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Posted by ブクログ
絶対空腹時には読んではいけない、
小説家池波正太郎氏が綴る極上の「食」のエッセイ。
と言っても、本作品はただ「この店の何が美味」
などといった事をダラダラと書き殴った
グルメ本などでは決してない。
飽食の時代と言われている現在、
舌で育てる味覚も心で味わう感動も
鈍ってしまっているような現代人に対し、
この作品を読む事で、
「食べる」という行為が本来持っている、
私達人間にもたらしてくれる喜びの感覚や
幸せの実感を呼び覚ましてくれるような、
「五感に訴えかける作品」である。
今までの自分の人生を振り返りそこで出会った
食べ物の味、店の雰囲気を、
その食べ物を味わった当時、
筆者が関わった人物の思い出とその時の想いなどと
共に読めばその映画のように味わいのあるシーンが
頭に浮かび、その食べ物の匂いがしてきそうな、
まるで一冊の脚本を読んでいるかのように、
鮮やかに、活き活きと描かれている。
外食をするならば、背筋のピンと伸びた料理人の
作った料理を大好きな人と一緒に食べる、
そして一食一食、食べる事を
映画を観るような素敵な事として楽しむ、
それが、自分が食べるものを
更に美味しいもの変身させる極意なのだ、
と池波氏に教えられているような気持ちになる。
Posted by ブクログ
1988年時点で書かれた”むかし”なので、概ね80~100年前の味、というか、お店の数々。
押しなべて物静かで職人肌の主人がいる良心的で誠実な店ばかり。調べるといくつかは今でも健在のようである。
いまふうに言うならギルティ飯に分類される、脂で揚げたカツ、ステーキ、濃厚なソース、あんかけ・・・ハイカラな洋食やこってりした中華がお好みだったようである。これで日本酒を飲み甘いものも好物という猛者だが、池波氏が亡くなられたのは白血病によるという(動脈硬化や糖尿ではない)
雪国の旅館に泊まり、夕食のカツにたっぷりソースをかけたものを朝食べるからと残しておいてもらって、翌朝、脂が白く固まってソースと絡んでトロリとなっている冷たいカツがたまらないとは、現代の旅館のオペレーションではまずありえず、まさにむかしの贅沢だったかもしれない。
早熟で向う見ずで馬が合い、つるんでいた悪友として頻出していた「井上」が、巻末で、行方不明のまま20年がたっていると明かされるのがせつなかった。
巻頭に写真があるが、昭和の料理写真は必ずと言ってよいほどすごくコントラストが強い。いつから変わっていったのか興味深い。
P78 或る日の宵の口に店に入っていくと、あるじが厭な顔をして私を見た。【中略】気に入らない魚介でにぎった鮨を客に食べさせることが(厭なのだろう)と直感した。あるいは、気に入った材料を握りつくしてしまったのやもしれぬ。そこで私が「いまは腹がくちいので、夜更けに食べたいから海苔巻きを折にしてください」というや、あるじは途端に笑顔となり「ご主人にお酒を‥」と妻女へ言った。(京都まつ鮨)
P112 いまはどこの町も同じような匂いしかしなくなってしまったが、戦前の銀座の匂いは、まさにバターと香水の匂いがしていた。
P140 (ひとり亭のような女ひとりが気ままにやれた商売など、存在を許してもらえぬ世の中になってしまった。「むかしの大阪は、金があればあるように、なければないように、気楽に暮らせたところでしたけど・・・」と同行の大阪在住の古い友達が私に言った。
Posted by ブクログ
本棚の奥から出てきた。
池波氏が「うまい!」と思って食べてきた味と店の思い出が書かれているが「グルメ本ではない」という但し書きがつく。
舌が覚えているのは、思い出と、人の縁。
この作品の最初の刊行は、昭和59年(1984年)で、およそ40年前。今から見たら、すでにむかし・・・かも。
その「むかし」に振り返って、まだ続いている店を紹介していたものだから、現在から振り返れば、むかしむかし、である。
スマホのマップで見たところ、「たいめいけん」や「イノダコーヒー」などのごく有名な店を除いては、すでに残っていないようだ。
跡地がコンビニやビジネスホテルになっているのを見て、味気ない思いと共に時の流れを感じる。
「持続の美徳」と言って、変わらぬ味を愛し、賞賛した池波氏であったが、残念ながら変わらないものなどない。
私たちには行くことの出来ない、戦前の東京。戦後の復興。
そんなものが、読むほどに懐かしく感じられ、目の前によみがえる気がするのだ。
「むかしの味」の向こうに池波氏が見ているものは、先に亡くなった年長者たちの思い出であり、戦前戦後と経て音信不通になってしまった友たちとの懐かしい日々だった。
見たことのない、憧れの「昔の東京」に行くための重要なアイテムとして、また本棚の奥に大切に保管しておこうと思う。
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