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未発表原稿「新月」収録! 若き日より生と死を見据え、達観した筆致で人間の在り方を問い続けた作家・吉村昭。後の大作につながる初期の貴重な作品集、初の文庫化。真の生き方にせまる表題作他、全九篇。
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Posted by ブクログ
二〇二五年十月に河出文庫から出た『死まで』の陰鬱さは相当なものだった。その二ヶ月後に出たこの文庫も無茶苦茶暗い。中心となっているテーマは今回も家族の崩壊。その崩壊しかけた家族が新たな形をみつけていくような「星の夜の会話」(pp117-138)や、崩壊した家族を捨てて上京し自分なりの生き方を見つけて...続きを読むいく表題作(pp149-287)にはわずかながら希望がのぞく。でも一番印象に残ったのは巻頭に置かれている主人公の自分勝手さが本当に酷い「緑雨」(pp7-39)。
吉村昭『雪の火祭り 吉村昭初期中篇・短篇集』河出文庫。 未発表小説『新月』を含む未収録作品全9篇を収録した作品集。 吉村昭の小説を読み始めたのは40年以上前だろう。原作映画の『漂流』を試写会で観たのを切っ掛けに原作を読み、『破獄』や『羆嵐』、『高熱隧道』などを読んでいた。吉村昭は、こうした有名な...続きを読む中篇の傑作も面白いのだが、短篇にも名作が多数ある。自分が最も好きな短篇は『梅の蕾』だ。何度読んでも涙が零れる。舞台が故郷の岩手県であるだけに思い入れも強いのかも知れない。 『緑雨』。昔は結核で療養という話がよくあった。兄弟で経済的な負担をし合うのも、この頃の話。結核のため、家で療養している主人公と妻。看護婦に家事まで任せるのは心苦しいと女中を雇うが、17歳の若い女中も僅か10日働いただけで肋膜炎を患う。 『母の化粧』。含蓄のあるようなないような短篇。寡婦となった母親に登山に行くと告げ、家を出た息子は友人と結託し、母親が植木職人に支払う予定の10万円を強奪する。その時、母親は家に若い男を引き入れていた。 『早春の旅』。登場人物の名前から推測するに『緑雨』と連なる話だろうか。家出した妻を迎えに盛岡から山田線に乗って妻の実家に向かう主人公。それが今生の別れとなる。 『新月』。一種のホラーかイヤミスのようなテイストの短篇。主人公が出産間近の妻から聞いた捌いた鯛が骨だけで水槽を泳ぐ話が気になり、その技を持つ板前が働く旅館に足を運ぶ。主人公が家に帰って来ると妻が出産したばかりの女の赤ん坊と横になっていた。赤ん坊が産まれたという話を聞き付け、主人公と知り合いの動物の解剖が趣味という女の子がやって来ると意味ありげな表情を浮かべる。 『媒酌人』。不倫した男よりも相手の女性の方が遥かにしたたかに見える。不倫相手の女性秘書の結婚式の媒酌人を務めることになった男の心模様。 『或る夫婦の話』。したたかな友人の策略。年上の妻を持つ浮気性の男がバーのホステスと連れ込み宿に行き、女が眠っている隙に露わになった下半身の写真を撮り、隠し持っていた。その写真が妻に見付かると、友人に助けを求める。 『星の夜の会話』。なかなか人間の良さは測ることが出来ない。父親を亡くした主人公の女性が急に母親が再婚したいと言い出し、困惑しながら一人旅に出る。 『掌の記憶』。まさかのサスペンスに驚いた。小豆島で叔母が営むお遍路宿に珍しく若い青年が泊まりに来る。青年は盲人で一人で巡拝に来たようだ。叔母から言われ、主人公の女性は青年の手を握り、巡拝に同行する。 『雪の火祭り』。表題作の中篇。サスペンスの要素もあるが、余りストーリーには関係しない。父親の再婚相手の継母とうまく行かず、シャンソン歌手になる夢を目指し、家出して東京に出た女子高生。多くの人びとに助けられながら、シャンソン歌手を諦め、演歌歌手に成長する姿を描く。 定価1,210円 ★★★★
著者の初期である昭和29年から46年にかけて書かれた中短編集。 結核を患った著者の心情や独自の健康法も組み入れられている。 これまで読んできた「破獄」、「漂流」、「三陸海岸大津波」、「桜田門外ノ変」などから、硬質な文体で男の世界を描いたり、静謐なタッチで淡々と綴るのが著者の作風であるという概念を...続きを読む持っていた。 しかし、この作品集には、そういった要素はなく、ストーリー性が豊かで読みやすく、分かりやすいものばかりだ。 ラストに出てくるタイトル作の中編が特に面白く、あっという間に読んでしまった。 義母とうまくいっていない女子高生がシャンソン歌手を目指して上京、苦労しながら演歌歌手になるが、受刑を全うした同郷の友人が地道に生きる姿を見て、身の振り方を考え直すというストーリー。 歌手を目指す人々が、どんな経路をたどり、どんな苦労を味わうか、かなりのページを割いて描かれており、庶民目線で楽しませてもらえた。 「新月」は、結核で肋骨を削除され、骨にこだわりを持つ男が主人公。鼠や蛙の解剖を趣味とする少女知り合う。 「鯛が骨だけで泳いでいる」写真に魅せられ、鳥羽まで出向き、帰宅すると、妻が女児を出産していた。 知り合った少女が赤ん坊を見に来て「子守をさせて」と言い出す。主人公が、解剖を思い出し、不安を抱く場面で終わる。 なんとも、ブラックな余韻が残る作品だ。 「母の化粧」は、金に困った男が、悪党ぶる友人を誘い、二人で夜に母の寝室に潜入、姿を悟られないようにして母を脅し、金を奪う。 その時、母の背後に別の男がいた。 母は、離婚していたが、息子の留守を見計らって計画的に男を引き入れていた。 その後、母と息子は、平穏な日々を送るが、ある時、母が息子に情事の現場を見られたことを知り、自ら命を絶つ この他、小豆島の遍路宿で手伝いをする娘が、好感を抱いた男の意外な素性に呆然とするが、最後は、優しい気持ちに至る「掌の記憶」、若い妻に不倫された年上の夫が、妻が実家で自殺したことで、逆に義理の親から冷視される「早春の旅」など、波乱含みの展開に加え、興味深い題材、暗さのある松本清張の推理小説風の要素も盛り込まれ、読後感は非常によかった。
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雪の火祭り 吉村昭初期中篇・短篇集
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