深谷忠記のレビュー一覧
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元暴力団員畑村順次を刺殺したとして逮捕された矢代昌宣は、一旦は犯行を自供しますが、裁判では一転して犯行を否認、無罪を主張します。堀内利勝警部が発見した物証、血のついたシャツには決定的証拠とするには疑わしい点がありましたが、結局、滝川実を裁判長とする裁判官らは、矢代に有罪判決を下します。矢代は服役中も無罪を訴え続けますが、結局獄中で病死します。菊山事件と呼ばれるこの事件は、近しい関係者以外には忘れられていきますが、この事件を決して忘れない、矢代が犯人でないことを知っている人間がいました。それは真犯人です。
何年も後、遠く離れた場所でひき逃げ死亡事件が発生します。被害者は、菊山事件を裁いた元裁判長滝川実、加害者として拘留されたのは、同じ事件で捜査の中心だった元警部堀内利勝でした。堀内は一旦は犯行を自供するものの、後に無罪を主張、そうする中で、自分は計略に嵌り、自らの強引な捜査で有罪とされた菊山事件の矢代と同じ立場に立たされていることを知ります。
この本のテーマは冤罪です。自白を後に翻す容疑者に対し、やってもいないことを自供するはずがない、あれは最後のあがきだなどと私たちは思いがちですが、作者は本の題名の通り、虚偽の自白に導かれる風景を説得力を持って描いていきます。証拠を捏造したり、自白を強要したりする捜査官に、罪の意識はほとんどありません。それは彼らが非人間的だからではなく、彼らは状況から被疑者の有罪を確信していて、運悪く決定的証拠がないだけだと考えているからです。自分たちの行為が正義だと思っている以上、彼らの良心が暴走を止めることは期待できないでしょう。
この本はミステリーなのですが、作者にはまず描きたかった題材として冤罪の構造があり、ミステリー作家である以上、それをミステリーを通して表現した、私にはそんな風に感じられました。だからといって娯楽性が低いわけでは決してなく、人間の挫折、偶然事件に巻き込まれる理不尽さ等を考えながら、最初から最後まで飽きることなく一気に読めます。結末も、先を読むのが得意でない私には意外でした。社会派ミステリーの傑作であり、お勧めの本です。 -
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病院内で筋弛緩剤が盗まれた直後、入院患者が殺された。
死因は筋弛緩剤の投与。
殺された入院患者は、妻に対するDV、看護師に対するわいせつ行為、他の患者や医師に対して暴言を吐く問題の多い人物で、誰にも殺害の動機があった。
事件に潜む“毒”とは・・・。
以前テレビ番組『超再現!ミステリー』で取り上げられたものなので、ご存知の方も多いかも?
番組を見る前に本を買っていて、よりによって読む前に番組を見てしまったのですが。
原作は、再現ドラマよりも深く濃いものでした。
ドラマには出て来なかった人物やエピソードが多かったので、またちょっと違う話のようにも見えました。
犯人がわかっている状態で読んだので、その人物に注目して読み進めましたが、それでもやっぱりそんな素振りがない。
どんでん返し最高です。 -
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看護師の麻衣子は半身麻痺の患者・池村に自殺の意思を打ち明けられます。自殺を止めるよう説得した麻衣子は、池村から毒薬・硝酸ストリキーネを預かり、家に持ち帰ります。
一方、麻衣子の婚約者であり、同じ病院に勤務する医師、真之のもとに、真之の子供時代の親友の父親・松永が入院してきます。
松永は妻や子供へのDV、周囲へのモラハラ・セクハラで病院全体が迷惑する存在ですが、VIP待遇のため退院させることもできません。
そんななか、病院内で毒薬の盗難事件が起こり、ほどなくしてその薬を使用したと思われる殺人事件が起こります。殺されたのは松永であり、当日深夜に病室を訪れた真之が逮捕されてしまいます。
麻衣子と松永の妻である綾乃の目線で物語が進みます。前半は主に松永の病院や家庭での傍若無人な振る舞いや事故で亡くなった息子への回想が描かれ、後半は麻衣子が真之の不起訴にむけて奔走します。
松永の殺害犯が判明する展開は、予想が二転三転し、最後に明かされる真犯人はまったくのノーマークだった人物。そうなると、冒頭に語られた人物こそ真犯人だったのでは?という疑問まで湧いてきます。
わかりやすい毒を持つ松永と、毒を心に隠していた人物。どちらも同じく人を傷つけるのに、ある意味後者のほうがタチが悪い。
