あらすじ
「雨は、なぜ降るのだろう」。少女時代に雨の原理に素朴な疑問を抱いて、戦前、女性が理系の教育を受ける機会に恵まれない時代から、科学の道を志した猿橋勝子。戦後、アメリカのビキニ水爆実験で降った「死の灰」による放射能汚染の測定にたずさわり、後年、核実験の抑止に影響を与える研究成果をあげた。その生涯にわたる科学への情熱をよみがえらせる長篇小説。
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Posted by ブクログ
100年ほど前に生まれ、物理数学の頭脳を持ちつつ、「その時々を辞本で洗濯して歩んできた」女性、猿橋勝子さん。
これほどまでに胸を打たれると思わなかった。
幾度も目頭が潤み、最後は胸に迫るものが。
男性なら異なるだろうが・・・・女性が生きたこの時間、まして研究者学者の世界がいかに男性優位であったかは周知の事。
信州諏訪、気象大学校から始まった研究と勤務の日々・・職場はもとより、10代からの付き合いの仲間がフィクションとはいえ、「そうであったろう」描き方が、非常に心地よい。
三宅氏、奈良橋氏といった直接顔を合わす上司、同僚の言葉が作り物めいてなく、頁が進む。
こういった優れた作品を読むと、個人的だが「ドラマに作って手垢にまみれて欲しくない」と心から思う~ファンには申し訳ないが。
後半の大団円は日米の相互検定バトル。
単身乗り込んで行った彼女がまさに孤軍奮闘~しかし、米のやり口は極めてアンフェア‥しかし、結果を見ると誰しもが納得し、口をはさむ余地なし。。胸がすくとはこのこと!
装丁の紫陽花の花・・定年を迎えた奈良橋、紫陽花の雨に濡れた画像、そしてラスト~出来すぎと言ったらけなすことになりそうだが。
奈良橋賞に定めた規定にある「50歳以下の研究者へ」と実証するかの如き、奈良橋の孫が、新たな医学分野へ歩を進める絵図。
結婚せずとも 子がいなくても、こうして未来へ繋がっていく事の素晴らしさで、また涙が出そう。
勝子の脳裏に常にあったキュリー夫人の像∼第五福竜丸と黒い雨∼炭酸カルシウムと海水…学びが多すぎる至福の読書となった。
Posted by ブクログ
理系小説の第一人者である伊与原氏の直木賞受賞後
の一冊目の作品です。
自然科学分野の女性科学者を表彰する「猿橋賞」を
創設した、女性科学者の先達として道を切り拓いた
猿橋勝子氏の生涯が描かれています。
戦後、超大国が核兵器装備を進める中、核実験に
よる大気汚染を正確な実験データに基に、超大国
を相手に戦う姿勢に感動を覚えます。
科学の分野では日本は世界レベルにあると言って
いいのでしょう。
その陰にはこのような先人たちの努力があったから
こそなのだと、改めて尊敬の念を抱かずにはいられ
ない一冊です。
Posted by ブクログ
日本女性科学者の草分け的存在・猿橋勝子さんの
伝記を読んでいるような気分。
戦争が日常と隣り合わせで描かれていて、改めて「平和」や「科学」というものに考えや思いを巡らせる読書でもありました。
アメリカのビキニ水爆実験で降った「死の灰」の分析など、女性が科学の世界で生きることが難しい時代に、放射能汚染の研究をされていた猿橋さん。
今の暮らしがあるのは、こうして様々な分野で活躍する科学者がいてこそなんだろうな……。
疑問を解き明かしたり、暮らしを豊かにするはずの科学技術が、誰かを苦しめるために使われるなんて悲しいし愚行としか言いようがない。
今も当たり前の日常に歓喜する人々の描写には、ハッとさせられました。
戦争が、私たちからどれほどの日常を奪っていったのかは計り知れない。
猿橋さんのどんな逆境でも立ち上がり、向かっていく不屈の精神と行動力が素敵。
言葉から熱が伝わってくる彼女の演説には痺れました!
