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自ら予言した日に幽界へ旅立ったウメさんは、探し物を教えてくれる“おがみや”だった。臨済宗の僧侶である則道はその死をきっかけに、この世とあの世の中間=中陰(ちゅういん)の世界を受け入れ、みずからの夫婦関係をも改めて見つめ直していく──現役僧侶でもある著者が、生と死を独特の視点から描いて選考委員全員の支持を集めた、第125回芥川賞受賞の表題作。人口2万人の小さな町で、人目をしのんでひっそりと働き、暮らす女の日々を描く「朝顔の音」を併録。
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Posted by ブクログ
中陰とはこの世とあの世の中間。 現役のお坊さんがこのテーマで小説を書いた。 ありえない話なんだけど、具体的でしっかりイメージ出来ちゃう。 この世界もあるな。と思わせる。そして、思っちゃったら、もう目が離せない。もうページが止まらない!
読みやすく、内容もとてもほのぼのしたもので良かったです。見えないもの、死についてなど、テーマは決して軽いものではないのですが、人物の描き方などがなんだかとてもあたたかくて、スルスルっと読めました。 玄侑宗久さんの著書はとても好きです!
芥川賞受賞作『中陰の花』。作者自身、ここまで言っていいものかと、戸惑いながら書いていたと語る「死後」についての見解は、とても興味深かった。わたしにとっては、初めて腑に落ちた死後といっても過言ではない。 もう一つの『朝顔の音』は、不気味な短編。
現役僧侶が書いた小説、という触れ込みに興味が沸いて、読んだ。 仏教思想、特に禅宗は、卒論のテーマにしたぐらい興味がある。 ユングも曼陀羅に興味を抱いていたそうだから、共通点はあるのかもしれない。 何より、心理学を志した人なら誰もが知ってる臨床心理学者・河合隼雄氏が解説をしてるってのも、個人的にはかな...続きを読むりのツボ。 宗教心理学を経て文化人類学にシフトしたわたしにはたまらない1冊だった。 禅宗に興味がありながら、座ったこともないわたしだけど、時間ができたらやっぱ1度座ってみたい。 修行もせず悟入は難しいとわかってるけど、魔境でいいから体験してみたい。 きっと、世界が違って見えるかもしれない。
第125回芥川賞受賞作 中陰とはこの世とあの世の中間 と表紙にある。聞き慣れない言葉を解釈したものか。 則道は禅宗の僧侶で 圭子と結婚して6年目になる。子供はいない。一度妊娠したが4週目で流産をした。圭子は今でも少し拘っている。 則道は檀家の行事・葬式や法事を行っていて説法もする。だが大阪の...続きを読む町から来た圭子は仏教に縁がなく育っているので、何かにつけて教えて欲しいと言う。だが、則道はそれに明確な答えをすることが出来ない。 科学が進んだ現代、釈迦の教えを科学的な現象に置き換えて話すことをする。 知り合いで檀家のウメさんはおがみやと呼ばれていて相談者は信者と言うことになっている。 ウメさんが入院して死期を予言した。病院側は総力を挙げて予言どおりには死なないようにと、頑張った。ウメさんは死ななかったが、二度目の予言をして、そのとおり亡くなった。 圭子は地獄や極楽について聞く。 「知らん」 「知らんて、和尚さんやろ。どない言うてはんの、檀家さんに」 「そりゃ、相手しだいや」 「せやけど訊かれるやろ、極楽はあるか、ないかって」 「だがら、相手次第や。信じれば、あるんや。信じなければない」 「そしたら別な訊き方するわ。人は死んだらどうなんの」 「知らん。死んだことない」 則道は、そういいながら、圭子とともに釈迦の教えを現代に置き換えて感じるようになる。 ウメさんの生きかたを近くで見て、予言どおり亡くなった今、信者の生きかた、圭子の感じ方。夫婦の歩みの中に深く沈んでいるなくした子供のこと。則道は圭子の心に寄り添っていく。圭子は作り続けていた膨大な数の紙縒りを網にし、則道はウメさんとなくした子供の回向の経をよむ。かれは天井から釣り下がったこよりの網を通してなにかの気配を感じる。 包装紙の色とりどりにこよられた網は花のようだった。 「成仏やなぁ」 「だれの」 「だれやしらんけど」 僧侶の作者が書いた言葉が浸みることがある。仏教が則道のように通過行事である日常では、彼が感じた日常が意味なく通り過ぎていく。 則道のいう「なんやしらんけど」すこしだけ生きること死ぬことの意味を考えさせてくれる。 則道が言う、「仏」は「ほどける」からきている。という。 この部分を読めば仏教や釈迦の教えに縁のない者にも、わずかに救われる気持がする。 僧侶だと言う人の書いたこの小説はどういうものかと思っていたが、秋の季節の静かさを増すような、しみじみとした余韻が残った。 ほのぼのとした語り口で死生観の一面を見せてくれる。僧侶というよりは一人の人として、その底辺を作っている禅宗という根底の思想の一片を、知ることが出来る。 それぞれの生き方の中にある中陰という言葉の意味も知ることが出来た
