八木敏雄のレビュー一覧
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言わずと知れた世界文学史上に残る名作、その新訳。
いやはや、面白いです。上巻は語り部・イシュメールの自己紹介に始まり白鯨・モービィ・ディックについての叙述で終わる、いわば導入編ですが一気に読み進めてしまいました。
とにかく登場人物がいい。主人公、というよりもどこまでも諦観的な語り部であるイシュメール、その親友となる「高貴なる野蛮人」クィークエグ、そして何より狂熱と知性を併せ持つ復讐の鬼・エイハブ。衒学的、かつ時に冗長ですらある語り口が、かえって彼らの個性を際立たせています。「主要登場人物」に記載された以外の人物――元船乗りのマップル牧師、不吉な預言を残す謎めいた男・エライジャなどなど、彼らも出番は少ないながら鮮烈な印象を残します。
先に述べたように物語としては完全に導入部、それでありながら一気に読み進めることが出来るのは文章の力ゆえでしょう。戯曲のように記された章があるなど、文体の工夫という意味でも興味深いです。
新訳ということもあり非常に読みやすい。様々な研究を踏まえた注釈も充実しており、快適に読み進めることが出来ます。お勧めです。 -
Posted by ブクログ
1000頁を超える大作だが、主役のモビー・ディックが登場するのはラスト70頁のみ。しかもモビー・ディックの完勝。エイハブ船長もさぞ悔しかろう、と思いきや、晴々とした感じで呆気なく退場。
普通の小説ではない。この小説が強烈な印象を残す理由のひとつは、話の筋とはほとんど関係のない、鯨学・鯨愛に案する記述の圧倒的な量。もうひとつは、棺桶が救命ブイの役割を果たす、という、人間世界を(?)象徴するような逆説的な設定だろうか。
この設定は、この小説の構想の初期段階からあったのだろうな、と思うくらいに筋書きにしっかり組み込まれている。
船内備え付けの救命ブイが破損してしまったため、本来死者のための棺桶(クイークェグが死にかけた際に船内大工に頼み込んで作ってもらったものの、回復して余ったもの。船内で人が亡くなった際は、棺桶に入れずに海葬するのが普通のよう)が、隙間を埋める作業を追加で施して救命ブイに作り替えられる。船が沈没した際に、このブイが浮かび上がってきて、イシュメールは命を得る。この展開には、何かしら天啓的なものを感じずにはいられなかった。
これで、モーム選十大小説も未読は残り一作品となった。(フローベールの「ボヴァリー夫人」)
本作「白鯨」はアメリカ作品で唯一の選だが(英4、仏3、露2、米1)、アメリカ人的には納得感があるのかよく分からない。おそらく、これよりよい作品・人気がある作品は山とあるのだろうけれど、独特の存在感を持って屹立する作品、という感じで選ばれたのだろうか。モームの選評の本(エッセイ)はまだ読んでいないので想像だが。
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Posted by ブクログ
上巻は出航まで。中巻では未だモビー・ディックに遭遇せず。大半は鯨に関する論文とエピソードで、物語は殆ど進展せず。これは「小説」というよりは「鯨の本」としか言いようがない。
冒頭の主要登場人物の欄には、以下の説明があるが、イシュメールは捕鯨船初乗船の設定なので、鯨について語り続ける主体は、メルヴィル自身としか言いようがない。この視点が揺れ動く点からも「小説」っぽくはない。が、そんなことはどうでも良いくらい独特の本。
“イシュメール
物語冒頭に語り手として登場するが、「第一人称の語り手」の分限を遵守するのは第二二章まで。あとはピークオッド号での役割を最小限度に果たしながら、船上の出来事や洋上の冒険を「参加者」の視点から、また「全知全能者」の視点から語る。”
最後の方で、アメリカ捕鯨協会が作成した制度として、次のシンプルな2箇条が登場する。
一、しとめ鯨は、しとめた者に属する。
二、はなれ鯨は、だれにせよ最初にしとめた者に属する。
具体的な判例も出てきて、面白い。
見つけた鯨に船Aが最初に銛を打ち込んだものの、鯨に潜られて、ボートごと沈められたあと、弱った鯨を別の船Bが仕留めた場合、ボートはAに、鯨と刺さったままのAの銛はBに属する、という判決。
コロンブスのアメリカ大陸“発見”もこの原則の変形版として語ってあり、アメリカ人の世界観を象徴しているなあ、と感心した。
マッコウクジラの巨大な頭は、頭蓋骨の上(オデコと鼻の上)に巨大な油タンク(鯨油)が乗っていて、潜水する時には海水で冷やして凝固させ体積を減らし、浮上する時には、血液で温めて融解させ体積を増やす目的のようで、船・潜水艦でいうバラストタンクの役割のようだ。この鯨油の便宜を求めてペリーが来航し、更に昔ワシントンは鯨油の灯りで独立戦争の指示書を書いた、と考えると、鯨油は世界史に大きく影響しているわけで、不思議な気持ちになる。
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Posted by ブクログ
読んでいる時の面白さは勿論として、読むことで知ったこと(知識)や感じたこと(感情)を記録し、纏めて整理するために考える(思考)、その過程や結果の記録として、記憶に残すためにこの文章(書評)を書いている。そしてこれを書くことの意味を強く感じる。
この小説は鯨や鯨漁ついてあらゆる角度から分析されていてその知識量たるや膨大である。特にマッコウ鯨のことについて、餌としてのオキアミやダイオウイカのこと、頭から噴き出す噴水のこと、セミ鯨との比較、そして世界の海でどのように生息しているかなど、とにかく詳しく描写されている。鯨の生態学の本のようだ。あとはキリがないので省くことにする。
モビー・デックの独特の白さに迫るために、「白」に関する事をいろいろな観点から延々と描写することから、この中巻は始まる。とにかく説明が長い。
これ程丁寧に詳しく登場人物や対象、それらに関する事を描写する小説も珍しいが読んでいて余計なことを描いているとは感じない。片脚のエイハブ船長がピークオッド号で世界を航海しながら白鯨モビー・デックへの復讐戦を仕掛けるための舞台造りが着々と進行する、その期待感が増すばかりである。 -
Posted by ブクログ
ネタバレクジラが好きになるような方向性はないとは思うけど、クジラの柄のついた手ぬぐいとか見たら、買おうかしらと思ってしまう。
クジラ、船、捕鯨の知識、幾人かの登場人物についてピックアップしたエピソード。
話があっちこっち飛んで、「このトークいる〜?」っていうのも多かったけど、全体的には楽しめた。
エイハブvsモービィ・ディック。ひたすら白鯨を追う。
ボートに乗って銛で突いてって、大きな鯨にそれでいいの?って。命がけ。
戦いの時は壮大な迫力ある映像が浮かぶ。
最後に悲惨な生き残りの戦いはなく(捕鯨において、生き残った者同士が食べる事件が実際にあった)最後は語り手一人イシュメールのみだったから丸く収まったというか。