世界に大きな影響をもたらした猿橋勝子という女性の人生を、共に駆け抜けたよう。
この本を読めて良かった。朝ドラで見てみたい作品です。
『核兵器とそれのもたらす災害について、誰よりよく理解しているのは我々科学者であり、科学者には等しくそれを全人類に伝える義務があります。科学者のもっとも尊い職務は今や、人類の幸福と平和に貢献することであり、科学を人間の殺戮と文明の破壊に使わせないことなのです』
Posted by ブクログ
猿橋勝子さんをこのお話を読んで初めて知りました。女性が科学者として戦中戦後を生きていくのは、とても大変な時代に、その先駆者として生きてこられた姿は素晴らしいなと思いました。三宅博士との出会いが猿橋さんの人生に与えたものは大きかったんだろうなと思います。良き師に出会える大切さを改めて感じました。
Posted by ブクログ
一部に架空の人物・出来事が含まれているとは言え、ほぼノンフィクションの作品。
世界大戦前後の話なので、湯川秀樹・仁科芳雄といった有名どころも登場する。
猿橋勝子さんが生きた時代背景や、人となりがよく描かれている。
「翠雨」とは新緑の季節、初夏から梅雨にかけて降る雨で、強く降る雨ではなく、大地や葉を優しく濡らす、しっとりとした雨のこと。
夏の季語としても使われる言葉だそうだ。
自分の周りには空気しかなくて、その空気は空まで続いている。
空気しかないはずの空から雨という水が落ちてくる。
このことが不思議で空を見つめてしまう。
猿橋勝子さんは、こういう人だから「翠雨の人」
B29による空襲が民家にまで広がり、広島・長崎に原爆が落とされ、何も罪のない人々が死んでいく。
国のためなら自分の命と引き換えることは美徳という愛国主義が支配している日本。
本書の前半は、戦争が終わるまでの時期で、猿橋勝子さんが学生時代や新入社員の時にどのように生きてきたかの話。
後半は、戦争が終わっても核実験をやめない世界に対して、放射能の地球への影響を測定し、データで示すことで核の危険性を発信する話。
軍国主義、男尊女卑、敗戦国としての復興処理、猿橋勝子さんを通して抑圧された悲惨な日本の姿が想像できます。
常に不利な状況にいながら、活路を見出し結果を残していく猿橋さんの生き方に敬服します。
この本は猿橋勝子という女性科学者の伝記なのですが、扱う事象が核兵器がもたらす放射線であり、戦争と密接に繋がっています。
核兵器を持っていれば、戦争になっても自国の安全は守られる、とか、攻撃を踏み留ませる抑止力になる、という人がいます。
この考えは、いざという時は「核兵器を使う」ことが前提なので賛成できません。
戦争になった時に有利に戦いを進めるために科学技術を磨くという一面は確かにあります。
気合と根性の精神論で戦っていた日本が、科学技術と戦略を駆使したアメリカに負けることは自明でした。
今の世界を見ていると、科学技術の進歩が戦争の方法を変えていることは事実です。
ですが、科学技術の進歩が戦争の必要がない社会作りに貢献することを切に願います。
Posted by ブクログ
女性科学者猿橋勝子さんの生涯を描いたフィクション
リズム良く進み「虎に翼」などの朝ドラをイメージしながら時代を切り開く勝子先生にワクワクしながら読む
最終章、それまでの勝子先生の集大成のような出来事には何度も目頭が熱くなった
これは女子中高生たちに読んでもらいたい!
