多田富雄のレビュー一覧
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メインは前半の3篇。デンヴァーの研究所に留学していた時に知己になった3人の女性――下宿の大家の老婦人、バーメイドの中年女性、中華レストランの日本人ウエイトレス――それぞれへのレクイエム。よもや自分がこういう形で人の心に残るとは思ってもいなかったかも。
後半には、免疫学者ニールス・イェルネ(1984年ノーベル賞受賞)についての一篇もある。聖者のような、ただの偏屈者のようなイェルネ。遠巻きに心酔する著者。これも静かなレクイエム。
興味深かったのは、著者が「玉」を取り去った話。前立腺がんの治療のためだったが、風通しがよくなって、そして嬉しいことに煩悩もなくなった。その夜見たのは「羽化登仙の夢」だった -
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尊敬する経営事務幹部職員さんから「社会科学の目と構え」を学ぶ上で、参考になる1冊があるとの紹介を受け購読した。本来、人に薦められた本を読むことはほとんどないが、今回の3冊は全て紹介書籍であり、自分でも珍しいと思っている。
国際的な免疫学者であり、能の創作や美術への造詣の深さ、文学や詩集にも広い知識をでも知られた著者。2021年に脳梗塞で倒れ、右半身麻痺、言語障害、嚥下障害に対してリハビリテーションの日々を綴る。常に自死念慮にとらわれながら、日々関わるセラピストや家族・知人との交流もあり、深い絶望の淵から這い上がる。リハビリを続け、真剣に「生きる」うち、病前の自分への回復ではなく、内なる「寡 -
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死よりも過酷な運命があるとすれば、まさにこのことではないか。
著者は65歳で脳梗塞を患い、半身不随となった。身体の自由を奪われ、声を上げることもできず、食事や飲水さえ自力で飲み込むことができない。
もし同じことが自分の身に起きたら、果たして生き続けようとすることができるだろうか。だが著者は生きた。いや、むしろ病を得たことで真に「生きている」と感じるようになる。
つらいリハビリの中である日、麻痺した右足の親指がピクリと動いたとき、著者の目から涙がこぼれる。自分の中で新しい何かが生まれた。著者はその感動を「物言わぬ鈍重な巨人が目覚めた」と表現する。
9年間に渡る闘病生活で、著者はそれまで触ったこと -
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【本の内容】
世界的免疫学者である著者が、初の留学で住んだ1960年代のデンバー。
下宿先の老夫婦との交流、ダウンタウンのバーに通って知った豊かなだけではない米国の現実。
戦争花嫁だったチエコとの出会いと30年に及ぶ親交。
懐かしくもほろ苦い若き日々―。
回想の魔術が、青春の黄金の時を思い出させる。
そして脳梗塞となって、その重い病との闘いのなかから生まれる珠玉の言葉。
自伝的エッセイ。
[ 目次 ]
1 春楡の木陰で(春楡の木陰で;ダウンタウンに時は流れて;チエコ・飛花落葉)
2 比翼連理(比翼連理;羽化登仙の記;百舌啼けば;わが青春の小林秀雄;花に遅速あり ほか)
[ PO -
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圧倒されました。本文中に「私のように日の当たるところを歩いてきたものは、逆境には弱い。」との行がありますが、とんでもない!寡黙なる巨人は、鈍重な巨人かもしれませんが、不屈の巨人であり、明晰なる巨人であり、饒舌な巨人であり、そして戦う巨人でもありました。日の当たる道、とは免疫学という学問の道であり、能という芸の道であり、いかに知性いう太陽が人間の強さを育むのか、と驚愕しました。脳梗塞を始め、自分の体の機能が自分でコントロールできなくなるのが当たり前になるのが高齢化社会の我々です。その日が来た時に、著者のように自分の思うにならない身体の中に「新しい人の目覚め」を見出し、希望を託すことが出来るか?本
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柳澤桂子さんとの往復書簡を読んでいた時、ちょうどテレビで多田さんがテレビに出られていた。
自作の能が舞台になったときの、多田さんの晴れやかなお顔や、この著書で小林秀雄賞を受賞されたときの姿を拝見した。
今は亡くなられ、しかし精一杯生きたその人生に、新たに敬意をもった。
読んでみて、”巨人”の意味するところが理解できたが、そのときの目が開かれる思いは、簡単に、感動という言葉に置き換えるにはあまりにも軽く、多田さんの冷静で熱い決意に言葉がない。
多田さんが、懸命に尽くしてくれる奥さんに、ありがとうと言えることができない・・・という箇所に胸が詰まった。
脳梗塞など、突然倒れ半身不随になったりする -
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著者の多田富雄は、野口英世記念医学賞などの内外多数の賞を受賞し、国際免疫学会連合会長も務めた世界的な免疫学者。
本書は、2001年に脳梗塞で倒れ、右半身不随になるとともに声を失ってからの約1年の闘病生活を自ら記した『寡黙なる巨人』に、その後6年間に綴ったエッセイを加えた作品集である。2008年の小林秀雄賞受賞作。
著者は、“その日”に起こったことを、「all the sudden」、「あの日を境にしてすべてが変わってしまった」、「カフカの『変身』は、一夜明けてみたら虫に変身してしまった男の話である。・・・私の場合もそうだった」、「あのおそろしい事件」・・・と言葉を替えて言い、「私の人生も、生き