渡辺努のレビュー一覧

  • 世界インフレの謎

    Posted by ブクログ

    今の世界が今後一年単位でどうなるかと、そもそも物価とはなにかの話 今のインフレはフィリップス曲線の神通力が効かなくなり、失業率が上がってもインフレ率が下がらない。
    これは、これまでのインフレが需要増によって起きていたのに対し、今のインフレが労働供給の不足からなる供給減によって起きているため。労働供給の不足の原因について、パンデミックからの回復時に早期リタイアや通勤復活を嫌った労働者による転職活動を上げている。が、これだけで経済に影響するほどの労働力減が起こるものだろうか?本書によれば、アメリカの例で早期リタイヤや離職によって労働から離れた人口の増加は、パンデミック最中で1%ほど、少し落ち着いた頃でその半分程度らしい。
    供給不足は、ものからサービスへの流れが続いてきた中で、パンデミックによってものへの回帰が起きたことの影響も大きい。
    脱グローバル化も、インフレ方向に働く。

    欧米では賃金と物価が合わせて上昇する賃金・物価スパイラルが懸念だが、日本では両者が合わせて維持される日本版賃金・物価スパイラルが懸念。
    賃金と物価を安定的に上げるためには、両者の解凍が必要。
    正統派の対策は利下げだが、これ以上の余地はない。
    異端派の対策は、強制的な賃上げと物価上昇。アベノミクス以降で政府が取り組んできた、インフレ目標設定とそれに伴う価格上昇要請、及び官製春闘。
    これがうまく行かなかったことがわかった今、労働需給の逼迫というキックスタートが必要だが、コロナ禍でさえ補助金で雇用を守った日本で労働需給が逼迫する事態になるかは不透明。
    結局、「これをやれば大丈夫!」という万全の薬はなさそう。

    ところどころ、データで他説を否定しておきながら、自説の補強は定性的なデータの読み方で済ませていたりと、不十分な箇所がある。今まさに起きていることに対する話題なので十分なデータがないのは仕方ないし、実際正直にそのように書いている箇所もあるが、スルッと定性的な議論で終わらせている部分もあり、内容の信憑性に疑問を抱かせることになっている。例えば健康被害と経済への影響を国ごとに比較している部分。健康被害は100万人あたりの死者数である一方、経済被害は成長率で見ている。健康被害の差が一万倍以上なのに経済被害の差は2.4倍に抑えられているという比較をしているが、経済被害がもし一万倍もあったら、10万%という、ハイパーインフレ下でしかありえない数字になる。
    アベノミクスで物価が上がりかけたが、その際賃金が上がらなかったため、再度インフレ予想が沈下し停滞が続いた。
    今回はインフレ予想が上がっており、これに呼応して企業も物価と賃金を上げることができれば、ついにデフレを脱することができる可能性がある。

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    2026年04月28日