斎藤英治のレビュー一覧
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ネタバレ設定そのものの特異さをひとまず置いといても、ひたひたと迫り来るような、気がふれそうになるぎりぎりの重苦しさのある文体で、やっぱり名のある文学はすごい、と思わせてくれる小説。SNSの文章をいくら読んでも得られないものが小説には確かにあることを思い出させてくれる。
緊急時の一時的な救済措置という名目で女性の財産を男性のものにする、という法案は現在の日本でも容易く通りそう…と思ってしまう。身の危険を顧みず反対する日本人男性…いるかな…。私だってある日突然こんな事態になったら反対の声なんて上げられないよ。
そして電子マネーなんていとも容易く使用不可能になりますね…。
解せなかったのは、
『彼女は教育のある女性だったようです。当時の北米の大学の卒業生を教育があると言えればの話ですが。(笑い、一部から不満の声)しかし、そんな女性はそれこそ森のなかの木ほどたくさんいるわけで、何の手掛かりにもなりません。』
の部分。コレって皮肉か何か?「女が」大学出たところで思考力なんか知れてるってこと??「当時の」大学はレベルが低かったってこと?? -
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ネタバレ女性を「産む機械」として扱うディストピア社会。
戦争があったかして世界が荒廃しそのような社会となったようだが語り手は直接説明はしない。時々、思い出したように断片的に提示される情報から読者が推測するしかない。
オブフレッド、という語り手の名のおぞましさ。本名を名乗ることは許されず、「フレッドの所有物」と名付けられる。さしずめ日本なら「一郎の」というところか。出産できる性は貴重なはずなのに逆に社会のリソースとして管理される。徹底的に人間性を排除されて。
中盤まではだらだらした締まりのない語りにイラつきながら読んでいた。出産のための「儀式」あたりからドラマとして盛り上がりを見せたように思う。このシーンはグロい。人工授精でいいだろと思うが宗教国家のためあのような形式になるようだ。
終盤で語り手が語るとおり、この物語はある意味で不道徳だ。彼女は夫と子がいる身でありながら他の男に恋愛感情を抱き、抱かれに通う。この展開は、悪夢のような管理社会であっても感情までは制御できないという人間性の肯定だと受け取った。人は時に道を踏み外しても、誰かを愛したり求めずにはいられない。たとえ破滅が待っていても。哀れで愚かだが、だからこそ血の通った人間味を感じる。
本編のあとの注釈によってこの物語がなぜオブフレッドの語りだったのかが明らかにされる。ギレアデが崩壊し、自然環境が改善されていることも。しかしこの注釈は希望ではない。性的なジョーク、地下女性鉄道を地下脆弱鉄道と揶揄する──女性軽視の精神は未来においても継続している。暗澹たる結末。 -
Posted by ブクログ
おもしろかった!翻訳家の鴻巣友季子さんのオススメの海外文学の一つとして知った。もう少し堅苦しい純文学かと思いきや案外読みやすく、かつ、40年以上前に書かれたフェミニズム作品とは思えない、テーマの違和感のなさ。…40年も経ってるのに違和感がないなんて…どうかしてるね、この世界は。今読む価値のある作品だ。
架空の世界を描くSFディストピア小説である。1980年代〜90年代に崩壊したアメリカ合衆国のあとにできたギレアド共和国。妊娠率や奇形率が高まり、出生率が異様に下がった世界線。
子供がなかなか生まれないため、ギレアド共和国では80年代を境に女は財産や名前を没収され、元の家族は奪われ、政府管理下に入った。出産能力のある者は侍女として司令官の家に派遣され妊娠に努める。出産能力がないもしくは反抗的な女は不完全女性として迫害される。そして、同性愛者やかつて中絶処置をしていた医師は処刑される。女は子宮としか見られていない世界だ。
