Posted by ブクログ
2022年07月02日
WMACにおいて、「最もイノベーティブな企業」に共通して見られる特徴のひとつに「多様性の重視」が挙げられます。しかし、一体、人材の多様性とイノベーションにはどのような関係があるのでしょうか?
カギは「多様性がもたらす創造性への影響」にあります。
つまり最終的に重要なのは「意見の多様性」であっ...続きを読むて「属性の多様性」ではない、ということです。多くの企業が取り組んでいる「属性の多様性」に関する向上は、それはそれで否定しないものの、それが最終的に組織内における建設的な認知的不協和につながるかどうかは、「属性の多様性」がしっかりと「意見の多様性」につなげられるかどうか、という点にかかっています。
…残念ながら、多くの企業で取り組まれている性別や出身地といった属性を多様化する試みのほとんどは、なんの効果を生み出すことなく単なる自己満足に終わるでしょう。
重要なのは、人と異なる考え方/感じ方をどれだけ組織成員できるか、そして考えたこと/感じたことをどれだけオープンに話せるかという問題です。これは属性の問題というよりも「多様な意見を求める」という組織風土の問題であり、さらには「多様な意見を促す」という組織運営に関するリーダーシップの問題だと捉える必要があります。
これらの事実、つまり「日本人は、目上の人に対して意見したり反論したりするのに抵抗を感じやすい」という事実と、「多くのイノベーションは組織内の若手や新参者によって主導されてきた」という事実は、日本人が組織的なイノベーションにはそもそも向いていないということを示唆しています。日本の組織(営利・非営利を問わず)においては、何かイノベーティブなアイデアを思いついたとしても、それを組織内で提案したり意見したりしにく「空気」があるということです。ここに、個人としては最高度に発揮される日本人の創造性が、組織になると必ずしも発揮されなくなってしまう大きな要因のひとつがあるのです。
…上位の立場にある人間は、下位の立場にある人間がフィードバックを与えてくれることを待っていてはいけません。むしろ積極的に、下位の人にフィードバックを与えるように求めるリーダーシップが必要になってくるのです。
まず、トーマス・クーンの指摘する通り、イノベーションの推進において主導的な役割を果たすのは、組織における「若手」か「新参者」であることが多い。
次に、日本人は、組織内の目上の人に対して反論したり意見したりすることに心理的な抵抗を感じる度合いが、他の文化圏よりも相対的に強い組織風土を持っている。
そして最後に、現在の日本ではイノベーションの主導役となることを期待される若手を、シニア層が数のうえで大幅に上回っており、どの組織でもシニア層が分厚くなっている。
この三つの事実は、イノベーションの促進という観点について、我が国が大きな矛盾を抱えていることを示しています。
この大矛盾のリンクを解こうとする場合、改善可能なのは「組織風土」しかありません。
ヘイグループは、50年以上にわたって全世界の企業でリーダーシップ開発の支援を行っていますが、部下に意見を促し、それに対して真摯に耳を傾けるリーダー、つまり「聞き耳のリーダーシップ」を発揮している程度は、組織成員のモチベーションやコミットメントと強い相関があることを把握しています。
スコットが犬ゾリを信用しなかったのは、かつて極地で予行訓練を行った際に、知識不足ゆえに犬を伝染病で全滅させた経験のためだと考えられています。たった一回の「たまたま犬が役に立たなかった経験に基づいて、極地では「そもそも」犬は役に立たないと断定してしまったわけで、これは統計的品質管理で厳しく戒められている「慌てものの誤謬」の典型と言えます。
イノベーションの推進にあたって、この「慌てものの誤謬」が多くの組織で障壁となります。皆さんも何度か言われたことがあるのではないでしょうか?
