石弘之のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
「世界中で”砂”の争奪戦が始まっている」と言われてピンとくる方は少ないのではないでしょうか。「砂なんて地面を掘ったらいくらでも手に入るやん」と思いがちですが、本書を読むとそのイメージは一変します。
砂の主な用途はコンクリートの骨材です。ビルなどの建物、高架道路、地下鉄、堤防、何を作るにもコンクリートが必要で、その分”砂”が必要になります。コンクリートに使える砂は粒の大きさや形、化学的性質など非常に制限の多いものであることが本書で述べられています。
中国はもちろんですが、都市化の進むインドネシア、インド、マレーシア、シンガポールなどの東南アジア諸国、ナイジェリア、エジプト、ドバイなどのアフリカ諸国では”砂”が自給できず大量に輸入しています。砂漠に有り余るほど存在する”砂”は前述の理由からコンクリートには使用できず、国内に砂漠を抱えている国でも”砂”は輸入に頼っているのが実情です。高騰する”砂”の取引に、砂マフィアと呼ばれる違法業者が暗躍し、無秩序に川や海から砂を採取した結果、環境破壊、漁業への打撃、氾濫等の自然災害の誘発など様々な問題が起こっており、本書はそれぞれの国ごとの実情を紹介しています。
本書後半は日本における”砂”、なかでも砂浜の衰退について詳しく述べられています。意外だったのは戦後一貫して日本では森林面積はほぼ一定で、森林における樹木の総量は増加しており、その結果として土壌が安定化され、河川を通じて供給される砂の量が減少しているという事実でした。
河川による砂の供給量減少、ダムなどの治水が進んだことによる中流域での砂の堆積、さらに砂需要増大が重なり、日本の砂浜は減少の一途です。衰退する砂浜を護るため、護岸には消波ブロック(テトラポット)などが配置され、日本の海岸線の美しい景観が失われつつあることに警鐘を鳴らしています。
身近な”砂”が重要な資源であり、無秩序な採取が様々な問題を引き起こしていることをわかりやすく解説している印象でした。 -
Posted by ブクログ
「新聞の連載記事みたい…」と思いながら読んでいたら、巻末に「WEBマガジンに連載」(p361)とあり、また筆者のキャリアの出発点は新聞記者とあったことからなるほどと思った。
「世界史」と銘打ってはいるが、年代順に考察されたものではない。また、新聞記事特有の、少数説だったり筆者の推量だったりするものを、あたかもオーソライズされた内容のように断定的に記述している箇所も散見される。それに、インフルエンザやエイズで亡くなった有名人の記述なども必要なのかと思うし、参考になる内容もあるけれど、「名著」の評価が多いのには正直疑問を感じる。コロナ禍のこんな時だから、そういう評価になってしまうのかな…。 -
Posted by ブクログ
「スペイン風邪」「マラリア」「コレラ」「ペスト」「ハンセン病」「狂犬病」「梅毒」など、名前は聞いたことあるけど詳しく知らない感染症、なんとなく知ったつもりになっている感染症について知ることが出来ます。そして、想像以上に感染症と人間の戦いの歴史は長いのだと知ることが出来ます。
戦死者よりも感染症により死者が多かったこと、結核で亡くなった有名人が多いことにも驚きました。
WEBマガジン連載をもとに書き直しているため、別の章で具体的に取り上げられる感染症の話が登場します。章ごとに綺麗にまとめられている訳ではありませんが、少しずつ読み進める楽しさがあります。
個人的には寄生虫「トキソプラズマ原虫」が興味深いと思いました。トキソプラズマに感染すると、脳が占拠されて性格や行動が変わります。例えば、ネズミが寄生された場合、猫の体内で繁殖しようとトキソプラズマ原虫がネズミを操ります。その結果、わざと猫に食べられるようネズミが徘徊するのです。操られているにしても猫を怖がるネズミが何故そんなことをしてしまうのか、その理由も書かれています。そして、人間が感染した場合はどうなるのかも書かれています。