「成仏させる」というのは、死者の魂ではなく、遺族の魂のほうを成仏させるという感じかなあ、と解釈する僧が、知人の占い師の死や、霊感らしきものを感じるという妻の、流産した赤ん坊の供養をしたいという願いなどから、死んでまだ成仏していない魂というものの在り様について考え不思議な体験をするという話。通常の意識...続きを読む下ではなかなかとらえられないそのその不思議な現象についてよりも、僧侶とその妻の日々の暮らしの規律正しさと、交わされる会話の中にあらわれる故人のことを思う気持ちの優しさなどに惹かれる。
僧侶である則道(そくどう)は、妻の圭子と二人暮らし。所謂"おがみや"として様々な予言をし、自分の死をも予知して最期を迎えたウメさん。鉱泉を開き、妻と共に自らの宗教体験を語る石屋の徳さん。流産のために産まれる前に亡くなった我が子と、圭子が「成仏してない」と主張するウメさんとを弔うため、圭子が作った紙縒...続きを読む(かみより)に包まれながらお経をあげる則道。そこで二人は紙縒に不思議な動きを認め、そして圭子は呟くのだ―「成仏やなあ」と。 タイトルにもなっている「中陰」とは、この世とあの世の中間、という意味らしい。ネットで霊体験を検索する則道は、次のように考える。「多くは真剣に自分の信じる世界を描いているようだ。それは間違いない。しかしそれぞれの描く世界を総合しようとしても、そこには全くと言っていいほど整合性がなかった(p67)。」つまり中陰の花って、自分の信じる世界への入り口みたいなもの、だからみんなバラバラで、圭子がいう「成仏は成仏だ」というのも、この世の人の視点からではなく、死んだまさにその人にとってのものなのではないか。つまり、それぞれのやり方で「ほどけた状態」になることこそ成仏なのではないか、と。 旅行をするとき旅先のことについて、全く知らないなんてことはないはずなのに、現代人の多くは旅先不明(行き先は勿論「死」だ)の旅をしていると、河合隼雄氏は解説でこう記している。あまりにも現実的・物質的な世界にだけどっぷり浸かるのはなんだか恐いと自分は思う。「死ぬ」という事実は極めて現実的なのに、死後の世界はある意味でとっても非現実的。どれだけ現実を生きようと、いつかは自分たちが認識している現実の外に放り出されてしまう。だから、時に「死」という非現実について思いを巡らせることは、人間の行き着く先を見つめる行為だという意味で大切であり、それが「生きる」という極めて現実的なことにも繋がっていくのではないかと思う。
主人公の則道と妻の圭子は、おがみやうめさんの死、そして49日を迎えるまでの中陰の期間を通し、夫婦関係を見直していく。2人は流産を経験していた。この出来事をひきずる圭子、彼女は紙縒作りに励んでいたが、これは4週間しか生きられなかった我が子への祈りであり、子を授かりたいという彼女の祈りを表すものであった...続きを読む。その思いを知った則道は我が子とうめさんを成仏を願うため、回向を捧げる。そこで紙縒が舞い上がり、中空に煌めく光景を見て「中陰の花」だとつぶやく。このシーンは圧巻だ。成仏とはすでに個を失った状態をいうので、それが亡くした我が子とうめさんだとは言えないが、則道と圭子にとって「中陰の花」は2人の成仏の「徴」として映ったのではないかと思う。「ある」「ない」では済まさない出来事を、切るのではなく関係づけることによって、救いをもたらしてくれるものが仏教なのかもしれない。
芥川賞受賞作。 芥川賞にはやはり陰が必要なんだな。 陽だけでできている人間は当然いないわけだけど。 感想は「なるほど文学だな」。 僧の悩み、周囲の悩み。 根本は何一つ解決しないけど、あるフェーズを過ぎると悩みはそのまま置き去りにされるのか。 いや、「抱える」のをやめて、置き去りにもできず普段は見な...続きを読むいように「引きずる」ようになるんだろう。 三春の禅僧ということで興味はあった。 般若心経入門は読みやすかった。
文春で読んだはずなのに全然憶えてなかったのが軽くショック。 10年以上前の作品だったことに更にショック。 宗教というものが一番胡散臭く思われてた時期に、客観的な視点で現実を見つめている。科学と宗教の齟齬を、みなかったことにしない。 巨大すぎるそれに、果敢に立ち向かう。 河合さんの解説がこれまた秀逸。...続きを読む 全てが複雑に絡み合い、そして解れていく。
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