斎藤英治のレビュー一覧
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なにをもって、ひとりの人間が、ひとりの人間として尊重されている、と言い得るのだろうか。また、私たちはどのように接することで、他者をひとりの人間として、充分に尊重して、大切にできるのだろうか。
少なくとも、ひとりの人間として尊重される、ということは自由である、ということと関連している。ただし自由、とはなんだろうか。語り手の女性は、自身が望んでいるわけではない行為を通して、それが社会において禁止されていることであるからという理由で、それを行うことに自由を見出す。それはその社会においてつかみうる最大限の自由であるが、それ以前の社会においてはそのような行動をせざるを得ない状況を不自由であると呼んだだろう。自由の意味合いは、社会によって決められてしまっている。彼女がその自由を行使することで、彼女の尊厳は保たれ、また同時に踏みにじられている。
作中何回か小母などの口を通して「以前の社会では女性は蔑ろにされてきていた。自身の身体を商品的に売り込むことを強要されていたし、性的暴力の危険に常に晒されていた」といった話が語られる。ここで彼らが主張しているのは日本でよく使い回される陳腐な言い回しで言い換えるなら「自由であるということには責任が伴う」ということだ。彼らは暗に「主体として尊重されようとするから危険な目に合うのだ」と主張し、社会において主体として尊重されていないことの原因を彼女たちがそれを求めようとしたことに帰属させるような説明をもっともらしくする。端的に言えば「求めなければ奪われることもないのだ」と。これらの主張は明らかに間違っている。この小説のテーマでもあるかもしれない。「求めること」こそが人間の尊厳の本質だ。小母たちのような安全と尊厳が二者択一であるかのように見せかける詐欺師のレトリックに乗っかってはいけない。不自由な二者択一による暴力が繰り返し作中で語られるが、語り手自身はそれらの主張に対してなんらかの態度を示さない。私たちがそれらの暴力に抵抗するための言葉は、まだ未発達なのかもしれない。 -
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ネタバレキリスト教原理主義者によって設立された独裁国家「ギレアデ共和国」を舞台に、子供を産むことだけを強いられる女性「侍女」の過酷な運命を描いたディストピア小説。
希望(現実)と絶望(過去)の狭間で苦悶する心理描写が凄まじかった。特に、p.100のなんでもないホテルの一室を懐かしむシーンや、p.141「わたしは西洋梨の形をした中心物のまわりに凝結した雲にすぎない」という一文は、読んでいてとても辛かった。
自由が奪われても、愛があれば生きていける。でも、自由も愛も奪われてしまったら、なんのために人間は生きるのか。
100年以上後に学会で議論しているラストだが、この物語が後世に残ったということは、オブフレッドはギレアデ共和国から逃げ延びたのだと信じたい。
女性作家にしか描けない世界観と心理描写が圧巻だった。まだまだ男の自分は女性の全てを理解できてないし、これから努力しても完璧には理解することはできないだろうけど、リスペクトを忘れてはいけないと感じた。
まずは、現在妊娠中の妻に、日々の生活の中で最大限の尊敬と感謝を伝えたいと思った。 -
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1985年に刊行されたこの物語の続編が、2019年、34年後に書かれた。
続編の「誓願」を読んでから、やっと感想を書く気になれた。この、絶望的な物語に対して、この一冊だけで何かを言うことができなかった。恐怖であることはもちろんだが、2025年の今、単なるディストピア小説の域を超えた現実味を帯びている。
「人種差別者の不安がギレアデの政権奪取の成功を許す感情的な支えのひとつになった」
あまりにも悲しく、みじめな「女」の独白。
クーデターによりうまれた独裁国家ギレアデの愚民政策により、女は名前を奪われて、書くこと、読むこと、学ぶこと、産む産まないの自由を奪われた。全てが変わってしまった世界で、正気を保とうとあらゆる空想を繰り返し、過去を想い、花を、鳥を、離れ離れになった家族を、放埒な性を、思いつく限りの能動的な「生」を想い、抗おうとする様子がとてつもなく…悲しいのだ。
そして、そうなってしまった世界に対して「仕方ない。」と思う。仕方ないと、思ってしまった。とまた思う。
考えないことを選択することで苦痛から解放されようともする。みじめな姿にまた苦しくなる。
書くことを、名前を奪われたオブフレッド(フレッドという男性のもの、の意味)が、声で残した痛々しいまでの「レジスタンス」の跡である。 -
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ネタバレディストピアだが、近いうちに現実に起こり得ないとも思えない。
前半は世界観の説明が多く、かなり単調で読むのに時間がかかったが、後半に物語が動き出した!と感じてからはサクサク読めた。
日本では少子化が問題と考えられているが、(あえて「考えられている」という。)少子化対策が極まればこういうことになるのではないかと思ってしまう。
女性の自由を奪うために、仕事と金をまず奪うというのは恐ろしい。
やろうと思えば簡単にできてしまいそうで。
そして、仕事と金を奪われた彼女に対し、ルークが支配的な、安堵のようなものを感じているように思われて恐ろしい。
簡単に、守られるべきもの、裏を返せば支配を受け入れざるを得ないものとされてしまう。
しかし、人口を増やすための仕組みとしてはあまりに合理的だ。
男が原因の不妊は存在しないとしていることを除けば。
この世界で救われることといえば、レイプをしたものが即ボコボコにされることくらいだ。
母体保護が重要という一貫性がある。 -
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小説は読まねばならないリストに入っているが、気分が落ち込むこと必須なので、ぐずぐず読まないでいる。
