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Posted by ブクログ
「白」の魔力を教えてしんぜよう。
そう言わんばかりに冒頭の章で「白」が持つ神秘性、潔白性、畏怖性、荘厳性などなど他の色には持ち合わせていない本質的な特別性が語られ、いかに「白鯨」という無限の可能性しか感じない存在の魅力を伝えんがせんとする姿勢は、文学の自由性を象徴しているかのようだ。普通の作家は白に注目して多角的に捉えて考察し紹介しようとはしない。
この他にも、捕鯨の仕方や捕鯨後の解体のやり方、鯨の器官に関する説明、鯨にまつわる神話の考察などなど、およそ捕鯨を目的とした航海物語の枠組みだけにはおさまらない小説となっている。いや、鯨に関する雑学本と言っても過言でない。
正直、読むのは中々にガッツがいる。翻訳本だし古いし、宗教や地理や歴史に浅いんだもの、「お前はとんだ無知人間だな」とひたすらボディーブローでサンドバッグにされていた。でも読み進めていくうちに慣れの影響か楽しくなってくるドM性も萌芽してくる。そう思わされるのは、間違いなく作家としての修辞や論理展開の緻密な言葉運びなのであろう。
もちろん、そもそもとして鯨に魅力を感じている自分もいるが、それ以上に著者の鯨に対する愛が迸っているのだ。執念といってもいい。あるいは小説というていを保った捕鯨の論文と言ってもいい。すなわち、1800年代の鯨捕りにとってのバイブルなのだ。
あぁ、メルヴィルよ。残すは下巻の一冊となってしまった。ピークオッド号の冒険もあと数日で終わってしまう。
Posted by ブクログ
『白鯨』新訳版、その中巻です。
上巻はイシュメールが船出するまでを描いて「物語」然としたところがありましたが、中巻はだいぶ趣が異なります。捕鯨船での日々、マッコウクジラとの死闘、そして鯨にまつわる衒学的・百科全書的な語りと、まさに鯨尽くし。特に第八十七章「無敵艦隊」は、鯨のユートピアとでも言うべき光景を描いていっそ幻想的ですらあります。
イシュメールの語りが「イシュメール自身」から「全知全能の第三者」まで自在に行き来するのも面白いところ。一人称から三人称への振り幅が大きく視点がころころ変わります。最初は読み辛いと感じるかもしれませんが、慣れてくるとこれがまた楽しい。イシュメールの視点と神の視点へ、また神の視点からイシュメールの視点へと行ったり来たりを繰り返すことで、捕鯨船ピークオッドの様相が立体的に浮かび上がってきます。
狂える船長エイハブ、高貴なる野蛮人クィークエグら、登場人物の魅力も相変わらず。特に、楽天家の航海士スタッブは諧謔においても捕鯨においても中巻の主役ともいえる活躍を見せてくれます。軽口を叩きながら離れ業をやってのけるスタッブの姿は必読かと。
上巻に引き続き、お勧めします。
Posted by ブクログ
上巻は出航まで。中巻では未だモビー・ディックに遭遇せず。大半は鯨に関する論文とエピソードで、物語は殆ど進展せず。これは「小説」というよりは「鯨の本」としか言いようがない。
冒頭の主要登場人物の欄には、以下の説明があるが、イシュメールは捕鯨船初乗船の設定なので、鯨について語り続ける主体は、メルヴィル自身としか言いようがない。この視点が揺れ動く点からも「小説」っぽくはない。が、そんなことはどうでも良いくらい独特の本。
“イシュメール
物語冒頭に語り手として登場するが、「第一人称の語り手」の分限を遵守するのは第二二章まで。あとはピークオッド号での役割を最小限度に果たしながら、船上の出来事や洋上の冒険を「参加者」の視点から、また「全知全能者」の視点から語る。”
最後の方で、アメリカ捕鯨協会が作成した制度として、次のシンプルな2箇条が登場する。
一、しとめ鯨は、しとめた者に属する。
二、はなれ鯨は、だれにせよ最初にしとめた者に属する。
具体的な判例も出てきて、面白い。
見つけた鯨に船Aが最初に銛を打ち込んだものの、鯨に潜られて、ボートごと沈められたあと、弱った鯨を別の船Bが仕留めた場合、ボートはAに、鯨と刺さったままのAの銛はBに属する、という判決。
コロンブスのアメリカ大陸“発見”もこの原則の変形版として語ってあり、アメリカ人の世界観を象徴しているなあ、と感心した。
マッコウクジラの巨大な頭は、頭蓋骨の上(オデコと鼻の上)に巨大な油タンク(鯨油)が乗っていて、潜水する時には海水で冷やして凝固させ体積を減らし、浮上する時には、血液で温めて融解させ体積を増やす目的のようで、船・潜水艦でいうバラストタンクの役割のようだ。この鯨油の便宜を求めてペリーが来航し、更に昔ワシントンは鯨油の灯りで独立戦争の指示書を書いた、と考えると、鯨油は世界史に大きく影響しているわけで、不思議な気持ちになる。
Posted by ブクログ
読んでいる時の面白さは勿論として、読むことで知ったこと(知識)や感じたこと(感情)を記録し、纏めて整理するために考える(思考)、その過程や結果の記録として、記憶に残すためにこの文章(書評)を書いている。そしてこれを書くことの意味を強く感じる。
この小説は鯨や鯨漁ついてあらゆる角度から分析されていてその知識量たるや膨大である。特にマッコウ鯨のことについて、餌としてのオキアミやダイオウイカのこと、頭から噴き出す噴水のこと、セミ鯨との比較、そして世界の海でどのように生息しているかなど、とにかく詳しく描写されている。鯨の生態学の本のようだ。あとはキリがないので省くことにする。
モビー・デックの独特の白さに迫るために、「白」に関する事をいろいろな観点から延々と描写することから、この中巻は始まる。とにかく説明が長い。
これ程丁寧に詳しく登場人物や対象、それらに関する事を描写する小説も珍しいが読んでいて余計なことを描いているとは感じない。片脚のエイハブ船長がピークオッド号で世界を航海しながら白鯨モビー・デックへの復讐戦を仕掛けるための舞台造りが着々と進行する、その期待感が増すばかりである。
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