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Posted by ブクログ
最近は本当に読書に時間を割けず悲しい。
久々に以前から読みたかったナオコーラさんの作品を手に取るも、1時間もあれば読めそうな本作も本当にちびちびと読み切った。(時間をかけすぎて、本に挟んだ栞の跡がついてしまった)
「リボンの男」。
タイトルも素敵だし、帯に下手な字で書かれている(お子さんが書いたのかな?)「おとうさんはねえ、ヒモじゃなくてリボンだよ。」が愛おしすぎる。
本作もナオコーラ節全開で、ステレオタイプであるジェンダーロールをぶち壊して物語は展開される。
主人公はシュフの男性。書店員の妻と3歳の息子・タロウとの生活の話。
"物語は展開される"と書いておいてなんだが、特に何も起きない。
幼稚園までの道中で堤防で花や虫を見つけたり、庭にタヌキがやってきたり、それだけ。
だけどそんな日常から、主人公の妹子はあらゆることを感じ取り、自分の考えを深める。
私たちが日々暮らしていくのと同じやり方。
無意味なようで無意味でない本作も温かくて面白くて好きでした。
P. 132
「黒トンボがわかりました」
タロウが、犬の飼い主に向かって言った。
「黒トンボ?ハグロトンボを見たの?」
犬の飼い主は再びしゃがんでタロウに尋ねる。
「あはは、黒いトンボ、見たの?」
みどりも調子を合わせる。
(中略)
タロウは人見知りなのに、他人に対して急に話題を提供することがある。
幼稚園から帰ってきて、マンションの管理人さんが「お帰り」と挨拶してくれたとき、挨拶を返さずに、「アリさんが喧嘩していたんです」と急に喋ったことがあった。
(中略)
それから、バス停でバスを待ちながら土遊びをして手が汚れてしまったとき、タロウが、「バスが来たら、運転手さんに『手が汚れちゃったんです』って言う」と言い出したことがあった。そんなことを急に言われても運転手さんは困惑するだろうし、バスに乗るときはサッと金を払ってスムーズに着席しないと他の乗客に白い目で見られるから妹子は急ぎたい。だから、「今、拭いてあげるから、そんなこと言わなくて大丈夫だよ」とウェットティッシュで拭いてきれいにしてあげたのだが、いざ、バズが来て乗り込むと、タロウは運転手さんに向かって、「手がきれいになったんです」と手を広げて見せた。運転手さんは、「良かったねえ」と言ってくれたが、わけはわからなかっただろう。
(中略)
それにしても、「黒トンボを見ました」ではなく、「黒トンボがわかりました」というセリフは、ちょっと可笑しい。
「行ってらっしゃい」という挨拶に対して「黒トンボがわかりました」と返して構わないと考えるタロウの謎のセンスを、この先どうやって導いていけばいいのか。
いや、「挨拶には決まったフレーズで返さなければならない」「雑談は、相手が受け止めやすいセリフを、軽く放たなければならない」といった思い込みのある自分がまだまだなのか。
もしかしたら、タロウは、挨拶というものに無限の可能性を見ていて、だからこそうまく返せないのかもしれない。なぜ、自分の言いたいことではなくて、定型のフレーズを言わなくてはならないのか、と毎回疑問を覚えて言い淀んでいるのかもしれなかった。
Posted by ブクログ
妹子(いもこ)(小野…だから)こと、小野常雄(おのつねお)くんは、書店員の妻・みどりさん、幼稚園に入ったばかりのタロウくんとの三人暮らし。
妹子が専業主夫として、家事と育児のほとんどを担当している。
住まいは武蔵野の自然が残る、野川の近く。
毎日川沿いを歩いては、タロウくんを幼稚園に送り迎え。
花や虫に旺盛な興味を示すタロウくんと一緒に自然を見ることを妹子も楽しんではいるが…
これって、時給いくら?
みどりさんの方が収入が多いという理由もあったけれど、むしろ妹子自身が育児をしたくて主夫になることを申し出たのだ。
でも、悩んでいる。
「リボンの男」ってなんだろうな?と思って手に取った。
読む前は、リボン付けてる男のことかと思った。
でも、トランスジェンダーのお話ではありませんでした。
とはいえ…
『男だからとか女だからとか関係ないんじゃない?』
という提案がされていると思うし、全然遠いというわけでは無かったと思います。
むしろ!
いいんじゃない?主夫。
妹子は、自分には稼ぎがない、世間的にはヒモなんじゃないか、と悩んでいる。
みどりさんの方は、ちゃんと家族を養っていけるのかという不安と共に、家事と育児を夫に丸投げしているという引け目がある。
それとともに、妹子の方は「稼いでくれてありがとう」
みどりさんの方は「家事と育児を頑張ってくれてありがとう」という気持ちを相手に対して抱いている。
妹子とみどりさんが特別優しい人たちなのかもしれないけれど。
主婦が育児して、「育児してくれてありがとう」って言ってくれる旦那さんは、世間にそういないと思うし、妻の方も、心で思ってはいても「養ってくれてありがとう」とはなかなか言えない。
「誰に食わせてもらってるんだ!」なんて言われたらなおさら。
妹子はとても純粋だ。
自分の子供の未来だけではなく、他の子供の未来も明るいものにしなくてはいけない、と考える。
人間の子供だけではなく、地球上の生きとし生けるもの全てに生きる権利があるのだと考える。
宗教や思想としてではなく、子供のような汚れのない思いで、あるいは地球のような母の愛のように、そう思っている。
え、そこまで考えたら人間は生き残れないよ、と正論で反論しようとして…ちょっと待て、それは「正」論なのか?
と分からなくなってしまった。
タロウくんのユニークな発想にも、天才を感じる。
簡単に読める本だけれど、その余白でいろいろな事を考えさせられたのでした。
「リボン」の謎が解けたら微笑ましくてしばらく笑ってしまいました。
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