無料マンガ・ラノベなど、豊富なラインナップで201万冊以上配信中!
※アプリの閲覧環境は最新バージョンのものです。
Posted by ブクログ
小説家が自ら創り出した虚構の世界と現実との境目が不分明になり、虚構世界の側に取り込まれてしまう、という自己言及的展開自体はそれほど珍しいわけではない。しかし、本書の眼目は、それが冷戦期=1950年代末から60年代初めの日本と台湾と中国の歴史の暗部とかかわっている点にある。語りが焦点化する作家・柏山康平(台湾名は王立仁)は、自ら命を絶った叔父の王康平の体験をもとにしながら、「怪物」という小説を書いた。その物語は、叔父が台湾空軍のスパイ中隊のパイロットだったとき、任務中に人民解放軍によって撃墜されたものの一命を取り留め、中国の農村に潜伏して台湾に逃げ戻ってくる、というものだった。柏山はその小説の改稿にあたって、なぜ叔父は自殺したのか、叔父の語りをてがかりにした自分の小説にはまだ書き込めていないことがあったのではないか、という思いにさいなまれ、そこから虚構と現実が二重写しになり始める。
日本の「白団」と台湾空軍との秘かなつながりや、毛沢東による「大躍進政策」がもたらした圧倒的な飢餓の問題など、興味深い細部がいくつも書き込まれている。解説の大矢博子が的確に指摘したように、村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』を想起させる内容だが、日本と満洲・モンゴルとの間での加害/被害を扱った村上の小説より、複数の権力が織りなす歴史の力に翻弄された個人の生を描いたという点で、こちらの方がスケールは大きいと思う。
※アプリの閲覧環境は最新バージョンのものです。
小説・文芸