Posted by ブクログ
2016年10月28日
2015年に「オール讀物」に掲載され絶筆となった3話に、2014年の文庫書き下ろし「月は誰のもの」、2014年のシリーズ10作目の文庫化に当たっての所感を追加した単行本化で、シリーズ15作目の最終巻。
表題作の第2話「擬宝珠のある橋」はいかにも宇江佐さんらしい、人情味あふれる話。
伊三次が得意...続きを読む先にしている店の改築を請け負っている大工の棟梁は、幼い子を抱えた者どうしで再婚し仲むつまじい所帯を持っていたが、その連れ合いの”おてつ”が二昔も前の伊三次の得意先にいた女中だった。前の亭主に駆け落ちされ、蕎麦屋を営んでいた義父母に説得されて今の縁を得たが、義母を亡くして店をたたみ気落ちして甥の世話になってなっている義父を案じていた。
それを知った伊三次が屋台の蕎麦屋をやらせてみたらと勧め、一人前の大工になっている孫たちが屋台を作ってやると、義父は元気になってそばを作りだしたので、伊三次はお文と娘のお吉を連れ祝儀を持って食べに出かけた。愛想のない義父だが、伊三次を見詰める目が違っていたことをお文は見て取っていた。
著者にとって、デビューから書き続けてきたこのシリーズにはやはり特別な思い入れがあるようで、「髪結い伊三次」を書いただけで満足だという。「人が人として生きていく意味を追求したい」のだと語っていて、つきあい続けてきた読者にとっては、感慨ひとしおの言葉である。