娘たちにも大きくなったら勧めたい1冊
平塚らいてうのボス感がものすごい
きっと女性として許せないことや嫌なことが数え切れないほどあったと思うけど、そこには触れずに勝子先生の優秀さや信念をメインに進むのでさわやかな読後感
Posted by ブクログ
猿橋勝子って誰。戦時下から昭和後期男尊女卑の時代。キュリー夫人にあこがれ、中央気象台研究部で三宅泰雄教授の指導の下、一人の科学者として自分に何ができるのか、純粋に科学と向き合いそして後進の行く末を案ずる。原爆投下と終戦。終戦から約10年後ビキニ環礁での水爆実験。黒い雨、死の灰。多分に書かれていること以外にもかなりの障害があったと思われるが、猿橋勝子と言う人物を知れてよかった。フィクションとあったが限りなくノンフイクションに近い物語。そのうち、映像作品になっても不思議ではないと思うし、是非とも観てみたい。
Posted by ブクログ
地球科学者、猿橋勝子の伝記的小説。太平洋戦争での原爆投下から、第五福竜丸事件など、を化学者の立場で放射能の影響を明らかにしていく。
また女性科学者の地位向上にも努めた人。
猿橋賞、はどこかで聞き覚えがあったが、何をした人かは初めて知った。著者の科学者としての知識と、小説家としての巧みさがあって書かれた物語だな、と思う。
今まで何度も、聞いてよく知っていると思っていた原水爆のあれこれについて、もう一度学ぶ、深く心に刻まれた。
Posted by ブクログ
直木賞受賞第一作との帯、
表紙の絵とタイトルに惹かれて購入
表紙、タイトルのイメージとは
いい意味で全く違う激しいお話だった
激しいと言っても
アクション、出来事がではなく
主人公の内面が
場面転換が映画みたいで
ストーリーとしては朝ドラのような…
いずれにしても
近いうちに映像化されそう
Posted by ブクログ
伊与原さんの新作です
お恥ずかしい話ですが、本作で初めて猿橋勝子さんのことを知りました
猿橋さんは日本の女性科学者の草分けで、優れた女性科学者に贈られる「猿橋賞」の創始者として知られています。
猿橋さんの学生時代から研究の道へと進むところから、戦時中の研究、戦後の放射線汚染の調査を行い核実験の危険性を訴え続ける様が描かれています
実話を元にしたフィクションとありますが、すごい参考文献の数で、いかに伊与原さんがこの作品と、猿橋さんと向き合ってきたかがわかります。
女は大学に行くのも許されない時代に、科学者として生きていくことにどれほど苦労があったか、、、
それでも生涯をかけて研究を続けていかれた姿に感服しました。
研究内容や実験については、専門的な話も多いのですが、専門用語がよくわからなくても伝わってくるものがあり、アメリカとの対決の場面は胸が熱くなりました。
日本人で、女で、ひとりで、ただひたすらに、コツコツと研究を続ける姿が美しくもありました。
時代背景も含め、なんだか朝ドラを見ているような気持ちがしました(*´꒳`*)
猿橋さんの師でもある三宅の存在が大きく、その一言の重さを感じます。
特に戦時中、誰も日本の勝利を疑ってない学生たちについて
『国の教育としては成功
科学教育としては失敗』
という言葉が印象的でした
雨が好きだという猿橋さん。
幼い頃、何もない空から雨が降ってくるのを不思議に思い、ずっと空を眺めていたそうです
『気になる』から『やりたい!』に変わっていく。
『好き』ってすごいパワーですよね
子どもの『好き』を伸ばせるように
接していきたいと思いました(^^)
あっという間に11月も終わろうとしてますね。
毎年思いますが、この時期くらいから急に忙しくなりません??
