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Posted by ブクログ
生物学、生態学など全くの素人の立場で書評を書きますが、初学者にもとてもわかりやすく面白く読みました。序盤で面白かったのは生物多様性の世界と物理学の対立についてです。前者は個別性の世界なのに対して、物理学は普遍性の世界だから相性が悪い、というのは、ちょうど最近読んだ、ウォーラーステインの『入門世界システム分析』を思い出させました。ウォーラーステインによれば、近代になって学問が科学と人文学に別れてしまったこと(彼はこれを「2つの文化」と呼んでいます)、科学が普遍性を重視するのに対して、人文学は個別性を重視することで互いが対立をし、結果として近代社会は普遍性を重んじる科学が優勢になっているというようなことが書かれていました。
本書は前半に生物多様性の実態(熱帯雨林や珊瑚礁の事例)、さらにそれが人間も含めた全生物にもたらす意味などをわかりやすく解説されていますが、後半になってくると哲学的な議論展開が進みます。私はアカデミクスの人間ではないので、単純に「面白い展開になってきたぞ」と思いむしろポジティブに楽しみましたが、著者も書かれているように、アカデミクスの人が読むと、著者のような科学者が価値観や「あるべき論」まで語るとは何事だ、と感じるのかもしれませんね。私は著者の勇気と広い見識を高く評価します。
著者は「私」の定義が現代社会では非常に狭い(小さい)ことに警鐘を鳴らしています。そしてこれは科学の粒子主義から来ていて、もっと遡ればデカルトにまで行き着くわけです。そうではなく「私」と私ではないところの境界は空間的にも時間的にも非常に曖昧で(胃の中に入ったリンゴは私の一部なのか否か、あるいは自分の子供にも「私」が遺伝しているが、私の一部なのか否か)、我々生物はそういう曖昧な環境に生きているのが真実であること、さらにこのように「私」を拡大していけば自ずと生物多様性の世界が維持されていく、と論じています。著者は利己主義の己を拡大するという言い方をされています。これは仏教で言うところの小乗から大乗へ昇華せよ、というのとニュアンス的に近い気がします。また他人や他の生き物を手段として見るのではなくそれ自体目的があるものとして見ることの重要さも指摘していますが、これはカントの定言命法を思い起こさせます。カントは「汝及び他のあらゆる人格における人間性を、単に手段としてのみ扱うことなく、常に同時に目的としても扱うように、行為せよ」と述べていますが、これを拡張してあらゆる生物についても手段だけでなく目的としても見ることの大事さ、について語られているのかと感じました。
生物多様性だけでなく価値観、人間のあり方など非常に考えさせられる本でした。オススメです。
Posted by ブクログ
生物多様性とは何か?何故守らなければならないのか?を、生物という定義から丁寧に説明してある。【私】という概念を用いてあり、読んでいる最中「あれ?これって生物の本?倫理や哲学、経済の本じゃなくて?」と思ってしまうような異色の書だったのだが、このことが生物多様性を守るうえで重要な考え方だった。つまり、生物多様性を守ろう!では人類は動かない。利己主義的思考が次世代につなぐ役目を邪魔している。生物多様性を守ることは、【私】がずっと続くために、当然守るべきものであり、そのために開いた【私】であり続けること。生物多様性の保全は全て【私】の継続にかかっているのである。量重視の豊かさではなく、質の異なったものがあるという豊かさを求めるように発想転換する必要がある、というところに大いに共感した。
Posted by ブクログ
序盤から中盤までは生物多様性の底力というのか、どのようにして多様になっていったのかを解説していて、特に熱帯地方の陸と珊瑚礁の海を具体的に述べていて、それはそれで興味深いものがありましたけど、僕が知りたかったのはそこではなくて、『なぜ多様性を守らなければならないのか?』という疑問に対して、生物学者である著者がどんな回答をするのかが気になって本書を読み始めたので、まぁ終盤ではそれがちゃんと書いてあったので良かったです。
著者曰く、『今ある生物種は全部必要かと言われれば疑問が残る。しかし、生物多様性は現代科学ではまだまだ解明できていない部分も多いし、不要な種もあるかもだけれど、それらを排除したらどんな影響が出るのかの見通しが立たない』とのことで、とりあえずは多様性を守りましょう、ということでした。
更に、『自分には関係ない生物を守ろうと言われてもピンと来ない。けど、人間も様々な形でたくさんの生物と関わり合って生きていることを実感し、生物を守ることは自分を守ることと同じであると気付けば、その大切さが分かるのではないか』と締め括っています。僕も基本的には著者の意見に賛成ですが、たくさんの生物を眺めてきた著者だからこそ言える境地というか、言葉の重みや説得力が全然違いますね。
僕の評価はA-にします。
Posted by ブクログ
筆者は、生物多様性に関しては全くの素人である、と冒頭にことわっている。では何をやっている人かというと、生物学者であるという。生物学者なら生物多様性もお手の物であろうと思うのだが、この世界ではそうではないらしい。筆者の専門は動物生理学で、主にナマコの皮の硬さの研究をやっているのだそうだ。
しかしながら生物学者であるがゆえに、特に2010年のCOP10前後には生物多様性についての講演依頼を、あちこちから受けている。本書はその時の講演内容をもとにまとめられたものである。
新書版ながら改行の少ない文章なので、内容は相当なボリューム。一般的な生物多様性の話に加えて、ダーウィンの進化論やメンデルの遺伝の法則といったあたりの説明もけっこうな紙面を割いている。ただ残念ながら、最後の方になると、ちょっと観念的な領域に足を踏み入れてしまっている。副題は<「私」から考える進化・遺伝・生態系>。
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