作品一覧

  • 橘の家
    3.8
    1巻2,090円 (税込)
    庭のその木は、人の生殖に力を与えるという。人類の業を抉る三島賞受賞作。幼い頃に2階から落ちたが庭の橘の木のおかげで助かったことがある恵実。以来、木の力を恵実が媒介するという噂が流れ、子どもを望む人々が大勢家を訪れるようになった。自分にすがる彼らの気持ちに戸惑いながらも役割を果たす恵実だったが、そのことが自身や家族に暗い影を落とし――子孫繁栄という常識を揺さぶる問題作。
  • 狭間の者たちへ
    3.8
    1巻1,980円 (税込)
    保険営業所に勤める藤原は、通勤電車で見かける少女に日々「元気」をもらっていた。ある日、同じ少女を盗撮する男との奇妙な交流が始まり――。痴漢加害者の心理を容赦なく晒す表題作と、介護現場の暴力を克明に刻む新潮新人賞受賞作を収録。愚かさから目を背けたいのに一文字ごとに飲み込まれる、弩級の小説体験!
  • 長くなった夜を、
    3.5
    1巻1,650円 (税込)
    コールセンターで派遣社員として働く関本環。両親はともに高校教師で、環は幼いころから厳格な父親の教えに従い生きてきて、38歳になった現在も夜9時の門限を守っている。そんな環とは対照的に、両親に反発し自由奔放な妹の由梨は、離婚した夫との間に公彦という男児がおり、実家に戻ってパートとバイトを掛け持ちしながら暮らしている。環はそんな妹に代わり、公彦の世話をしているうち、居なくてはならないかけがえのない存在になっていた。そんな時、由梨は両親と決別し、実家を出てマンションで暮らし始める。公彦の様子が気になり、両親が寝静まった後、毎夜のように妹のマンションを見に行く環だったが、由梨が公彦を置いて男と出かけ行くのを目撃してしまう。心配の果てに、環は以前父が放った「ある言葉」に突き動かされ、突発的な行動に出てしまい――。家族というコミュニティーが抱える闇を露わにした問題作。 【著者略歴】 中西智佐乃(なかにし・ちさの) 1985年、大阪府生まれ、大阪府在住。同志社大学文学部卒業。2019年、「尾を喰う蛇」で第51回新潮新人賞を受賞。著書に『狭間の者たちへ』がある。

ユーザーレビュー

  • 橘の家

    Posted by ブクログ

    家の庭の
    橘の木の不思議な力の媒介者として
    人々の欲と業をただ一身に浴び続けるだけの
    主人公の半生が不憫でやるせなかった。
    他者に喜びをもたらす一方
    搾取され、抑圧され
    自分や家族はどんどん壊れていく…
    女と家にとって子どもとはなんだろう。
    男にとって女はただ
    欲望のひとつにすぎないのだろうか。
    なぜ人は子孫繁栄を願うのだろう。
    そんな答えの出せない問いを
    考えずにはいられなかった。

    0
    2025年08月28日
  • 狭間の者たちへ

    Posted by ブクログ

    痴漢文学。とても面白く読めた。通勤電車内の女子高生のニオイをかいで、『元気をもらう』中年男性が主人公。その電車内で痴漢仲間?との出会いもあり。気の毒な状況の主人公で同情してしまう感じもしたが、最後は・・・。痴漢はあかん。

    0
    2024年01月05日
  • 狭間の者たちへ

    Posted by ブクログ

    中年男性が陥りそうな普遍的な苦悩。
    女性である私にも何かを突きつけられているように感じてとても辛かった。
    男性的な衝動と暴力性は誰の中にも眠っているのかもしれない。元気をもらっているだけ、仕方がなかった。そうやって自己欺瞞の末、行動に移すか移さないかには天と地の差があるけれども。

    女性著者が描いたというところもすごいと思った。

    0
    2023年08月05日
  • 狭間の者たちへ

    Posted by ブクログ

    家庭や職場でのストレスのはけ口を
    満員電車の女子高生とか
    介護が必要な老人とか弱者に求め
    ゆっくりと静かに常軌を逸脱していく
    男の狂気にぞっとした。
    どんなに頑張っても報われず
    誰にも分かってもらえない
    孤独な現実から逃れるように
    妄想の世界へ入り込み
    どんどん異常をきたし、人が離れても
    自分で自分を追い詰めている事実に
    気づけないことが恐ろしかった。

    0
    2025年10月23日
  • 狭間の者たちへ

    Posted by ブクログ

    人間の加害欲と被害者意識をここまで書くのがすごい
    安泰な社会生活を送れるのは自分の自制はもちろんで、加えて周りからの承認や暖かい思いやりなど心あるコミュニケーションなんだと考えさせられる
    でもそれを作り上げるのも自分であるわけで卵が先か鶏が先か
    尾を喰う蛇については、職場の雰囲気がリアルなのはさすが
    でも自分の職業倫理的に反する部分が多々あるので共感も肯定もできない
    その前で留まるのがプロだし小沢を諌める堀内でありたい
    それこそがテーマなのかもしれないけど、これに理解を示してはいけない

    0
    2025年09月23日

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