坂本湾の作品一覧
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小説・文芸
Posted by ブクログ
薄霧のたちこめる宅配センターで、荷物の仕分けという軽作業をおこなう主人公は、その単調で退屈な時間のやり過ごし方として「荷物の中身を想像する」という楽しみを見出す。
その楽しみは「荷物の中を見たい」という欲望に変わり、ちょっとした出来事から一つの段ボールを実際に検める好機を手に入れた彼は、そのなかから一つの物品を盗んでしまう。
〈これは一体、どんな人間が発送し、何物が受け取るのか? 荷物を目の前にした安は、頭痛を覚えるほど興奮していた。わずか数ミリのボール紙によって光を遮断され、秘匿されていた荷物、その梱包を剥がしとってそこに現れた、想像もしなかった奇妙な道具たちを陳列せしめた。このことが、安に陶酔をもたらしていた。〉
そのときの快感が忘れられず、彼はやがて「荷物を盗みたい」という衝動に支配されるようになった。
監視カメラをかいくぐって盗みを繰り返すようになるが、それを同僚に目撃されていて——。
という、心理サスペンス要素を堪能できるスリリングな文藝賞受賞作。原稿用紙139枚という短めの作品だけど、密度が高くてとてつもなく面白かった。
理性が破壊されて興奮のままに常軌を逸していく様子が文章からぞんぶんに伝わってきた。
この人が薦める作品なら面白いだろう、という信頼を置いている知人に教えてもらったおかげで読むことができた。そういうの嬉しい。
Posted by ブクログ
文章が、上手い!!!!
内容は不気味で気持ち悪くて怖くてイヤ〜な感じなのに、謎の気持ち良さがある…何を言っているか分からないかもしれないけれど本当に心地よい文章でした。新感覚の体験。
高熱を出したときに見る悪夢を脳内から綺麗に取り出したような話。
「監視カメラも使えないほど濃い霧に包まれた宅配所」というものは、安全上、衛生上、防犯上、絶対に存在しえないのだけれど、その絶対にありえない環境の中で、壁に貼られた掲示物のような細かい風景だとか、身体の不調や痛みのような感覚は仔細にリアルに描かれていて、そういうところも悪夢のような物語だった。
オーディブルで聴いたのだけれど、朗読は声優の品田美穂さん。淡々と感情なく読み上げるナレーションが作品に合っていてかなり秀逸でした。文章の心地よさも相まって、もはや音楽と言ってもいいんじゃないかと思える作品。
Posted by ブクログ
心の拠り所、お守り的存在を作り出さないと、労働ができない現代。
ポジティブであればよいのかもしれないが、それが盗みだったり、設備を蹴ったり、酒だったり…というネガティブな方向になる人もいるだろう。
濃霧に包まれてジメっとしていて息苦しい宅配所の環境が、
登場人物の心の状態と重なっている。
それぞれの登場人物の宅配所以外の生活は確かにあるはずなのに、それが幻のようにつかみきれず、宅配所という労働の箱に隔離されて切り取られて書かれている。
奇をてらっているわけではないが、伝統的でしっかりした文体の中に、切れ味のあるカルチャーっぽい表現が入っているので、読んでてドキッとさせられました。
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p45.安は盗みのことを考えると脳内から言語が滲みだしてきて、口腔に滴り落ちる快楽物質(ドリップ)で歯と舌が踊りだしそうになる。