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Posted by ブクログ
前半の描写がとても美しく、母の所作や食卓、庭、季節の移ろいなど、日常の細部に繊細な美しさがあって強く引き込まれた。没落していく家族の話でありながら、最初はむしろ静かな生活の質感そのものが印象に残る。
しかし物語が進むにつれて、階級意識、恋愛、死、自己嫌悪といった人間関係や社会の問題が前面に出てきて、前半にあった静かな美しさが少しずつ飲み込まれていくように感じた。かず子の「恋愛と革命」や直治の苦悩も強烈だが、それ以上に、古い時代の終わりとともに美しいものまで失われていく感覚が残った。
題名の「斜陽」は、旧華族の没落だけでなく、作品前半に漂っていた優雅さや静けさそのものが沈んでいくイメージとしても記憶に残っている。
Posted by ブクログ
怖いけど美しい。
物語としては大きな展開はない。
家族が没落して家庭が崩壊していく様を描いているだけといえばそれだけ。
でも怖いくらい鋭い言葉で胸の内を抉ってくる感じ。
> 人間は恋と革命のために生まれて来たのだ。(p116)
>
> 戦闘、開始。(p130)
>
パンチの強いキラーワードが多くて、天才を感じる一方で、私が好きなのはこの一文。
> けれども、私は生きて行かなければならないのだ。子供かも知れないけれども、しかし、甘えてばかりもおられなくなった。私はこれから世間と争って行かなければならないのだ。(p126)
>
誰でも子どもの頃はあるし、歳を重ねれば嫌でも大人になっていく。
環境に関わらず、それは誰にでも起こる。
「いつから大人になったのか」と聞かれれば、いったいいつからか分からないくらい、緩やかに時間が流れてきたのに、いつのまにか世間の中で戦わないといけなくなる。
いったいどうすれば、そんな栄枯盛衰を太陽の沈む様に重ねて『斜陽』なんて題名を思いつくんだろう。
太宰治はダメ男を描くのが上手すぎる。
Posted by ブクログ
太宰治が『斜陽』で言いたかったことを一つに絞るなら、「滅びゆく古い倫理の中で、それでも生きるためには、汚れてでも新しい生命を抱えるしかない」ということかもしれない。
母は最後の貴族として品位があり、優雅で滅びにふさわしい美しさを持っている。けれどその美しさは未来を作らなかった。直治もまた古い階級の終末を背負いながら堕落し、薬物に逃げ、革命や思想を語りながらも結局は生の側へ踏みとどまれない。かず子だけが違った。かず子は上原に恋し、既婚者である彼の子を望み、望み通り妊娠する。
しかし、かず子の妊娠は明るい希望としてだけ描かれているのではなく、貴族階級の没落、母の死、弟の自死、上原という男の堕落、既存の結婚倫理の破壊、すべてを通過した後に残る、かなり乱暴で、倫理的に危うく、しかしそれでも生きる側に属するものとして置かれている。
つまり太宰が『斜陽』で描いたのは、「滅び」と「救済」ではなく、「滅びきった後に救済とは別の形で生命が残ること」。救済ではない。幸福でもない。倫理的な勝利でもない。それでも、生きる側へ引き戻すものがある。かず子にとってそれが子供だった。
Posted by ブクログ
陰影の気配は、ときに陽光を残酷なまでに際立たせる。
明るさと暗さを対立するものとしてではなく、明るさの中にも暗さがあり、暗さの中にも明るさがあるものとして捉えたとき、そこに描かれる束の間の幸福や、差し迫る滑落は、ただの真昼の太陽の輝きや、闇夜の深い孤独とも違って見える。
太宰治の筆を通して読む人物たちの心情は、複雑でありながら、どこか簡素でもある。その矛盾を抱えたまま描かれる人間の姿に、僕は「美」を感じる。
斜陽と黎明。意味はないが、無意味でもない。
明るさと暗さ、生と死、希望と絶望。それらを対立するものとして切り分けてしまうことは、本当に正しいのだろうか。
対立的に捉えることは、ときに分断を生む。そのあわいにあるものを見つめることにこそ、人間の心を理解する余地があるのかもしれない。
Posted by ブクログ
第二次世界大戦後の、没落貴族の母、娘、息子。
敗戦後の生活の様子や、貴族が没していく様子、そこからの自分の生き方を決めるまでが書かれています。
太宰治は人の転落を書くのがすっごく上手い。
何か本人の人格に問題があるというわけでもないのに、取り巻く環境やタイミングによってこんなに人生を左右されてしまうのかと、自分ももしかしら近い将来そうなるのかもしれないと思わされる生々しさがある。
かず子はきっと、本人は逞しく図太くなることなんて望んでいないんだろうけれど、環境がそうさせてはくれないんだろうなあ。
貴族という立場ではいられず、1人の女性として、1人の母として、どうにか生きていかなくてはいけないんだと自分を奮い立たせているようにしか見えなくて気の毒で痛ましい。
ただ応援はしたいけど、29歳、バツイチでそんな突っ走っちゃうことある?!と同情しきれないところもある。
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