石川達三のレビュー一覧
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できるだけ若いうちに読まなければ意味がない作品ではある。
ミステリーとして読めばあらすじにすでに書いているため面白くないが、人間が持つエゴイズムが悲劇につながっているということを念頭に置いて読むと頭が冷える作品ではある。
主人公の青年、江藤賢一郎は何事も打算的に考えてしまう性格であるがゆえに、法律を盲信しそれ以外を無駄だと切り捨ててきた。そして、自分の人生設計が崩れることを恐れ、教え子を殺し、母の声にも耳を傾けなかった。
現代で言えば何事も効率を重視する価値観に似ているかもしれない。
もしかしたら、何事も計算し、自分自身の人生を重視する結果、誰もが人間関係、社会生活の崩壊につながるのではと怖く -
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高校生の時、読書感想文を書くために読んだ。
それから30年後、実家にあった文庫本を見つけもう一度読んでみた。
とても衝撃を受けた記憶はあったが、内容は忘れていた。
高校時代の自分は頭脳明晰な江藤に憧れ、エリートに憧れたと思う。
そして「女は怖い」「女で失敗してはいけない」と思った。
高校・大学時代の自分を思い返すと、この小説の影響を受けていたなと思う。
今読み返して思うことは、エゴイズム、未熟さ…
高校生の自分とは違う視点で楽しめたと思う。
高校生時代に自分が引いたアンダーラインに?を感じながら、高校時代の自分と対話しながら読み進めるという不思議な体験ができた。
読書感想文もどんな -
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ネタバレめっちゃ面白かったー!!一気読み。
しかも沢山メモとりながら読んだ。
なんなら結末はあらすじから容易に想像できるのだけど、それに至るまでの主人公の考え方や過程に読み応えがあった。
最低な男というのが一般的な感想だと思うけど、男とか女とか超越した視点で楽しめた。
「誘惑とは結局、相手にあるのではなくて、自分の情感の中にあるものだった。」など、名言ばかりじゃないの・・。
主人公の江藤が法学生ということで、ところどころに法律やそれに基づいた論理的な思考が出てくる。が、自分の都合の悪い時だけ論理が崩壊する。
なるほど、そう来るか、、!と笑
それにしても法律には「愛」という字は一つも出てこない -
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鶴は霜などが降る寒い夜、我が子を羽で温める、と言われているらしい。そこから、親の子を思う心が夜の鶴に喩えられるようになったと。
そんな『夜の鶴』だが、これは娘の結婚を前に、その伴侶に向けて父が送った書簡、という形式になっている。そこからは父の娘に対する限りない愛情が伺える。
読んでいると、これはいわゆる私小説の類ではないかと思った。実際、巻末の解説(浜野健三郎)によれば、実際の著者と対応する点がいくつかみられ、したがってそう言っても差し支えはないらしい。だが、また解説によれば、どうやら当時著者は私小説というものに否定的だったらしい。そして、鑑賞において著者の実際と比較しながら読み解くことに -
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「金環蝕」で石川達三にハマり2作目。
四十八歳の抵抗。
えーっと、このタイトルの本を電車で読むのはなかなか冴えないものがある。
まさしく同世代として、身につまされるというか、あるあるというか、ライフシフトで人生100年と言われても、本書の出版された昭和30年代初頭と、サラリーマンの心象は大して変わらないことを痛感させられる。
要は会社人生で先の見えた男が酒場の若い女の子にのぼせ上がる、というだけの話である。
しかしこれが全方位的に読ませるのは、年齢に相応しい仕事への自信と倦怠、体力への自負と不安、家庭に対する(昭和の保守的な)責任と疎ましさ、そうしたものが余さず、かつ渾然一体として描か -
購入済み
1966年に佐賀県で起こった事件がモデルになっています 数年前、モデルとされた事件が新聞で取り上げられていました 犯人を知る地元の人は犯人に同情的だったと書いてありました
人を裁く事の難しさを痛感させられた事件だったと思います 本書では主人公を法学部の学生に変えてあり、それがかえって幸せとは何かなどいろいろと考えさせられる内容になっています 勝ち組、負け組が叫ばれている昨今、是非読んでおきたい本です -
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鼻持ちならない自信家の秀才が女を二股したあげく
