に見失わないことが必要だ。そうすれば、すべて人間関係を把握しなくても、本書のテーマが見えてくる。

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    2025年11月04日
  • 世界終末戦争(下)

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    ネタバレ

    内容についてのレビューではなくなってるので注意

    ■上げて上げて上げて落とす

    カヌードスの反乱を討つべく第三回遠征の指揮官となったモレイラ・セザル大佐。彼への期待はその華々しい登場で描写されている。多くの民衆が駅に駆け付け歓声を上げる、大佐は小柄だが他の有象無象とは違う雰囲気を醸し出し、ただ一人強者の風格を漂わせている。その隊は「常勝連隊」であり、大佐の愛馬である白馬がおろされる。極めつけは第一回遠征と第二回遠征の「敗者」カストロ大尉とフェヘイラ中尉との会話だ。大佐は補佐として連隊に加われという命令を受けた二人をどう扱ったか。ひと握りの盗賊にすら勝てなかった恥晒しなどに用はないと冷たく言い放

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    2025年09月18日
  • ラ・カテドラルでの対話 (下)

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    「誰かに打ち明けなければならないことがあるんだカルリートス、自分が中から焼かれているんで」とサンティアーゴは言った。「それで気分がよくなるなら、オッケーだぜ」とカルリートスは言った。「でも、よく考えろよ。時々オレも、危機に陥って打ち明け話に走ることがある、それが後になって重くのしかかってきて、自分の弱点を知っちまった人間を恨むことになる。明日になったらオレのことを恨んでいるなんて、ならないようにしてくれよサバリータ」(p.55)

    同じ事件、人物に対しても語られる視点で受ける印象が異なるのが面白かったなー。特にオルテンシア、ムーサに関しては、アマーリアからは優しい奥様だったのが、親友だと思って

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    2025年05月06日
  • ラ・カテドラルでの対話 (上)

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    ネタバレ

    面白いとは聞いていたが、ここまで面白いとは…ぐんぐん引き込まれて、今年ベストかもしれない。ハンガンの少年が来るといい勝負。バルガス=リョサ追悼ウィークはこの上下だけになりそうだけれど(分厚い!GW終わった!笑)、バルガス=リョサ大先生素晴らしい体験を有難うという感じです。

    「これまでに書いたすべての作品の中から一冊だけ,火事場から救い出せるのだとしたら,私はこの作品を救い出すだろう」
    そう著者が言うだけある作品…

    まず視点が自由間接話法を縦横無尽に使って入り乱れる。映像的ともいうべき交差で、最初は登場人物もわからないから、何が何だかという感じだったが、慣れるとこれが心地よいスピードで話が進

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    2025年05月06日
  • 密林の語り部

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    ネタバレ

    ひとつの文化に魅せられ、回心してその内部へと踏み込み"語り部"となるサウルと、文化を外側から物語にしようと試みる筆者(?)の2人の物語が交互に折り重ねられている。

    初め語り部の物語が始まった時、なれない情景や言葉に戸惑いつつも引き込まれている自分がいた。

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    2022年01月28日
  • 密林の語り部

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    2012.7記。

    「チボの狂宴」の著者バルガス・リョサ再読。ペルーの少数民族マチゲンガ族の「語り部」が伝える神話的記憶と、人類学者の考察やドキュメンタリー制作の描写が交互に描かれる。

    「木が血を流した時代」と語り部が呼ぶ、白人の過酷なゴムプランテーション経営による人口の激減、乱開発から滅び行く民族を守ろうと努力する同じ白人の人類学者たち。定住し農耕することを教え、人口維持に貢献する学者たちは、しかし同時に境界なく森を行き来する民族の誇りと文化を破壊したのだろうか?こうした問題を考えさせられながら、めくるめく神話の数々にも圧倒される。

    ところで、本作のハイライトである「大地の揺れ、怒りを鎮

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    2019年01月03日
  • ラ・カテドラルでの対話 (上)

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    ネタバレ

    いつも沖縄に出張にいくときにラテンアメリカの文庫を携えるようにしているが、最初、上巻だけ持って行った。
    面喰らいながら書いたメモが、以下。


    複数の会話が入り乱れる。時間の混乱。しかし似たトピックを話していたり、連想的に響きあったりすることもある。
    地の文においては、彼がいうのだった、と人称の妙。
    地の文は会話文で中断されなければ原則的に改行なし。
    おまえは何々だったなサンティアーゴ。と、作者の声なのか、サンティアーゴの自問自答なのか、も地の文に紛れ込む。
    地の文においても、たとえば208ページ、もちろん構わないのよ、いいことだと思っているのだった。と、直接話法?と間接話法?が入り混じる。

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    2018年12月05日
  • ラ・カテドラルでの対話 (下)

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    ネタバレ

    いつも沖縄に出張にいくときにラテンアメリカの文庫を携えるようにしているが、最初、上巻だけ持って行った。
    面喰らいながら書いたメモが、以下。


    複数の会話が入り乱れる。時間の混乱。しかし似たトピックを話していたり、連想的に響きあったりすることもある。
    地の文においては、彼がいうのだった、と人称の妙。
    地の文は会話文で中断されなければ原則的に改行なし。
    おまえは何々だったなサンティアーゴ。と、作者の声なのか、サンティアーゴの自問自答なのか、も地の文に紛れ込む。
    地の文においても、たとえば208ページ、もちろん構わないのよ、いいことだと思っているのだった。と、直接話法?と間接話法?が入り混じる。

