野中邦子のレビュー一覧
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エリック・ローソン『万博と殺人鬼』ハヤカワ文庫。
2006年に文藝春秋より単行本で刊行された『悪魔と博覧会』を改題、文庫化。660ページ余りの読み応えのある、エドガー賞犯罪実話部門受賞の犯罪実録ノンフィクション。
『万博と殺人鬼』という、アメリカの光と影を連想させるタイトルが興味深い。
シカゴ万博という華やかな大イベントの準備が進められる中、その影で活気に沸くシカゴに仕事を求めてやって来る若い女性たちを巧みに誘い、自身が造った秘密の建物の中で行われる猟奇殺人と遺体の隠蔽を行うシリアルキラー。しかし、彼の残虐な殺人行為は次第に綻びを見せ始める。
1890年代初頭のシカゴ。建築家ダニエル・バーナムは史上最大規模の万国博覧会を成功させるべく奔走していた。エッフェル塔に代表されるパリで開催された万国博覧会の建築物を凌ぐ建築物の構築が求められたのだ。
一方、ロンドンではジャック・ザ・リッパーが残虐な殺人行為を働き、それがアメリカ国内で噂になる中、建設ラッシュに沸くシカゴの裏側で『アメリカ最初のシリアルキラー』と呼ばれるH・H・ホームズというハンサムで悪知恵の働く男による連続猟奇殺人事件が起きていた。
万博の準備が着々と進む中、ホームズは恐るべき犯罪を隠蔽するための舞台の準備を密かに進めていたのだ。
苛虐の舞台が整うと、ホームズは万博開催で活気にあふれるシカゴに仕事を求めてやって来る若い女性たちを誑かし、次々と毒牙に掛ける。不審を感じた周囲の人びとや失踪した女性の家族がホームズに女性の所在を尋ねると巧みな話術と嘘で切り抜ける。
その後、アメリカ国内を転々と巡り、偽名を使いながら詐欺を働いたホームズは、保険金詐欺の疑いでピンカートン社の探偵に追跡され、遂には警察に引き渡される。
そして、重婚と詐欺と虐殺を繰り返し続けた殺人鬼ホームズをじわじわと締め上げていくのはベテラン刑事フランク・ガイアだった。
この平和な日本でさえ、毎日のように全国各地で起きる殺人事件のニュースを耳にするようになった。その多くが家庭や親族間で起きているのは驚愕に値する。犯罪の質や重さが明らかに変わって来ているようだ。
万博や五輪などの大きなイベントの開催や交通機関の発達で多くの人びとが流入して来ると同時に凶悪犯罪も流入して来る。かつて、凶悪犯罪など殆ど無かった東北地方に新幹線開通と同時に多くの凶悪犯罪が流入して来た。今はイベントや交通機関の発達だけでなく、ネットの情報氾濫が凶悪犯罪を地方に伝播させる一因になっているのかも知れない。
本体価格1,680円
★★★★ -
Posted by ブクログ
貧困を終わらせるなんて言葉、よほど頭がお花畑な夢想家しか使わないだろうと思っていた。
国際政治の最前線で貧困国の課題に尽力する人たちの成果も見ないまま、一体何を知った気になっていたのだろう。
2000年に国連総会で宣言されたミレニアム開発目標から15年。世界は大きく前進した。
・1.25ドル未満で暮らす人々の割合は世界全体で36%→12%。開発途上地域では47%→14%
・世界の識字率は83%→91%
・幼児死亡率は1270万人→600万人
・妊婦死亡率は45%減少
・HIVの新たな感染は40%減少
・オゾン層破壊物質は98%が除去
・安全な飲料水にアクセスできない人の割合は9%に減少
・開発途上地域の栄養不良人口の割合は23.3%→12.9%
・マラリアの死亡者数は3分の1
もちろん、悪化した事実もある。
・スラム居住者は7.9億人から8.8億人に拡大
・サブサハラ・アフリカ人口の41%は極度の貧困層
・今なお約8億人が栄養不良状態。
さらに、統計にはあらわれない不幸も尽きるはずもなく、日本でさえ餓死するような窮乏した生活に見舞われている人も存在する。
本書では、困窮とした人々の生活をただ憂い嘆くだけでなく、問題提起以上の具体的な解決方策が示される。
