フォークナーのレビュー一覧
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ネタバレディープサウスの田舎町を舞台に繰り広げられる、壮絶な物語。一つの事件を様々な登場人物の視点から語ることで、当時のアメリカ南部の宗教的価値観や人種問題を克明に描き出している。
内的独白や葛藤が究極の密度で描写されるため、多少読みにくい部分はあるものの、翻訳がとてもよかった。
この物語のテーマをあえて一言で表すならば、「孤独」。登場人物の誰しもが何らかの孤独・内面的葛藤を抱えており、それら「社会のはぐれ者」の視点から当時の南部の因習を語ることで、作品の深度を高めている。
リーナとバイロンがテネシー州に一緒に行くラストは、希望的に描かれていると感じた。バイロンの内的独白『人間ってたいていのことには耐 -
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1976年の夏、ぼくはフォークナーを三冊、続けざまに読んでいる。『サンクチュアリ』(1931年作品)『八月の光』(1932年作品)『フォークナー短編集』(1950年)。『響きと怒り』(1929年)も読んでいる気がするのだが、記録にはないので間違いかもしれない。いずれにせよ当時、ぐいぐい引っ張られたことを覚えているのと、何とも暴力的な世界だとの印象が残る。強烈な暴力の印象が。『サンクチュアリ』は二十歳のぼくにとってとても衝撃的で、しかも魅力的であった。それから半世紀近くが過ぎようとしている今、フォークナーの『野生の棕櫚』(1939年)が文庫化され目の前に出現。フォークナー作品で受けた衝撃は覚え
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フォークナーの野生の棕櫚。ゴダールの『気狂いピエロ』だったと思うけど、映画の中でJ・P・ベルモンドが読んでいた小説。『Perfect days』で役所広司も読んでいた。野生の棕櫚とオールドマンが交互に配置されることでフォークナー自身が言うように独特の効果を発揮している。単に野生の棕櫚だけだったら普通の?恋愛小説になっているところに、全く関係のないオールドマンを重ねることで、野生の棕櫚にそもそも飽きが来ないようになっているし、関係性を探るような深読みも誘う。
生き急いでいるように感じる2人を描く野生の棕櫚と、どこか達観した2人を描くオールドマンの関係がなおさら、野生の棕櫚の2人の痛々しいまでの関 -
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かなりひどいことが起きているのに、カラッとした読み味で読み終えられたのはオールド・マンのおかげなのだろう。野生の棕櫚に見られる一組の男女の悲しい顛末を、オールド・マンのなかの囚人と妊婦の長い旅の場面が差し込まれることで、うまく気持ちをフラットにしたまま読めた。オールド・マンが、まるで老人と海のようでもあり、自然に翻弄されながら必死にボートを漕ぐ囚人がユーモラスに映る。でもオールド・マンだけを読んでも、多分あまり意味がないのだろうと思うから、この交互という形が完ぺきなのだろう。
フォークナーは読むのに時間がかかるのに、また読みたくなる。光とも暗部とも取れるこのエネルギーを受け取りたい。自分の大 -
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小説におけるオールタイムベストに「八月の光」を挙げている私は、その著者フォークナーの文庫最新刊に当たる本作の発売を楽しみにしていた
ミシシッピ州に属す架空の街(ヨクナパトーファ郡)を舞台に、様々な登場人物たちの人生が交錯するサーガ形式であったり、或いは、代表作「響きと怒り」に用いられた、言葉を持たない(話せない)者の意識の流れを綴った文章表現であったりという具合に、小説の可能性を常に追求し続けた作家、それがフォークナーと言っていいだろう
そんな革新派スタイルの彼が、ここで試みたのは、異なるふたつのストーリーを交互に語り進めていく「二重小説」だ。元医学生と人妻が世間のあらゆるシガラミから逃れ -
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ネタバレ・wikipediaに詳細なあらすじがあるので、参考になった。
・棕櫚(シュロ)で通じているが、実は椰子(ヤシ)らしい。
・スイカズラではないのだ。舞台もヨクナパトーファではない。
・中上健次「野生の火炎樹」はオマージュしているわけだが、たぶん内容は関係なく、タイトルだけだろう。
・ちょうど前に読んだのが、バルガス=リョサの「フリアとシナリオライター」だった。年上の世慣れた女に手ほどきされた、という構図。また、帯に「二重小説(ダブル・ノヴェル)」とあるが、リョサ作は作中作であっても二重小説ではないだろう。
・奇数偶数で交互に語られる小説は多くあるが、だいたいは絡む。本作は場所も時間も異なり、絡 -
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リーナ・グローヴ、ジョー・クリスマス、ゲイル・ハイタワーの3名を中心に物語が展開してゆく。物語は全体としては当時の黒人差別問題も相俟って、暗く陰気な感じで覆われているが、リーナにはどこか明るい雰囲気も漂う。ルーカス・バーチを追い求めて歩き続けてきたという導入部も、行動じたいはけっしてポジティヴなものとはいえないが、いっぽうで心の片隅に希望を抱いているからこそ、あてどのない旅を続けることができるのである。また、リーナは最終的に出産し、「人間ってほんとにあちこち行けるものなのね。」というセリフで締められる。さしづめ「希望」の物語である――というのは早計で、じつは希望なんてないような気もする。いっぽ
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ノーベル文学賞受賞のフォークナーの代表作。アメリカ南部の田舎町ジェファスンを舞台に、外見は白人でありながら黒人の血を引くクリスマスと天真爛漫な生粋の南部娘であるリーナの物語を主軸に(しかし交わらずに)アメリカが抱える澱みを描く。
本作品を理解するにはそもそもの時代背景を知る必要がある。北東部では新たな跳躍の希望を抱き、対する南部では依然として閉塞感と黒人差別が残り禁酒法下の鬱憤とした時代、相反する感情を伴いアメリカとして自信が揺らぎいいしれぬ怒りが漂う時代。それらを端的なメタファーを用いるでもなくカタルシスを生み出すでもなく、直接的描写をしつつも明確にはせず重奏的に物語を紡ぎ出す。
正直一