感染症が登場する作品やモチーフになっている作品の名前が挙がっているので、次読む本に迷った時はここから選ぼうと思います。
衛生面(上下水道の整備、入浴)だけでなく環境面(人口集中、森林破壊、食文化)も感染症が蔓延する原因になると知り、環境に対する意識が高まりました。人口が都市部に集中するのではなく地方に人が散らばり、必要最低限の土地開発が行われることを願います。
そして、いつの間にか収束した感染症のように、ワクチンで人類が勝利した感染症のようにコロナウイルスを恐れなくても良い日々が訪れますように。
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Posted by ブクログ
デング熱、マラリア、エボラ出血熱、ペスト、結核、ピロリ菌、トキソプラズマ、エイズ、ヘルペス、インフルエンザ、麻疹、風疹…。
これらの感染症の大流行の記録をたどったり、近年の遺伝子解析と知見を踏まえたりして、どこで生まれ、どのようにウィルスが変化し、感染が拡大するようになったかを明らかにしていく。
ペストやマラリアなどについては、『感染症の中国史』などでも読んでいた。
こちらの方は、感染症の「世界史」だけあって、扱う感染症の数も多い。
限られた紙数で、ここまでデータを盛り込んであるのは単純にすごいと思う。
初めて知ったのは、成人T細胞白血病がウィルス性のものであること。
終章の高齢化社会と感染症の関係も、大きな問題となるトピックだと思った。
ただ一つ、気になること。
感染症にかかった有名人は、歴史的な人物で、近縁の人がいない人ならともかく、挙げない方がいいのではないかという気がする。
258ページの記述は、特に、噂があったことを今、また蒸し返すことになりはしないか? -
Posted by ブクログ
有名な感染症の、起源と症状と人類への影響の、列挙という感じ。全てを網羅して詳しく知りたいときの入り口としては良いかもしれないけど、物語としての面白さ(例えば筆者がデング熱に感染したときの場所の雰囲気や症状を面白く描写したりしてほしかった)はない。その点、「感染地図」の方が人類vs細菌の視点の引き込む読ませ方があった。
これも新型コロナ流行以前に書かれたものだけど、やっぱり人類の発展と感染症の広がりは不可分だし、どんなに科学が発達しても細菌はコントロールできないし、果てない追いかけっこをしていくしかないのだと思った。
人類の、有史以前の足跡に思いをはせられる、小さくて壮大なスケールの話。 -
Posted by ブクログ
○○の歴史、文化史、世界史といった本はたくさんあるけれど『鉄条網の世界史』というタイトルには、かなり虚をつかれました。いや、まあ何かしら歴史はあるだろうけど、そんな一冊の本になるほどなのか、と。
鉄条網は元々は、家畜に花壇を荒らされるという妻の悩みに応えた夫が発明したそう。
それが広まったのはアメリカでの西部開拓時代。時の政府の意向や法律の改正もあり、多くの入植者が西部に訪れ、農地を開拓していった時代。
広い放牧地を囲い込むため、鉄条網のニーズが西部で増す一方、元々西部で生活をしていた、牧場主やカーボーイと、入植者たちとの対立は激化し……
広い土地で自由に放牧をしていた元の住人と、鉄条網で土地を囲い込み、その中で家畜を育てる入植者。その対立の象徴としての鉄条網。やがて古くからあった放牧やカーボーイといった文化は姿を消し……
そして土地の農地利用は加速し、それはやがて土地を涸らし、乾燥した大地はやがて大きな砂塵を巻き起こしたり、生態系も鉄条網の内と外で変わってしまう事態に。
本の中に鉄条網が張られた柵の内側と外側を対比した写真があるのだけど、これはインパクトが強い。
内側は家畜が草を食べるため、ところどころが裸地になっているのに対し、外側は背の高い草が生えている。草食動物やバッタなどは、実は意外と内側の方が多いそう。
なぜなら、外側は生態系が豊富な分天敵も多くて、一定以上増えられないからだそう。そして、こうした生物たちも草を食べるから、さらに土地は痩せていく。
そして鉄条網は、家畜から人に対して使われるように。戦場では鉄条網をしきそこで足止めをくらった敵に対し、容赦なく機関銃を掃射する戦術が取られます。