ハイパーインフレーションの終息、安定した新通貨の導入、返済不可能な債務の帳消し、瀕死の共産主義経済からダイナミックな市場経済への移行、エイズ・肺結核・マラリア撲滅のためのグローバル基金の設立、貧困層のHIV感染者に対する現代的な薬物治療。
これらに直接関与できない人であっても、資金を提供することは誰にでも出来る。
遠くの見知らぬ多くの生活困窮者よりも、近くの少ない困っている人に手を差し伸べようとする人間の感覚は当然だ。
ただ、技術革新により全世界の距離が縮みつつある中で、誰を助けるのかを選ぶということは、誰を助けないのかを選ぶことだという事実の適用範囲は広がっている。
人類文化の繁栄は、人の、団体の、地域の分業により加速してきた。これからの未来、貧困を脱した国々が新たな分業の輪に加われば、想像を超えた新たな世界が見られるかもしれない。 -
Posted by ブクログ
ヘンライ先生白熱教室。
著者はアメリカ19~20世紀の画家、教師。
多くの有名アーチストに影響を与え、アメリカでは今だに読み続けられているバイブルのような本らしい。
内容は具象絵画に関してではあるが、とても具体的、かつ本質的。今でも通用することが多い。
伝えたいことを持っているかどうか、それを表現するための画面構成が重要であることを繰り返し述べているのが印象的。
また、自分自身の表現を徹底して追求せよとも。
アートを学ぼうと思う人にはおススメ。
先生が叱咤激励してくれる。
ただ、このようにな勉強をすれば、アートで食べていけるようになるという話ではなく、先生自身が副業を勧めているのにちょっと笑えた。
彼が今生きていたら、現在のアートの流れをどう思うだろう?案外面白がるかな。 -
Posted by ブクログ
デヴィッド・リンチやキース・ヘリングらも愛読したという芸術指南書。原書は1920年代に発行されているというのだから、いままで邦訳されていなかったのが不思議なくらいだ。
肝心の中身はというと、芸術指南書というよりは人生哲学書と言った方が適切かもしれない。絵画だけにとらわれず、彫刻・写真・詩など、あらゆるジャンルの芸術に通じるものがある。見方によっては芸術の枠を飛び出し、仕事や人生一般にも関連する。
いくつかの手紙や講義ノートを寄せ集めて出版された本であるため、ヘンライの述べていることはいくぶん重複するが、その主義主張は一環している。
「芸術を学ぶ者は最初から巨匠であるべきだ。つまり、自分らしくあるという点で誰よりも抜きん出ていなければならない」(15ページ)
「拒絶を恐れるな、すぐれたものをもつ人間はみな拒絶を通過してた」(16ページ)
芸術分野を少しでもかじったことのある人間なら抱えるであろう不安や疑問に対して、ヘンライは明快な言葉を残す。それは大変力強く、自信に満ちているため、窮地に陥った若者たちを救い出す道しるべの役割を果たすには十分足りる。かくいう私も(アマチュアではあるが)写真や映画をかじっているので、胸を打つ言葉がいくつもあった。
解説として滝本誠さんのヘンライ史が載っているが、惜しむべくは「商業主義に囚われるな」と主張するヘンライが実はお金に全く困っていなかったという事実である。ニューヨークとパリを自由気ままに行ったり来たりの生活をしていた人間が「お金のことなど気にするな」というのはやや説得力に欠ける。
しかし、全体としては芸術分野に関わる人たちを熱く震えさせる言葉がちりばめられており、創作の過程で迷いが生じたら読み返したい内容であった。 -
Posted by ブクログ
芸術指南書として読み継がれている本らしいけど、芸術におけるさまざまな視点から一貫して自己教育について書かれていると感じた。自分自身からの学びが重要であると。個人はどうしたって“私”からでしかありえないのだから、そのスタートはもっともだ。
モチーフ(動機)があってこそ、全体は意味をなす。そして、見ることをおろそかにせず、営みをよく観察すること。それなくして技法ばかりを追い求めても、つまらないものにしかならない。芸術に限らずあらゆることに共通することだろう。
「自分自身の正直な感情を大切にし、見過ごさないこと。」
自らの想像力を信頼してこそ、幸福、叡智に触れることができるのだ。
何度でも読み返したい良書。