小林エリカのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ気軽に読み始めたんだけどとても重かったしよかった。
始まりは昭和10年。雙葉や跡見や麹町に通い宝塚歌劇を見にいく女の子たちの豊かでモダンな日常とその後景の軍国主義と翼賛の描写。よく史料で見る昭和初期の奇妙に明るい都市生活が活写される。まもなくその後景はずいずいと前へ出てきて女の子たちの生活を塗り潰し、兵器の製造に加担させるまでになる。
主語は「わたし」だが匿名で複数の群。歴史上の有名人も「〜した男」と匿名。「わたしたちの兵隊」「わたしたちの飛行機」という繰り返しは女の子たちも戦時体制と一体であり第三者ではないことを意識させる。あるいは読者もか。人称の使い方が非常に効果的。
その中で靖国など -
Posted by ブクログ
すさまじい傑作!
毎日出版文化賞らしいが、そんなことより、もっと話題になって、大ヒット作になるべき!
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まず最初に、本作の先見性について指摘しておく。
本作では、「わたしたち」という主語が多用される。
「わたしたち」が指す対象が、一文ごとに、変化したり、二重・三重の意味があったりする。
その表現手法により、現在の日本社会に、鋭い問題提起をしている。
2025年7月の参院選において、なぜか突如として"外国人"が焦点となった。
「わたしたち」の健康保険制度や生活保護制度を、外国人が悪用している。
「わたしたち」の町の治安を、外国人が悪化させている。
といった、排外 -
Posted by ブクログ
すごい本を読んだ。
かつての東京宝塚劇場、中外火工品株式会社日比谷第一工場に集められた「わたし」たちは「ふ号兵器」、風船爆弾の製造に従事する。
最初は「わたしは、ドキドキする。わたしは、わくわくする。わたしは、そのどちらでもない。」とか「わたしたちの兵隊」とか「わたしたちの朝鮮の首都」といった文章に混乱する。そのうち、なるほど色々な少女がいたことを表現しているのだなとか、わたしたちの=大日本帝国のというような意味なのだなとかがわかってくる。
自分もその少女の一人のような気持ちになってきて、この時代に生まれていたら自分はどんなふうに生き抜いただろうかと想像しながら読む。
焼夷弾で焼けた焼けた -
Posted by ブクログ
風船爆弾について知りたくて手にした。
勤労動員で東京宝塚劇場に集められた女学生たち。彼女たちが作ったものは秘密兵器「ふ号」と呼ばれる風船爆弾だった。
何不自由ない女学生生活を送っていた彼女たち(雙葉、跡見、麹町・・)は次第に戦争に巻き込まれていく。憧れの制服は国民服に、聖書でなく「教育勅語」を読む。特攻警察が学校にやってきた日を境に「変わらないはずだったわたしたちの日常」が消えた…。
膨大な参考資料を調べ、著者自らが聞き取りを行ったと知り驚いた。
散文詩のような文を、朗読劇のようにリズムをつけて読んでみた。知らなかった事柄も彼女たちの目を通して語られるのでわかりやすい。
偏西風に乗ってア -
Posted by ブクログ
「わたしは」「わたしは」「わたしたちは」
いつまでも青春の只中にあるあの日の少女たちは
こんな小説初めて読んだ。
個人が主人公でもない。主人公はいるかもしれないし、いないかもしれない。わたしは、わたしたちは、といった主語で綴られていく、確かにあった記憶の数々。
少女たちの戦争は、たとえ形式的に戦争が終わったとしても、いつまでも続いていく。
あの太平洋戦争を、戦時中の部分だけを切り取ってはい、戦争は終わり。という話ではない。
そのことに、強い衝撃を受けた。
なんとも言えない、壮大な少女たちの記録を読み、様々な感情が胸で入り混じる。
ぜひ読んで、その読後感を、噛み締めてほしい。 -
Posted by ブクログ
物語は、日中全面戦争前夜の1935年(昭和10年)、東京都心で生活し、学校に通った少女の目を通して、第2次世界大戦の戦前、戦中、戦後を生活史の視点で描きます。1937年の南京陥落では提灯行列を行い、戦勝記念に湧きます。戦中は、風船爆弾組み立て工場として使用された東京宝塚劇場に集められ、製造に携わった女学校の生徒たち。風船爆弾は9300発がアメリカに向け放たれ、約1000発が米本土に到達したと推定され、アメリカ人6人が犠牲になった事実も丁寧に考証します。少女たちの目線から、戦争と無縁に見えた日常が国粋的な空気に包まれ、国家総戦力に駆り立てられる空気。戦争は、軍隊の戦闘による生死だけではなく、非戦
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Posted by ブクログ
アジア太平洋戦争下で日本軍が秘密裏に打ち上げた「風船爆弾」の製造に雙葉・跡見・麹町の各女学校生徒が動員されていたこと、風船爆弾の製造工場の一つが東京宝塚劇場だったことをモチーフに、少女の一人としての「わたし」と少女たちという意味でもあり、帝国日本の臣民という意味でもある「わたしたち」という人称をリフレインのようにくり返しながら、時代を生きた女性ジェンダーの生を呼び返そうとする試み。戦争の時代を扱っているのに、軍人や政治家たちは決して固有名では呼ばれず、戦争の死を死んだ被害者――「風船爆弾」で命を落とした米国人の女性と子どもを含む――の名前のみが書き込まれる。
特定の固有名に依存しない語