田中優子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
日本で本格的に春画研究が始まった90年代後半〜2001年にかけて書かれた春画論。
本論に入る前の「江戸はトランス・ジェンダー」という若衆論が、日本の男性アイドル観のようで面白かった。「男にとっても女にとっても、若衆は自分と同じ性をもっていて、しかも非現実的な存在だった。男にとっては女の生々しさがなく、女にとっては男のむさくるしさがない。この世の者ではないかのような浮遊した存在なのである」。肝心の春画紹介では若衆は一、二枚しか出てこず残念。
日本のポルノである春画は(というか浮世絵全体だと思うが)、服飾芸術と強く結びついてハイコンテクストな世界を作っていた。それは文学においても同じで、のちの鏡花まで続いていく。黎明期からたくさんの絵師が紹介されるのだが、やっぱり歌麿だけ笑ってしまうくらいクオリティが高い。北斎は「関係を描くことや、絵を見る側の内面を想像することのできない絵師だったのかもしれない」という指摘が面白かった。 -
Posted by ブクログ
日曜朝のTV番組「サンデーモーニング」に準レギュラーとして登場している田中優子先生、の著作。
田中先生は法政大学の教授で、「江戸学」の権威。この4月からは、なんと総長になられるらしい。
めっぽう、和服がお似合いになる。
江戸学の人だものそりゃあね、と言ってしまえばそれまでだが、そもそも和服が似合う体型(超なで肩)だからこそ江戸を目指したのかも、なんてTVで拝見するたびに下世話な想像をしてしまう。
で、この本。春画考である。
あの方がこのような本を…と思うと下世話がさらに下ぶれしそうな雲行きになるが、いたって真面目な本である。
大英博物館で春画のワークショップが開催されたところから話は始まる。訳のわからない検閲があるために、肝心の日本國内ではさっぱり研究が進んでいない分野であるという。
この本の核心は、やはり服装なりテキスタイルにある。粋と野暮、高貴と卑賤、さらには不倫だったり行きずりだったりの事情が、ただ服の柄なり着合わせなどを観察するだけで見えてくる。さらには、目的がエロだけなら素っ裸でやってりゃいいものを、春画はおしなべてそうなってはいない、と話は進んでいく。
春画と言えば、リアルかつ細密に描かれた巨大な男根とかが世界的に有名だが(ウタマーロ、である)、問題は、そのものズバリではなくむしろ服なり布なりでいかにうまく隠すか、にあったらしい。その技巧の頂点に歌麿がいる。
呉服商がスポンサーで、要するに生地なり服なりのカタログであったり、いまで言えばモード雑誌でもあったのよ、という面もあったようだが、第一義的には、つまりチラリズムにこそ日本人のメンタリティがあったというのである。すっかり即物的になった現代日本のエロシーンは、そういう機微を忘れてしまったということなんでしょうな。
モノクロだけど「検閲」の入っていない図版も豊富で、ちょっと下世話に目を寄せて見ちゃったりもしつつ、へえ、これにはそういうからくりだったのかと大いに納得のいく、大変面白い本であった。