グラフィックノベル版なら、何日もその気分を引きずらなくてもいいと思い読んでみた。
あらすじは、あちこちで見聞きしているので、その通りの展開。絵がなかなかこの小説にマッチしていて、おどろおどろしくもあり、スタイリッシュでもあり、不穏である。
消滅する市町村が発表されたが、これらの市町村の首長たちは、躍起になって若い女性の囲い込みに奔走しそう。
アトウッドが描いた世界は、ほんの数ミリしか今の世界とは違わない。すっと、いつのまにかこの小説の世界になってそう。
そうそう、この小説の世界でもいつのまにか権利を取り上げられていたんだった。
「権利の上に安住するものはいつのまにか喪失感している。そうならないためには不断の努力が必要。」
最近よく丸山眞男が言ったことを思い出す。
そういう時代にとうとうなってしまったのかも。 -
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ディストピア小説だが、現実にも繋がる話 キリスト教原理主義がアメリカ合衆国大統領を暗殺し、議会を襲撃し、クーデターを起こす。
主人公は一児の母である平凡な女性。クーデターをきっかけに人生が狂い、エリート男性の子種をもらい出産するのが役目の「侍女」という身分になる。
キリスト教原理主義に限らず、イスラム教、儒教など女性を蔑視する宗教は様々ある。そして蔑視される女性側も、真っ向からそれに対抗する者、自分の居場所を作るために他の女性を抑圧し優位に立とうとする者、恐怖から体制に盲目的に従う者など様々だ。
作者が描き出したこの物語の状況は、戦争のような大きな恐怖から、いじめのような身近な恐怖まで、あらゆるところに共通する。
時間が行ったり来たりするので、振り回され読みづらいところもあったが、侍女の物語ワールドにどっぷり浸かってしまった。
この物語を毀損している部分があった。それは落合恵子の解説だ。なぜ、彼女に解説を任せたのか。彼女の解説は単なる活動家の安い文章でしかない。筆者に対する冒涜でしかない。早川書房が落合を解説者に選んだのが残念だ。 -
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ビジュアル絵物語でかなり本文が省略されて本編よりラクに読める。
女にしか書けない残酷さ、の原作。
「産む器官だけが大事」「男のほうが強いから偉い」「文字など覚えないほうが良い、料理家事でいい」「暇があれば手芸でもしとけ」「化粧もいらない」「男を敬い男に尽くせ」「(生殖を許されない)下男は男ではない」そのような〈男感覚〉の圧迫を感じながら女は生きているのだろうか/日本人観光客のケバさが見事、「あなたは幸福ですか」幸福を求めて不幸になるのはあまりによくある/秘密警察なくては強権支配は維持できない、コア支配者は禁欲を守っていない←言論統制社会では -
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何年か前の100分で名著フェミニズム特集回で本書が紹介されていたのを見たので、大まかどんな世界が舞台となっているかは知っていた。そのため、「儀式」などの描写で衝撃を受ける、といったことはなかったし、なんだかもう、こんなこともあるだろうなみたいな諦念が芽生えつつあるのか、怒りや恐怖のような激しい感情に襲われるというよりも、静かに力を奪われるような、例えばこのようなことに備えなければいけないのかと思い知るような、そんな感覚になったことが恐ろしい。
産みたくても産めない人もいて、一方で産むつもりなどなかったのに産まされる人もいて、そんな例を持ち出さなくとも、誰だっていつ怪我や病気をするか、死んでしまうかわからなず、なんでも思い通りに物事を運ぶことなどできないのに、どうしてそう強固にコントロールしたがるのだろうね、とわたしなんかは思ってしまう。それはわたしが、目標達成に向かって計画を立て何かを成し遂げることが苦手な人間で、なるようになるさ、なるようにしかならないさ、と言っていたいから思うのだろう。そしてこんな「どうにかなるだろう族」がいても世界が崩壊しないのは、コントロール能力の高い「どうにかするんだよ族」がきちっとどこかでやってくれてるおかげなのだろう、ってこともわかってる。どっちも極端じゃ困るけど、徹底統御の末端には、使い捨てにされる人がやっぱり存在している。 -
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ディストピア小説が好きで、こちらもずっと気になっていたので。
結婚していて子供もいた女性がある日突然定められた法律により離れ離れになり、子供が埋める女性は「侍女」として子供を産むためだけに官僚とその夫人(子供が埋めない年齢)の家に遣わされる。3度子供を産むのに失敗してしまった場合や病気になった女性はコロニーと呼ばれる場所に連れていかれ労働を強いられる。さまざまな”娯楽”も禁じられ、”恋愛”という感情も排除される。そんな環境の中、元居た家族への思いや、今まで感じていた感情などとの葛藤がありながらもどうしても死んでいく感情などを緻密で儚い言葉で描いていて、胸が締め付けられるような感覚を覚えながらも物語の中にぐっと引きこまれました。 -
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ネタバレ女性の性がテーマと聞いて、前から気になっていた。実際読んでみたら、怖い世界だった。色々と統制されて自由がないのはもちろん、体制に歯向かうと死が待ってる。そんな中で、監視の目に怯えながら、産むためだけに日々の生活を送る姿がグロテスクで、なかなか読み進めるのがしんどかった。この物語の主人公の女性が行き着く先がすごく気になるけど、物語の焦点はそこではないのだろう。最後の後世からの視点の分析を読んだとき、ここまで追いかけてきた1人の女性の悩みや苦しみが歴史から見れば「情報」であり、「研究の対象」であることになんだかぞっとしてしまった。
ディストピア小説、という言葉で括られる小説みたいだけど、私は主人公の女性に感情移入してしまったので、こんな世界で生きることの苦難が重く心にのしかかった。
心に残る話だけど重すぎてしんどい。