師走とはよく言ったものです(・_・;
(まだ12月じゃないけど)
あっという間に今年も終わりそうですね〜(´∀`)
Posted by ブクログ
雨にも色々な呼び名があります。
この本のタイトルの「翠雨」とは、どんな雨なんだろうと思い、調べてみました。新緑の季節に降る、木々の青葉を濡らす雨のことで、夏の季語でした。雨が葉の緑色を翡翠のように美しく見せる情景が思い浮かぶ言葉でした。
主人公の猿橋勝子は、大正九年生まれ。彼女は、雨はどこから降るのだろうと疑問をもつ子どもでした。家族の後押しと自分の納得できる場所を求めて、帝国女子理学専門学校へ行くことになりました。結果的にこの事が彼女の人生を決めたことになりました。
始めは気象研究所に派遣され、研究者として歩んだ彼女は、微量分析の達人と呼ばれ、第五福竜丸事件や原水爆実験による放射能汚染の調査、単身アメリカへ渡っての相互検定などをこなしました。研究に向き合う真摯な姿勢が書かれていました。
一人の自立した女性としての彼女の生き方に背筋が延びる思いがしました。『翠雨の人』というタイトルがぴったりの女性だと思いました。
日々研究に励んだ猿橋勝子さんのことが、この本でより多くの人に知られることを願います。私のように科学の知識がなくても大丈夫。読みやすいです。
Posted by ブクログ
水爆実験による放射能汚染を科学的に実証した女性科学者、猿橋勝子さんの伝記ですね。伊与原さんらしく、実験のあれこれを端折ることなく克明に描いています。
男性に負けないような気概をもつ女性はたくさんいると思いますが、それと繊細な実験を行う技能を伴う人であったわけですね。日本側の数値がいかさまであると主張するアメリカに単身で対照実験に挑んだときの心境を考えると、あの時代にほんとうにご苦労だったことだろうと思います。毎朝海水を汲んで掘っ立て小屋の実験室で実験を行う姿は神々しさも感じます。
これは朝ドラでやるんじゃないですかね。楽しみです。
Posted by ブクログ
現実の固有名詞がよくでてくるなぁと思ってたら、最後に史実にもとづいたフィクションってあって、なるほど!ってなった。こんな原子力の研究をしていた女性がいたとは、全く知らなかったな。朝ドラにできそう。
化学も物理学も全然縁がないし、研究とか実験の話の内容は全然わからんけど。この世界を紐解いていく研究者達が、ただただ平和のために世界をよくしていくためにその力を使える世の中であってほしいな。
Posted by ブクログ
新聞やテレビのニュースで「今年の猿橋賞は〇〇さんに贈られました」と毎年見ていて、「猿橋」というのはどんな人だとずっと思ってきた。その猿橋勝子さんという研究者について書いた本だと知って、飛びついた。大きな功績があり、名前だけが知られていて、どんな人であるかあまり知られていない科学者について、丁寧に、一般の読者にわかるように書かれたこの本は一読の価値がある。
Posted by ブクログ
猿橋勝子さん。科学者として名前は知っていたが。1949年設立で200人ほどの会員がいる日本学術会議でさえ30年経って初めて女性会員。大変な先駆者だ。淡々とした評伝もいい。
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女性で初めて東京大学の理学博士号を取得した猿橋勝子。
東邦大の前身である帝国女子理学専門学校を経て中央気象台で地球化学を修めた勝子は、微量成分分析を究め、米ソ冷戦の中各国で行われた原水爆実験の残留放射能計測(洋上、地上)に力を注ぐ。
戦後の女性地位向上運動の流れを受けて女性科学者の地位向上運動にも関わり、研究と後進育成に生涯を捧げた一途な生きざまを、作者らしい真摯で愛情深い筆致で描く。
題名の「翠雨」は勝子が好んだ紫陽花を象徴する言葉。
Posted by ブクログ
猿橋賞はなんとなく聞いたことはあったけれど、こんな偉業を成した女性だったとは知らなかった。
よく女性初と言われ、その女性がもてはやされる傾向がある。特に日本においては。それだけ日本が昔から男尊女卑の傾向が強いからだ。
現代でもそうなのに、戦前から戦後にかけての混沌とした時代に男性に混じって理系の最先端を行き、科学の力を信じ分析を続ける女性がいたとは驚いた。
雨を降らす天を一人飽かずに見上げ、その不思議さに胸を震わせていた少女が成し遂げた偉業。