のっぴきならない状況に追い込まれて道を踏み外す…
そう書くと、なんだか溜飲の下がるような話だが
実際の読後感は、吹雪の夜に裸で外へ放り出されたようなものだった
彼はみずからの力を信じ、世界の秩序を信じていた
世界は己の意思による働きかけで変えてゆけるものだと、
素直に信じてしまったんだ
その一方で彼は、人を疑うということをよくわかっていなかった
考えたくなかったんだと思う、自分が他人にあざむかれ、踊らされている
ただの滑稽な人形かもしれない、なんてことは
だからこそ、逆に彼は
他者を人形のように扱い、始末をつけることで
世界に対するみずからの誠 -
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本屋で平積みされていて手にとった本
大学生 江藤は貧しいが野心があり、現実主義者だ。
非常に優秀で司法試験に合格、資産家の伯父の娘(康子)との縁談と社会的地位、ブルジョワへの階段を上っていくかに見えた彼の目の前に現われたのは妊娠した教え子(登美子)だった。
彼女に対して彼は死んでくれればいいと思う。
人生設計が崩れることを恐れた彼は彼女を殺してしまう。
無能で受け継ぐべきものがないが、江藤を愛し心底尽くす姿勢の登美子
プライドは高く、愛情を感じないが、受け継ぐべき資産のある康子
警察の取り調べの中で、彼は何もないが登美子となら幸せになれたのではないかと感じる。最後に -
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昭和46年の作品。学生の頃に話題になった本で読んでいたが、記憶が曖昧なので再読してみた。
読み始めてわかるが、たぶん初読でも、ストーリーがどう運ばれていくか、ある程度予想できる内容になっている。そのわかりやすさが逆に、先へ先へと読み進めさせる原動力になっている。立身出世欲が強い主人公、母親ひとつ手で育てられ、周囲の期待のなか、司法試験合格を当面の目標に見据えている。家庭教師での教え子(登美子)と愛情を持たない関係を続けている。登美子は母親をなくし、父親とその妾と同居する形で、心の荒んだ生活を送っており、主人公だけが心の拠り所となっている。一方、主人公は資産家の叔父さんの援助のもと、司法試験合格 -
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1956(昭和31)年刊。明治生まれの作家石川達三、51歳の作。戦時に戦地に派遣されルポルタージュ的な小説を書いて発禁処分されたような世代ながら、戦後に非常に活躍した作家で、とてもパワフルな人、というイメージがある、
本作はやや男尊女卑的な記述が時代がかってはいるものの、最近の作品としても遜色のない、リアリティを持った小説だ。
当時55歳が定年であったようで、主人公は保険会社の「次長」を務める48歳の男性。くたびれて味気ない拘束が際立って感じられる夫婦生活や、年頃になった娘が親元を離れ自立していこうとする時期の寂しさを細かく描写しており、それがすこぶるリアルである。私自身が身につまされる -
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時代背景は1960年代後半どっぷり昭和に漬かった、しかし古びていない題材。
いつの世も経済的に不如意な青年が、勉学、容姿に自信あり、上昇志向があるとすると、手っ取り早いのは後ろ盾を見つけること。いわゆる「逆玉の輿」を狙うのもその一つ。
法律を学んで国家試験を目指している青年が、学費を援助してもらい、その支援者の娘と結婚の運びの実現となったところで、その道は安易ではなくなった。そのつまずきはこっそり付き合っていた元カノが妊娠「生みたい」と言われ、万策尽きて・・・そしてどんでん返し。斎藤美奈子氏が文学論『妊娠小説』で「妊娠サスペンス」と名付けているほどの緊迫感だ。
石川氏はけっこう結婚つま -
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ネタバレ打算的な賢一郎くんに「いつか天罰が下れ」と思いながら読んでいた。エゴイズムは仕方がない。みんな自分をいちばん大事にするのは当然。とはいえ、それを正当化するための屁理屈みたいな理論にむかつきますよね。たしかに「よく考えている」とも言えるけれど、ほとんどが保身のための言い訳なのだから。男が女に対してこういう屁理屈をぶつときは、たいてい「オレは言ったよ」「お前は頷いて聞いていた」という言質をとるためなのではないかしら。本当に自信のある生き方をしているのなら、こんなに無理くりな屁理屈はこねないでしょう。「いうまでもなく、それは彼のエゴイズムだった。あるいは臆病さ、または狡猾さ、そして小さな賢明さでもあ