毒の存在がなくなったラストですが、はたしてこれでよかったのか...と思わずにはいられない、人の弱さが引き起こした悲劇にやるせない気持ちになりました。 -
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あらゆる「殺人者」の概念を伝えてくる本。
一般的な人を殺した殺人者、人の心を踏みにじって魂を殺した殺人者、自らの心を殺して殺人者になった者。
児童虐待についての議題もしっかりとあって、親と一緒にいない方がその子の幸せなのか、たった一人の親だからという難しい線引きについても考えます。
最初の方は、少女の祈りについてや、それぞれの家庭についてなどが続くのでいつ事件の核心が始まるのかと思ってしまいました。
何となく直感でこいつだろ!とか想像してたら当ててしまいました笑
こんなにも世の中にはいろんな人間がいるんだなぁとキャラクターの個性があって登場人物は覚えやすいです。タイトルの回収もあって全体的にまとまる感じの話でした。
この作家さんの他の作品も読んでみます。 -
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良くできた話です。面白かった。
話は女児誘拐殺人の裁判結審のシーンから始まります。
被告人・柏木は懲役15年の刑が言い渡される。
刑期を終え出所した柏木は自らのホームページの中で冤罪だったと主張。
そして自白に追い込んだ元刑事・村上の周辺に頻繁に現れる。
柏木は本当に無実なのか?真相は何処にあるのか?柏木の目的は何?
よく練られたストーリーで安直には展開が読めません。
割と重いテーマですが軽快に読ませます。
最後も割とどんでん返しなのですが「そう来るのならこの人の言動は???」と思う展開が・・・
決して辻褄が合わない分けでは無く、作者はしっかり説明していますが、私は別の展開にした方が良いと思った。
惜しい! -
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夫を殺害したとして有罪判決を受けた妻。しかし、本人は殺していないと主張しつづけている。控訴をしようと奔走する女弁護士。一方、暗い過去を持った小説家が、ある1通の手紙から、事件と関わるようになります。果たして、事件の真相は?
この作品、なんといっても約630ページという読み応えのある内容でした。いかにして、妻を無罪にさせるのか。有罪をひっくり返させるような事実をどう掴んでいくのかが楽しめます。詳細に丁寧にその過程が描かれているので、現実にあったんじゃないかと思うくらい、リアリティがありました。
さらにこの事件だけでなく、小説家の暗い過去の事件にもフューチャーされています。事件と似ている部分もあり、二つの事件の中心に小説家と弁護士の二人の視点が交互に進行していきます。
「目撃」という人の記憶が招く証言。時間が経っての完璧な記憶って存在しないんだなと改めて感じました。曖昧な記憶や周りからの影響によって培われて、あたかもあったかのように形成される。目撃証言の問題点を突いた作品で楽しめました。
次々と明らかになっていく事件の真相。深みにハマるかのようにどんどん意外な真実が出てきて、さらに読みやすかったので、どんどんページが進んでいきました。
ラストは…わかった部分があったり、うやむやな部分もあったりと全て解決というわけではありませんでしたが、そこが現実的でもありました。
人の記憶の曖昧さ、人と人との言葉のぶつけ合い、事件解決へと導く過程がゆっくり堪能できた作品でした。 -
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上下巻読み通しての感想。
登場する人物達がみんな複雑に絡み合っている。
相関図にすればひと言で済んでしまうような関係だけれど、そこに至るまでは互いの関係がはっきりとしないまま物語は進んでいく。
主人公である平岡道義は3歳で両親を放火殺人で殺されていた。
父か母か、どちらかの手によって炎の中から外へ放り出された彼は、大変なやけどを負ったものの命は助かる。
燃えさかる炎への恐怖、成人してからもときにパニックに襲われてしまう心に刻まれた大きな傷跡。
幼い道義が経験した過酷な過去である。
やがて道義は警察官となり、その後代議士・大河原の私設秘書を経て、現在は調査事務所を開いていた。
秘書を辞しても大河原との縁は切れることはなく、大河原の孫が誘拐された事件をきっかけに、自分自身を襲った過去の放火事件を調べ始める。
