昭和三十年代を舞台にした民俗学ミステリ。
某絵馬の話やあることで財を成す話は(過度なネタバレ防止のため具体的な名詞や説明は割愛)自分も何かの本で読んだことがあった話だったので、知っている民俗学ネタが登場して興奮しつつも、こういう話にしてくるかと驚きもした。
しかも、基本的にどの話も後味が決して良くはない。
後の話になればなるほど後味の悪さが際立ってくると言う。
民俗学は、人の営みや文化を観察する学問でもある。
綺麗なものばかりが見えるだけではない。
そこが面白くもあり、怖いところでもある。
そもそも主人公のあづみ自身が壮絶な過去持ち。
これは後半明らかになるが、やはり決して明るく優しい話ではない。
それでも気になってぐいぐい読み進めてしまったのは、読みやすい文体だったのと、彼女のお兄さん的存在である常彦さんの貢献が大きいと思う。
彼自身も決して本人の性格その通りの人生を送ってきた人ではないのだが……(穏やかな人生ではなかった)
残酷な現実や真実を目の前にしても、ずっと寄りそってくれる彼がいたことは、本当にありがたかった。
あづみの嫉妬や葛藤の元にもなりがちではあったが。
そこからあづみ自身が成長していくのも良かった。
彼女はまだ16歳。
今後どう生きていくか、今回の経験はこの先絶対生きるはず。
民俗学の調査では解明しきれなかった真実は、あづみの夢で分かるという、ちょっとファンタジー要素はあるが、自力の調査で「そこ」まで辿り着いたご褒美的ムービーみたいな扱いで、知らなくても大丈夫だけれど、読者的にはありがたい仕様だったと思う。
大勢には影響がなく、人物の内面を掘り下げる感じの夢になるので。
普通、オカルト扱いされている(実際はオカルトばかりではないのだが、どうにもそういうイメージが先行しがち。特にこの時代)民俗学でこういうファンタジー要素を持ってこられると興ざめになりそうだが、この話では匙加減が絶妙だったと思う。
ただ夢で明かされる人の内面は狂気に近いものもあるけれど……
民俗学好きなら、食いつきのいい作品だと思う。
また人の闇や狂気の話もあるので、勝手ながら横溝正史の世界観にも通じるものがあるなと思いつつ読んだ。
でも、常彦さんのお蔭で、まったり読めたり癒される部分もあって、何とも奥行きのある話だったと思う。