主人公はまさにその「侍女」として、ある司令官の家に派遣される。正妻はいるものの高齢なため子どもは産めない。神聖なる儀式として、正妻の監視のもと、排卵期に侍女は司令官と交わる。侍女の日常に自由はない。街で見かける侍女仲間は妊婦に対して嫉妬し、妊娠に成功した侍女は膨らむ腹を見せびらかしてマウントを取る。
時折女は考える。かつての私の夫は、私の娘は、生きてるだろうか?あのころの自分の他愛もない日常、仕事、収入、すべては自由だったと。そして仕事や銀行口座を没収されたとき、夫はすぐに妻(自分)を夫の所有物として扱うようになったことを回想する。
面白いのは、これが、200年後のギレアド共和国崩壊後の学会で発表されている歴史の資料の発表だということがラストにわかること。そのメタ構造に、突然夢から覚めたようにハッとする。200年後は、どんな世界になっているのだろう。
この作品が出版された38年後の2023年に、なんと続編が出ている。読まねば。
ちなみに、Wikipediaをみると、こんな↓記述があるけどホント??去年??ちょっと怖いですね。
「…(中略)…また保守化を強めるアメリカ各州では本書を危険視する意見が強まり、2025年4月の時点で、全米32州の約5000校で閲覧禁止処分を受けていると報じられている。」
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アメリカに誕生した神権国家で、子を産む機械と化した女性「侍女」の物語。ディストピアだけど、人類史上起こらなかったことは書かれていないという。
旧約聖書は今の価値観でみるとひどい内容だし、そいうえばキリスト教(旧約ならユダヤ教もかしら)の女性の扱いはこんなだったなと思い起こされた。キリスト教圏はよく「先進国」として、ここまで男女平等をすすめてきたと思う。笑われ、嫌がらせを受け、身の危険を顧みずたたかってくれた先輩たちに思いを馳せずにはいられなかった。
財産を奪われ管理される侍女を主人公に、彼女が見聞きし、感じたことが記録されている。この主人公がなんとも弱く、ずるく、まるで自分を見ているようだったし、多くの読者はこのタイプだと思う。先人が血のにじむような思いで勝ち取った権利と自由を当たり前に享受し、奪われたところで驚き嘆き悲しみはするが、けっして戦わない。財産も夫も子どもも失い、管理されるがままである。
主人公の母親や親友が戦っているのを傍観し、心配したり落胆したりするだけ。拷問をされたり、収容所に送られるのは耐えられない。侍女として産むということ以外は空気のように扱われるのに耐えられず、男の気を引こうとする。
すごく身につまされた。私の母も昔ながらのフェミニストで男女雇用機会均等法のデモに参加していたし、バンカラで政治家を口汚くののしったりする人。あまりに品がないのに閉口し、注意することすらあったけど、すべてを奪われ、自分の代わりに怒って戦ってくれる人すらいなくなったら、心細くて母に会いたくてたまらなくなるだろうし、自分の狡さや弱さに打ちひしがれると思う。
強くならねばと思った。 -
「侍女の物語」について
この物語は、ギレアデ政権の間、バンゴア市と呼ばれていた場所から発掘された、およそ30本のカセットテープに吹き込まれていたものを文章に起こしたものという設定。
語り手の女性は、出産を目的に集められた女性の第1陣のうちの1人。ギレアデ政権は、その後、様々な粛清と内乱を経て崩壊したようですが、まだまだその初期段階にあり、日々の監視が厳しく、違反者は容赦なく処刑されていた時代です。
各個人からその個性を奪い取るには、名前と言葉を取り去るのが効果的なのですね。
単なる出産する道具である侍女たちの名前は「オブ+主人の名」。
この物語を語っているのは「オブフレッド」と呼ばれる女性です。
侍女たちはくるぶしまで届く赤い衣装を纏い、顔の周りには白い翼のようなものが付けられて、周囲とは遮断されています。日々決められた通りに行動し、侍女同士での挨拶ややり取りも決められた通りの言葉。
もちろん私物と言えるようなものは一切ありませんし、自殺や逃亡に使えそうな道具は慎重に取り除かれています。