自分を守るために嘘をつき続けた人たち。
過去に犯した犯罪も、結局のところ自己保身のための身勝手な犯行でしかない。
否応なく巻き込まれてしまった道義こそ、彼らによって人生をそのものを狂わされてしまったと言ってもいいと思う。
だからこそ、亜矢との出会いの意味は大きい。
人としてもう一度人生を歩んでいくことが出来ればいいなあと思う。
かなりの長編だったけれど、その長さが特に苦にはならなかった。
構成も展開も壮大になりすぎた感じがしないでもないけれど、「運命」というものを感じた物語だった。 -
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本分よりの引用
「私も、これまでは世にある冤罪はひと事だと思っていた。
今は、条件さえそろえば、いつでも無実の罪が着せられるものだということが生身でわかる」
群馬県梅ヶ原市郊外で、轢き逃げ事件が発生した。
被害者は滝川という老人で、間もなく元刑事・堀内が逮捕される。
堀内は無実を主張し、弁護を牧に依頼してくる。
実は牧と堀内、そして滝川の間には、16年来の因縁があったのだ。
上記引用部分は、1994年に起きた松本サリン事件で重要参考人として取調べを受けた河野善行さんの言葉で、作品の中にも登場する一文である。
冤罪事件のニュースが流れても、所詮は他人事だ。
話題になっているときはそれなりに情報も入ってくるが、大概の場合、後日談はない。
冤罪をテーマに真正面から取り組んだフィクションが少ないなら、自分が書いてみようと思ったのが執筆のきっかけだという。
冤罪は多くの人を巻き込みながら、誰ひとりとして幸せにはならない。
もし唯一の例外があるとしたら、真犯人くらいだろうか。
本当に無実なら、犯罪・・・まして殺人となったら自供などするはずがない。
一般的にはそう思うのがあたりまえだし、何となくではあるけれど私もそう思っていた。
しかし、落とし穴はどこにでもある。
誰かが・・・特に警察が・・・本気で犯人だと思い込んだら、逃れるのは相当に難しいだろう。
どんなに綿密な計画を立てたとしても、意図的に仕組まれたものはいつかは露見する。
犯人も、いずれは捜査の手が伸びてくることをどこかで覚悟していただろう。
しかし、あの裁判でのドンデン返しには驚いた。
「そうきたか!!」と絶句した。
真犯人の動機だけがいまひとつ説得力に欠けているような気がしたが、それも作品の完成度の高さの前ではかすんでしまう。
読み応えもあり、考えさせられる作品としても、読んでよかったと思える作品だった。 -
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ネタバレひとに薦められて。
初めて読む作家さん、ふかやただきさん。
読み始めて知る…これ、シリーズだ。
『信州・奥多摩殺人ライン』(’92講談社文庫)という作品から、数学科教授助手・黒江壮&編集者・笹谷美緒のコンビがスタートしているよう。
2人の人となりを知らないのは、ちょっと残念だけれど、そのあたりは特に戸惑わずに楽しめた。
真面目なミステリ、という印象。
好奇心旺盛で事件にしゃしゃりでるタイプの探偵ではない。
今までにも事件を解決してきたのは、壮の“趣味”、“習性”らしいのだけれど、被害者のひとりが自分の都合のためだけに美緒たちの事情を構わずに事件解決を依頼してくると、ぴしゃりと「そんなことをしている時間がない」と断る。
とりあえず、“警察”をおすすめする、大人の対応。
自ら、探偵だと威張ることも、そういう意識もない。
オトナ~。
でも、キャラクタが薄いというわけではなくて、壮と美緒はきっちり、ホームズとワトソンの役回りとなっているし、無口で何を考えているかよく分からない壮と、てきぱきしっかり者の美緒のやりとりは微笑ましい。
とはいえ、この2人のやりとりだけに焦点をあてすぎていないところが、この作品のまじめバランスをとっているのかも??
岡本綺堂の戯曲、「修善寺物語」に出てくる、夜叉王は源頼家に頼まれて、面を作り、それに“死相”を見る。
そして、その面を持って帰った晩、刺客に襲われ、命を落とす…。
周三は、夜叉王と同じように、才能があり、“死相”を見出したのだろうか?
服部啓吾の周りで起きる事件。
啓吾の悪い評判。
過去に起きているトラブルの数々。
事件の真相は、いかに??
トリック?自体はそんなに奇異を狙っているわけではないものの、ラストは切なく、物悲しく、しかし、けして後味は悪くなかった。
なかなか面白かったので、他の作品も、読みたい。