典型的なのは「それは以前試してみたけど、うまくいかないんだよ。理由はいくつかあって……」という声です。先述した通り、楽天の三木谷氏が楽天を起業した際、多くの論者がこのビジネスモデルを批判しましたが、これらの論者が囚われていたのもまさに「慌てものの誤謬」だったということができます。
イノベーティブな組織に共通して見られる特性として次に指摘したいのが、「社内外に広く濃いネットワークが形成されている」という点です。平たく言えば、イノベーティブな組織では、通常業務で情報交換する相手以外の異なる部門や社外との間でも活発な情報交換が行われているのです。
ここでカギになるのが個人のリーダーシップです。先述した大河内賞に関する一橋大学イノベーション研究センターの研究や、あるいはヘイグループによるこれまでの研究では、短い場合は数年、長ければ10年以上にわたって「思い入れ」を持った個人が様々に組織に働きかけて人・モノ金を注ぎこみながら、結果的にイノベーションの実現に漕ぎ着けた事例がたびたび観察されています。
結局のところ、イノベーションの実現にあたり「最適な決め方」はない、ということです。「最適な決め方」がない以上、「決め方」そのものを画一的に運用することはできません。
したがって、ここで重要になるのは「決ではなく「決め方の決め方」だということです。
最初に設定したのが、ケネディ大統領自身は会議に出席しないというものでした。
理由は「安全保障について深い知識と経験を持つ諸君の議論について、自分が影響を与えることのないよう、また特別に自分に気を使ってもらうことのないように」というものでした。結果的に、これは極めて賢明な判断でした。
では、具体的にイノベーティブな組織のリーダーはどのようなリーダーシップスタイルを発揮しているのでしょうか?…
ヘイグループの調査によると、「フォーチュン500」の中でも「最もイノベーティブ」であると考えられる企業において発揮されているリーダーシップスタイルは、「ビジョン型」が68パーセンタイルと最も高く、「率先垂範型」が4パーセンタイルと最も低くなっています。これは、組織の管理職が、目指すべきゴールを明確化している一方、日々の業務レベルへの介入は最小限に留めな
がら組織を率いていることを示唆しています。つまり、先ほどのサン・テグジュペリの言葉を借りれば「海へ漕ぎ出したいという情熱」を訴えることで組織を動かしているということです。
一方、同項目について日本企業の平均を見てみると、「率先垂範型」が58パーセンタイル最も高く、「ビジョン型」が3パーセンタイルと最も低くなっており、先述した「最もイノベーティブな組織」とは真逆のリーダーシップスタイルを示していることがわかります。これは、組織全体の向かうべき方向性や達成すべきゴールを管理職が明確化せず、日々の業るに介入することで組織を回していることを示唆しています。中長期的なゴールを示していないので権限の移譲も進まず、上位管理職が日々の業務に介入することで「目先の火消し」に奔走していることが窺えます。つまり、こちらは「森に行かせ、木を集めさせ、のこぎりで切って厚板で留めさせる」ことに奔走している、ということです。
リーダーシップスタイルを算出するために用いられているパーセンタイル値の母集団は、ヘイグループが全世界で行っている経営幹部・管理職アセスメントの参加者ですから、日本企業のリーダーが示している36パーセンタイルというビジョン型のスコアはイノベーティブな組織はもちろん、グローバルの標準的水準と比較しても際立って低いものと言えます。
ビジョンに求められる最も重要なポイント―それは「共感できる」ということです。
リーダーの仕事とは究極的に「ここではないどこか」を指し示し、そこに向けてフォロワをリードしていくことだということはすでに指摘しました。「ここではないどこか」へ、フォロワーを駆動させるために必要になるもの。それが「共感」です。自分も一緒にそこへ行きたい。そのために自分の能力を捧げたいと心の底から思うこと、つまり「フォロワーシップ」が生まれることで初めて、それと対になるリーダーシップが発現するのです。ところが、多くの日本企業のビジョンは、その事業に参画する人にとって「共感できる」ものになっていません。
では、どのようにすれば「共感」を獲得できるビジョンを打ち出せるのでしょうか?歴史上、多くの人を巻きこんで牽引することに成功した営みには、ビジョンに関する三つの構成要素が存在しています。
それはすなわち「Where」「Why」「How」という三つの要素です。順に説明していきましょう。
■人材育成
ひとつ目は、組織内の若手スタッフに対して「常に自分の意見を持つ」ように求めることです。コンサルティング業界ではこれを「ポジションを取る」と表現します。これは、平たく言うと「自分はこう思う」ということを常に「口に出せ」ということです。…
…
二つ目の取り組みが、組織内のシニアスタッフに対して「人に意見を求める」ようにしてもらうことです。権力格差指標の大きい日本では、シニアスタッフは積極的に若手の意見を求めなければなりません。
■人材配置
本書では、「多様なバックグラウンドを持つ人材が集まることでイノベーティブなアイデアが生まれる」とたびたび指摘してきました。この「多様性こそがイノベーションの源泉になる」という命題を是とするのであれば、採用の主軸を新卒一括採用に依存し、多くの人材が数十年にわたって同じ領域でキャリアを積み重ねるような組織から、時代を画するイノベーションが生まれることは期待できません。つまり、今現在の大手日本企業で進行している「キャリアの単線化」は、イノベーションの促進という側面では大きなマイナス材料になるということです。