「何よりも大事なのは、どんな状況にあっても、科学の火を絶やさずにいること」
放射能汚染を科学的に解明する勝子のひたむきな姿勢に感服するばかり。そしてこれが史実ということに驚いた。
さすが伊与原さん。6頁にも渡る参考文献の多さに感心する。伊与原さんの猿橋勝子に対する熱量が伝わってきた。
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猿橋勝子という実在した科学者の生涯をもとにしたフィクション。なんの予備知識もなしに読んだので、あとがき読んで本物だったの..?とびっくりし、参考文献の多さにも『えぇ...』となった。
戦争の時代を勝子や科学者達がどう戦ってきたかの視点も興味深かった。
家庭に入り子を産むことが『女性の普通』であったはずの時代で、流されることなく『自分』を持てる勝子の強さがすごい。常に全力なのだなと。
『わたしが決めていることがあるとしたら、そのときの自分の気持ちに正直な選択をするってこと』
Posted by ブクログ
戦前から戦後にかけて、女性でありながら科学者として生きた猿橋勝子さん。
戦争がいかに愚かなものか、そして広島、長崎に投下された原爆。
その後の核実験による第五福竜丸の被害。それによる海洋、大気汚染がどれだけの被害を生んだかを猿橋やその上司三宅先生によって明らかにされる。
内容は科学的実験などの表現も多く、読み辛いかもしれないが、核実験が何をもたらすのか淡々と科学の観点から述べている。
後半はその結果に対し、批判的なアメリカ側から
検定方法を通して猿橋とフォルサムが対決。
どちらに軍配が上がるか。
ドキドキしながら、読み続けた。
アメリカ側との実験条件も悪い不利な戦いの中でも毅然と自分を信じて一途に科学者としての
矜持を貫く猿橋。
最後にはアメリカの核実験の中止にまで、影響を与えたことは、大きな働きであった。
あの時代に女性科学者はどれほど軽んじられていただろう。
その中で生き抜いた猿橋の生き方には尊敬を覚える。
そして、今現在核武装は安上がりとさえ言う政治家がこの日本にいる事にも、またアメリカが核実験を再開すると言い始めてることに戦慄する。
海洋汚染、大気汚染、そして大量殺戮しかなさない核を今も大量にもっている多くの国々。
地球を滅ぼしてまで、持つべきものか。
人間はいつまで愚かなのか。
猿橋さんが生きていらしたら、なんと言うだろう。
つくづく平和は良いと思った。
そして、戦争は何も産まない。
愚かな行為と思う。
Posted by ブクログ
今年も猿橋さんが創設した猿橋賞が女性化学者に贈られたそうです。
自分の研究だけでなく、自分と同じ道を歩く女性を育てようとした猿橋勝子、
その生涯を主軸に書かれたフィクション小説です。
巻末の膨大な参考資料をみると本当の話がほとんどではないかと想像できます。
今までの伊与原さんのテイストとは違いますが
分かりやすい文章で興味深く読みました。
特に1954年の第五福竜丸事件をきっかけに核実験による大気・海洋の放射能汚染を追究。
核兵器廃絶を訴える姿勢に感銘を受けました。
Posted by ブクログ
初めて存在を知った人。
こんなふうに科学に貢献した女性がいたのか。
どんな分野でも、後進の女性のために
先頭を走った人がいるんだなあ。
それでも、まだまだ女性の扱いが軽い日本だけれど。
Posted by ブクログ
放射線被曝の研究に勤しんだ、猿橋勝子さんの物語で、研究に対する真摯な姿勢や、時代風景に抗って女性として活躍する強さみたいなものを感じられて良き作品だったなと思います。
本作は、戦後理系学者として活躍した猿橋勝子さんの生涯を描いた作品。女性は家庭に嫁ぐものという世代間の中で、科学者としてプライドをもって取り組む姿に、同じ理系科学者として勇気をもらえたような気がしました。
科学というと専門用語が多く読みづらいイメージがありますがストーリーの筋が分かりやすく書けれているため、理系の知識がなくても読みやすいように感じました。
Posted by ブクログ
猿橋勝子さんの人生を知ることができました。科学者として、自分を信じ一途に未知の学問分野を切り拓く姿は、一人の女性の生き方として、尊敬すべきだと思います。