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    2018年12月05日
  • 密林の語り部

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    ネタバレ

    語り部のことを小説にしたいと思う「私」と、(1・2・4・6・8章)
    マチゲンガ族に飛び込んで語り手になる「私」。(3・5・7章)

    頬に痣のあるサウル・スターラスが語り手に転身したことは謎でもなんでもない自明の筋だが、
    語り手になろうと思った彼の内面が徐々に明らかになるのが凄い。
    流浪のユダヤ人である(ペルーの白人社会の中ではマイノリティ)こと。
    頬に痣のある畸形的な外見であること。
    マチゲンガ族では畸形の嬰児を川に流すという風習。
    どれだけの驚愕と怒りを自分自身の実感として受け止めなければならなかったことか。
    自分のトーテムであるオウム、足が不完全に産まれた子を母オウムから奪い、肩に載せて旅

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    2016年06月05日
  • 密林の語り部

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    私は怒りを感じる。〈車や大砲や飛行機やコカコーラがないからといって、彼らを滅ぼす権利があるとでもいうのだろうか?〉宣教師たけでなく民俗学者も悪だ。彼らと共に生活し、ジガバチが芋虫に産みつけた卵から孵る幼虫のように彼らの内部から破壊するのだ。マチゲンガ族はロマのように放浪する民。しなやかな強靱さをもつ。語り部は物語る、世界の生成、月と太陽、善き神と悪魔、死者の国、タブーなどを。顔に傷のあるカシリの偽りの光ではなくタスリンチに息を吹き込まれた真の光だった。密林から呼ぶ声がする。マ・ス・カ・リ・タ…

    〈聖書、二言語の学校、福音の指導者、私有財産、金銭の価値、商業、洋服…それらがすべて向上に役立つと

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    2014年08月13日
  • 密林の語り部

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    バルガス=リョサは最も好きな作家の一人だ。今まで読んできた彼の作品はどれも、近代的社会と前近代的な文化という二つの世界を対位法的に描くことで世界の可能性を暴き出しながら深い感動へと導いてくれる。密林の向こう側から紡がれる物語はかつて語る事が社会そのものであったという事実を私たちに突き付け、それをこちら側の世界から懸命に語ろうとすることでその可能性を乱反射させる。例えそれが解読困難な呪文の様なものであろうとも、遠い世界に手を伸ばそうとする事を決して諦めてはいけないと思わさせてくれる素晴らしい読後感であった。

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    2014年05月09日
  • 密林の語り部

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    味わったことのない読書体験。物語そのものに引力があって引き込まれた。語り部という存在、語る言葉、その全てが楽しく幸せだった。

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    2013年04月30日
  • 密林の語り部

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    「密林の語り部」(バルガス=リョサ)を読み終わりました。私は静かに目を閉じて密林に差し込む月の光を想い、密林に降る雨を想い、マスカリータを想い、そうして少しだけ悲しくなった。近代化という大きなうねりの中でしだいに失われていく神話や知恵について、痛みに似た喪失感を伴う静かな物語。

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    2011年10月27日
  • 世界終末戦争(下)

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    大変興味深かった。
    ブラジルで実際に起こったカヌードス戦争(1896-97)の話。

    救世主と呼ばれたアントニオ・コンセリェイロ。彼が説教をして歩いていると次々と人が集まり、彼と彼を崇める何万もの人がカヌードスに定住する。国家をアンチキリストと称し軍と戦い、軍に全滅させられる。

    読んでいると、そこから生じた様々な思いや考えが頭を占めてしまい、のろのろ読みになって読み終えるのにだいぶ時間がかかってしまった。
    感想とかどんな本なのかとかまとめられるような作品ではなく、人間の、社会の、全てがある気がする。

    上巻は矛盾について皮肉を込めて書いているという印象。
    例えば、人殺しが信仰に目覚めてやっと

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    2025年12月05日
  • 密林の語り部

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    真に他者、異文化を理解することと、それと同化することの間に大きな隔たりがある。理解は対象を分析し自身のコードに合わせて再構築すること。同化は自身がそれまでに得た世界観を捨て、生まれ変わること。同化には完全な理解は必要ないのかもしれない。サウルはマチゲンガ族が不具の子供を殺す理由を理解できなかった。

    サウルは西洋的な価値観は捨てたが物語は捨てなかった。カフカやユダヤ教、キリスト教の物語。サウルは密林の物語の中に自身の物語を自然に織り交ぜて同化した。これは宣教師や学者の理解とは違う。

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    2022年12月07日
  • ラ・カテドラルでの対話 (上)

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     語りの手の語る過去や心情と、まったくそれとは別の場面の状況などが入り混じった文章になっており、読み進めるのにはじめは戸惑った。しかし、全く別の場面が交錯する箇所で、どちらの場所での発言ととれるセリフなどが出てきて、こういう表現はドラマや映画的でおもしろいなと思った。
     始終ドタバタだが、最後の兄弟の束の間のやりとりにほっこり。下巻も早く読まなければ。

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    2021年12月22日
  • 密林の語り部

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    ルソーの絵がまた良い。ふと、池澤夏樹のマシアス・ギリの失脚を思い出した。リョサの、楽園への道もおすすめ。

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    2020年08月24日
  • 密林の語り部

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    南米文学の「普通」に慣れるにはまだまだ読書量が足りません。。南米文学自体がもはや密林。歩き回ってぐるぐる迷っているような、濁流に豪快に流されるような。

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    2023年03月22日