無料マンガ・ラノベなど、豊富なラインナップで200万冊以上配信中!
※アプリの閲覧環境は最新バージョンのものです。
Posted by ブクログ
伊与原新の『翠雨の人』を読んだ。
時代は戦前。
主人公はマリー・キュリーに憧れる少女、猿橋勝子。
猿橋勝子は、地球化学者として海洋の放射能汚染などの研究に取り組み、その道に一生を捧げた女性だ。
とにかく努力の人だと思った。
『板上に咲く』の棟方志功のように、貧乏ではあっても天才的な才能で道を切り開いていくというのとは少し違う。
勝子は師の教えに従い、ひたすら真面目に研究を続け、努力を重ねて自分の道を切り開いていく。
しかも、今とは比べものにならないほど、女性が研究者として生きていくことが難しかった時代だ。
アメリカの水爆実験によって第五福竜丸が被爆したことは知っていたが、その後、日本の研究者たちが放射能汚染を調査し、その中で猿橋勝子が重要な役割を果たしていたことは知らなかった。
歴史上の出来事として知っていることでも、その裏側には名前も知らなかった人たちの地道な研究や努力がある。
本書を読んで、改めてそんなことを感じた。
この本はたくさんの人に読んでもらいたいと思うが、特にこれから自分の道を切り開いていこうとしている女性に読んでもらいたい一冊だと思った。
また少し横道にそれるが、本の中に『タイガー計算器』という、今では聞き慣れない名前が出てきた。
勝子が、腕が痛くなるほどハンドルを回して計算したと書かれている。
「タイガー計算器って、どんなものだったのだろう?」
調べてみると、数字をセットして横のハンドルをガチャガチャと回し、歯車を動かして計算する機械式計算機だった。
足し算や引き算だけでなく、掛け算や割り算もでき、電卓のない時代には役所や会社、研究機関などで広く使われていたという。
今なら100円ショップでも電卓が買える。
それを考えると、重い機械のハンドルを何度も回しながら研究の計算をしていたのだから、隔世の感がある。
考えてみれば、計算する道具もずいぶん変わった。
そろばんや計算尺、タイガー計算器から電卓、関数電卓へ。
私が大学時代に使った関数電卓から、その後はBASICでプログラムを組めるポケットコンピューター、PC-9801、MacやWindows、そして今ではスマートフォンへと進化した。
建築の世界なら、大工さんが使う差し金も、一種のアナログ計算機のようなものだろう。
『翠雨の人』に何気なく登場したタイガー計算器から、そんな「計算する道具の歴史」にまで思いを巡らせてしまった。
それにしても、腕が痛くなるほどタイガー計算器を回しながら、一つ一つ数字を積み重ねていった勝子。
そう考えると、彼女の「努力の人」という印象が、ますます強くなった。
Posted by ブクログ
とてもとてもよかった。
途中の藤原先生が渦の研究をしていた…のあたりでやっと史実がベースになっていることに気づいた。なるほど、藤原の効果の藤原先生か。
あの時代に学業を志す強さ、葛藤、40歳を超えての不安や寂しさと責任、単身送り出された異国での絶望は想像し難い。平成の、男女が同じように学ぶことが当たり前の時代に生まれた自分自身は、本気で学べたかと言われると自信がない。いろんな選択肢があったからこそ、隣の芝生が青く見えて、行ったり来たり。その中途半端さが自分なんだと、受け入れつつも、何かに本気で向き合うことの美しさと儚さを味わいたいと改めて思った。
Posted by ブクログ
猿橋賞、の猿橋勝子さんの物語。
賞の名は聞いたことがあるけれど、猿橋勝子さんのフルネームも人生も何も知らなかった。読み終えた今、何故今まで何も知らなかったのかと不思議になるほど偉大なことを成し遂げた化学者である。
ただ目の前の仕事に苦労を厭わずひたむきに取り組む姿は、ある意味、世界の中のひとつの歯車のようだなと思う。一人で完結しない生き方で、世界全体を一歩進めるために生きてらっしゃったのだなと。いや、ただの歯車として働くうちに、一歩を進めていたということか。地道に集めたデータで立ち向かっていく姿に心から感動する。
他方、科学は公平かといえば、主義によって絶対的な結果がねじ曲げられることもあるのかもしれない。勝子の受けた困難さから、今の超不穏な世の中で、あり得る現実に恐ろしくなりもした。
ぶわっと泣いてしまったところ。
単身アメリカで奮闘する勝子への手紙で、部下の奈良岡が語る言葉、「……あなたの面倒くささは、世界に通用します。面倒くささはすなわち、真面目さであり、粘り強さであり、正しさです。……」
Posted by ブクログ
伊与原新さんの猿橋勝子さんの評伝小説ですね。
評伝としたのは、フィクションでありながら、猿橋勝子博士の史実に基づいて書かれているからです。
何より、日本の女性科学者として、初の博士となり、「日本婦人科学者の会」の創立者の一人として、女性科学者の地位と育成に尽力された足跡を描かれた素晴らしい小説です。
題名で、気象予報士の話だと思っていましたが、そうではなく、気象庁の初の女性研究員となり、師匠の三宅泰雄と共に、放射能の環境への影響の研究で世界的に認められ、気象庁の初の女性職員になり、数々の功績を残された日本の誇る女性科学者の物語でした。
伊与原新さんの、読み易い軽妙でいて、真実を伝えて行こうとされる努力を汲み取る事が、読みながら感動へと導かれました。
地球科学の先駆者として、三宅泰雄教授と猿橋勝子博士を宣揚された功績は大きいと思います。
もちろん、伊与原新さんも地球科学の博士ですから、この小説は、伊与原新さんでなければ書け無かったと推察します。
次作がますます、期待に膨らみます(=^・^=)
Posted by ブクログ
伊与原新さんの長編で、実在されていた猿橋勝子さんの研究者としての人生をつづったフィクション
実際にあったことをもとにして書かれた小説は、やはり読み応えがあります
私は科学というものにさほど興味もなく過ごしてきたので、猿橋勝子さんという方を、知らずに過ごしてきました
それが、この本の存在を知り、メディアで取り上げられるようになって、女性研究者の第一人者としてこんなにも活躍された方がいたのかと、今も感慨深いです
女性の立ち位置が、男性と同様になったのかといえば、まだまだだと思います
それでも、この猿橋勝子さんのように、第一人者として活躍し、駆け抜けた人がいたからこその、今の社会
なんとも力強い物語でした
※アプリの閲覧環境は最新バージョンのものです。