戦時中の研究生活で“戦争のための研究はしたくない”という思い。彼女の研究への純粋さと意思の強さを感じさせるものでした。
戦後、放射性物質の検出に携わり、核実験抑止につながる研究成果を後世に遺した道のりを、記憶に留めておきたいと思います。
表紙の紫陽花が描かれた中での女性の絵は、猿橋勝子さんの美しい心がそのまま投影されていると感じます。
マリー・キュリーに憧れて科学者になった猿橋勝子さん。彼女に憧れる若者が多く輩出されることを願います。
今年、理系の分野でノーベル賞を受賞された日本人、坂口志文さん、北川進さん。両者共に、自分を信じ目指す道を愉しまれていらっしゃることがお話から分かりました。昨年私は、書の師から同じことを言われ、叱咤激励されました。本書の猿橋さんもそうですが、一つの道を究められた方は、共通するものをもっていると思います。
Posted by ブクログ
ビキニ環礁の水爆実験の頃、残留元素を定量分析することから、世界的な権威になった 猿橋勝子さんの伝記です。ごちゃごちゃ言わんと読むべき。
アメリカやソ連がやっていた水爆実験てなんだったの? 恐ろしく愚かな人間たち。
Posted by ブクログ
猿橋勝子さんのフィクション。第五福竜丸やビキニ島の原水爆実験のくだりはとても悲しくて死の灰、広島原爆の黒い雨と辛すぎる歴史に分析でこんなに素晴らしい業績をもった人がいたことに感動した。ひたむきに実験に取り組み続ける姿勢は男女の垣根も越えるものかと。奈良岡さんが物語を支えるとても重要な立ち位置のひとだったね。
Posted by ブクログ
「月まで三キロ」「八月の銀の雪」、そして著者の名を広く知らしめた「宙わたる教室」。
伊与原新さんの直木賞受賞後第一作は、実在の科学者を描くという、伝記とフィクションを融合させた著者らしい作品です。
今年のノーベル生理学・医学賞を受賞された坂口志文氏。その妻である教子氏もまた研究者であり、今回の受賞研究も二人三脚で成し遂げられたと会見で語られていました。未だ女性研究者の立ち位置が厳しい現状に残念な思いを抱いていた私にとって、この作品は一筋の光のように感じられました。
猿橋勝子という女性科学者が、被爆国である日本人の立場から、アメリカのビキニ水爆実験で降った「死の灰」による放射能汚染の測定に携わり、アメリカが主張するよりも放射能汚染が深刻であることを証明したという事実。
昨今の冷戦を彷彿とさせる核保有国の外交状況において、この事実をもっと世に広めるべきだと、著者は筆を執ったに違いありません。
とても読みやすい文章で、分量も手頃な作品です。
これくらいの感想しか書けない自分が情けないですが、少しでも多くの方にこの作品を手に取っていただけたら幸いです。
Posted by ブクログ
6冊目の伊与原新さん。
戦前、女性が理系の教育を受ける機会に恵まれない時代に科学の道を志した猿橋勝子さん。私は存じ上げなかったのですが、実在の人物である猿橋さんの生涯を描いたフィクションです。
猿橋さんは戦後、アメリカのビキニ水爆実験で降った「死の灰」による放射能汚染の測定にたずさわり、後年、核実験の抑止に影響を与える研究成果をあげたそうです。
この水爆実験で「死の灰」を浴びた漁船「第五福竜丸」って、現在東京夢の島に保存展示されているんですよね。実は私の亡くなった伯父が、この船の保存運動に関わっていたので、展示館がオープンした時(調べたら1976年でした!)と、数年前にも娘たちに平和について考えて欲しくて行きました。実際にこの船や当時の資料を見ていたので、特に後半はとても興味深かったです。
女性のしあわせは家庭に入り子どもを産み育てること、という価値観だった時代に、結婚せず科学の道を邁進した猿橋さん。女性であるがために様々な困難があったと思うんですよね。でもただひたすらに熱意を持って努力を積み重ねる姿には感銘を受けました。
前半は比較的淡々と描かれているのですが、最後はムネアツな展開が待っています。専門用語も多いですが、ぜひ最後まで頑張って読んで欲しいです。
こちらもぜひ映像化して欲しいですね。映画『オッペンハイマー』も、ずっと観たいと思っていたので、今なら逆視点的に観られそう。
この本を読んで改めて、実験も含め、原水爆による惨事が二度と起こらないよう願うばかりです。
汐文社から猿橋さんの伝記が出ているようなので、そちらならブックサンタにいいかも。