侍女たちにはもちろん自由もなく、その存在に人間性などこれっぽっちも求められていません。まさに「二本足を持った子宮」。
一見荒唐無稽な設定なのですが、しかし、よくよく考えて見れば、これは十分あり得る未来。それが恐ろしいです。
いつどこでこのようなことが起きてもおかしくありません。
この作品は1985年に書かれた作品なので、それから40年経ったことになるのですが、世界的な状況はますます悪化するばかり。
ここまで極端ではなくとも、ここに書かれた現実が近づいているような気がします。
既にどこかでこういった類の洗脳が行われているかもしれませんね。
それでも、子供や夫を奪われて「侍女」となった女性たちは、そうなる以前の暮らしを覚えているのです。
それに対して、次世代の「侍女」たちは、元々そのような自由な世界が存在していたなど知る由もなく、それがまた恐ろしいところです。
子供ができない夫婦にとって侍女はありがたいはずの存在なのですが、そこは人間。
人間の感情はそう簡単に割り切れるものではありません。
単なる行為に過ぎないとはいえ、主人の妻には嫉妬されることになりますし、水面下では様々な感情が入り乱れることになります。
その辺りも面白かったですね。
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Posted by ブクログ
名作だということは知っていたが、なかなか手をつけられずにいたところにグラフィックノベル版が出たということで読んでみた。
現代でこそ新しく感じられる、感じられてしまう、衝撃に満ちた物語。
コロナが蔓延し、ウクライナとロシアは戦争状態、安倍元首相が銃撃に倒れ、テレビであからさまな情報規制がされる。正しい自由が得られる国なんて、もはやどこにもないのではないかと思えるような2022年の世界で、この作品が持つ意味が重要なものになってきていると思う。
『侍女の物語』という、けして派手ではないタイトルも、これが彼女の物語であるということ、この物語を誰かに託そうとした人間の生き様であることを表しているように思えて、読後に大きな納得感があった。
内容と絵もとても合っていて、映画を観ているような感覚だった。 -
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怖いわ〜アメリカ。「福音派」で取り上げられていて、居間の床に積んであったこちらも勢いで読んでみた。著者は本当に当時のアメリカキリスト教原理主義の台頭に恐れと怒りを抱いてこのディストピア小説を書いたんだろうな。中絶はダメ、帝王切開も麻酔もダメ。聖書に書かれていることその通りに従わせ、女性が自身の身体に関わる権利を全て踏みにじり、仕事に財産に娯楽に名前まで奪いとり、性被害や環境汚染から女性を守るという名目でただ生殖のための器として徹底管理する原理主義の男性指導者たち。女性や生殖が管理される世の中では男もまた女性と愛情を持って心身を交わすひとときを奪われる不幸も描かれる。同性愛、不具者、年寄り、反乱分子も全て排除。狂信的原理主義者に乗っ取られる社会。アメリカにおける中絶や同性愛をめぐる対立はおそらく決して解決することはないだろうけど、狂信者に立ち向かう良識と知性が失われないことを願う。主人公の女性は様々な試練や諦めや苦しみを経てなんとか生き延びて、ラストはその先の未来の人間が彼女が残した記録をもとにこの狂信的独裁社会を検証しているのが面白い。彼女は特に表立った反抗もせず、一見のらりくらりと厳しい局面をうまいことかわしながら生き抜いたようにみえるが、最後連れ去られたのか逃亡できたのかよくわからない彼女がその醜悪な社会の物語をどこかで紡いだおかげでその歴史が残り将来の反省や教訓となったのであればそれこそが彼女の勇気と抵抗だったのだ。過去、現在、未来、世界中どこにでも存在する狂信的独裁政治。狂信者に従うことを良しとせず反抗して殺されたり自殺した者も多い中で自由とは、正義とは、自分らしく生きて死ぬとはどういうことか考えさせらる。