日露戦争で旅順攻略の際の死者が凄まじいかったのも、この戦術に日本軍が手を焼いたから。『坂の上の雲』でも、旅順攻略の話は出てきますが、細かいところは忘れていました。なんとなく「旅順やべえ、乃木やべえ」という印象だけは残っていたのだけど、ああそういうことだったのか、と妙に納得。
鉄条網や機関銃の登場により白兵戦から、塹壕戦に変わっていった戦闘。塹壕での膠着状態が続く一方で、兵器は発達し死傷者は増加。鉄条網対策のため戦車が開発され、それがまた兵士たちに絶望を植え付ける。そして鉄条網は、現代の戦争でも使われ続けています。
そして戦場での鉄条網が紹介された後に、出てくる話は強制収容所。
強制収容所となるとナチスとシベリア、あとは太平洋戦争時の日系人くらいしか、あまり強い印象がなかったのですが、本を読んでると次々出てくる、出てくる……。
戦争、人種、民族対立から生まれた強制収容所。もちろんそこを囲むのは鉄条網。家畜を外に出さないための鉄条網が、いつの間にか人間に向けて使われるというどうしようもない現実。
こうして読んでいると、鉄条網は対立の象徴という気もします。その後紹介される事例は、東西ドイツにパレスチナとイスラエル。そして今なおアメリカに残る先住民差別。
最後の第8章が「よみがえった自然」とあるので、最後に明るい話かと思いきや、これもシニカルというか、皮肉しか思えない……。
韓国と北朝鮮の軍事境界線であったり、チェルノブイリ、そして福島原発事故の避難区域は人がいなくなり、希少動物が戻ってきたり、自然が再生したりしているそう(最も放射線の影響については、なんともいえない状況ですが)
こうやって考えると、人間って人間同士でも対立し、自然とも共存できていないのだなあ、と考え込んでしまいます。
鉄条網が使われない世界が、たぶん理想の世界なのだろうな、という気がします。でも、今の人類にはまだまだ遠そうな未来だと、考えてしまいました。 -
Posted by ブクログ
コロナの影響で遅ればせながら読み始めた。
人類と感染症の歩みについて、分かりやすくまとめられている。
これを読むと、感染症が人類と切っても切り離せないものであることがよく分かる。
まずウイルスというものは、基本的にどこにでもいるらしい。空気中、人や動物の内臓や皮膚といった所はもちろん、南極だろうが深海だろうが発見されている。
むしろ乳酸菌など一部の菌とは共存関係にある。
少なくとも人の住う所には確実にはびこっている存在なので、人類の歴史には感染症も当然ついてまわる事になる。
ウイルスは現代でもワクチンの開発を上回る速度で進化を続けている。まさに追いかけっこだ。
本書の終章では、新たな感染症の始まりや激戦の予想に、中国やアフリカの衛生環境、野生動物を食べる習慣、野生のネズミやコウモリが保有するウイルスからの感染など、今回のコロナ禍を予想する内容が書かれている。
新型コロナの被害が大きな欧米を中心に、発信地となった中国に責任を求める風潮もあるが、一部の地域や人々に原因を見るのは危険な行為であるように思う。
いくつかの感染症は、ダムや灌漑施設などの開発がきっかけで流行し、「開発原病」と呼ばれているらしい。
また、「農地の拡大、森林伐採などの環境破壊や地球温暖化が、感染症の発生や拡大に影響を与えると思うか」というアンケートでは、半数以上の専門家がイエスと答えている。
感染症は中国やアフリカだけが招くものではない。人類全体と深い関係がある。そこに目を瞑って現状だけ打破しようとするならば、次のパンデミックを招く事になる。
今回のパンデミックでは、日本は比較的感染者、死者数が抑えられている国だ。それに対し各国から疑問視する声が聞こえ、今のところ曖昧な解答しか見られない。
しかし、次なる感染症に備えてというだけでなく、オリンピックを控えるなか、曖昧な対策だけでは諸外国、特に被害の大きな国は納得しないだろう。
感染症がなくなるものでない以上、このままの流れで収束を待つのではなく、具体的な対策を持たなければ、ウイルス以外の被害も更に拡大していく恐れは大きい。