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『このミス』大賞・文庫グランプリ受賞作
『レモンと殺人鬼』
の著者が放つ新たな衝撃
企みに満ちた
戦慄のサイコサスペンス
彼を見殺しにした男達を私は許さない
純真な愛の果て!
(あらすじ)
古民家カフェの崩壊事故に巻き込まれ、一緒にいた盛岡颯一を喪った日羽光は、彼を見捨てた医療従事者らしき二人の男を探す。なぜ彼らは颯一を助けようとしなかったのか、問いたださねば気が済まなかったのだ。やがて光は男のひとりの身許を特定して接触を図るが、彼は突如として何者かに銃殺されてしまう。一方、もうひとりの男・薬師も光の行方を捜していた。戦慄のサイコサスペンス!
(著者プロフィール)
くわがきあゆ
1987年生まれ、京都府出身。京都府立大学卒業。第8回「暮らしの小説大賞」を受賞し、『焼けた釘』(産業編集センター)で2021年にデビュー。2022年、『レモンと殺人鬼』(宝島社)で第21回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリを受賞。
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Posted by ブクログ
周防の言葉が途切れた。皺だらけの顔を俯ける。
薬師は悟った。人は激しく絶望した後、その痕が皺になって顔に残ることを。
時間が経過して、笑ったり泣いたりと表情を取り戻すことはあっても、絶望の痕は一生顔から消えない。その彼は心にも同じように刻まれているに違いない。
だが、生きていて楽しいと思ったことは一度もなかった。
なぜ周りがあれほど楽しそうに笑いさざめきながら生きているのか、まったく理解できなかった。今まで人並みにいろいろなものを見てきたはずだが、金にも物にも立場にも人間にも、心を惹かれたことはなかった。今生きているのは単に、朝起きた時にまだ死んでいないから、食べて寝て一日を過ごしているだけだ。生理的欲求以外に何かをしたいと思ったことがなかった。
生きがいという言葉は知識でしか知らなかった。
薬師はついに生きがいを実感した。
彼は、人の絶望の表情を見ることに深い喜びを覚える男だった。
なぜかはわからない。ただ、人の絶望する顔がうれしくて楽しくておもしろくてたまらない。
すべては光の引き起こした復讐の泥沼だった。
彼女に不用意に近づいた自分もそこに引きずり込まれてしまったのではないか。
薬師は頭から血が引いた。自分は絶望の傍観者でなく、彼女に絶望させられる側に回ってしまったのではないか。
嘘だろ。嘘だ。ふざけるな。
喚き散らしたくなる一方で、今の自分の顔を鏡に映して見てみたいと思う、妙に客観的な自分がいた。
きっと今の自分の顔は、鑑賞するにはさぞかし理想的な形に歪んでいるに違いないから。
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