あらすじ
保険営業所に勤める藤原は、通勤電車で見かける少女に日々「元気」をもらっていた。ある日、同じ少女を盗撮する男との奇妙な交流が始まり――。痴漢加害者の心理を容赦なく晒す表題作と、介護現場の暴力を克明に刻む新潮新人賞受賞作を収録。愚かさから目を背けたいのに一文字ごとに飲み込まれる、弩級の小説体験!
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Posted by ブクログ
痴漢文学。とても面白く読めた。通勤電車内の女子高生のニオイをかいで、『元気をもらう』中年男性が主人公。その電車内で痴漢仲間?との出会いもあり。気の毒な状況の主人公で同情してしまう感じもしたが、最後は・・・。痴漢はあかん。
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中年男性が陥りそうな普遍的な苦悩。
女性である私にも何かを突きつけられているように感じてとても辛かった。
男性的な衝動と暴力性は誰の中にも眠っているのかもしれない。元気をもらっているだけ、仕方がなかった。そうやって自己欺瞞の末、行動に移すか移さないかには天と地の差があるけれども。
女性著者が描いたというところもすごいと思った。
Posted by ブクログ
家庭や職場でのストレスのはけ口を
満員電車の女子高生とか
介護が必要な老人とか弱者に求め
ゆっくりと静かに常軌を逸脱していく
男の狂気にぞっとした。
どんなに頑張っても報われず
誰にも分かってもらえない
孤独な現実から逃れるように
妄想の世界へ入り込み
どんどん異常をきたし、人が離れても
自分で自分を追い詰めている事実に
気づけないことが恐ろしかった。
Posted by ブクログ
人間の加害欲と被害者意識をここまで書くのがすごい
安泰な社会生活を送れるのは自分の自制はもちろんで、加えて周りからの承認や暖かい思いやりなど心あるコミュニケーションなんだと考えさせられる
でもそれを作り上げるのも自分であるわけで卵が先か鶏が先か
尾を喰う蛇については、職場の雰囲気がリアルなのはさすが
でも自分の職業倫理的に反する部分が多々あるので共感も肯定もできない
その前で留まるのがプロだし小沢を諌める堀内でありたい
それこそがテーマなのかもしれないけど、これに理解を示してはいけない
Posted by ブクログ
読み終えた。身体の中によどんだ空気がたまっている気がして、大きく息を吐いた。
「狭間の者たちへ」「尾を喰う蛇」のどちらの主人公も、今にも壊れてしまいそうなところをギリギリでなんとか持ちこたえていた。
二人が叫び出すのはもう間近だと思う。
Posted by ブクログ
初読みの作家さん。初の単行本で、3作目となる「狭間の者たちへ」及び新潮新人賞を受賞した1作目の「尾を喰う蛇」の2篇を収録している。
表題作は通勤電車で女子校生の“匂い”を嗅ぐ男が主人公。来店型保険会社で店長を務め、妻も子もある四十男がなぜ……という問いに明確な答えはない。家庭でも社会でも一定の責任を負わされたことが耐えられず、安易な逃げに走ってしまったのか。
「尾を喰う蛇」は、総合病院に介護福祉士として勤める男が、越えてはいけない一線でもがく姿を描く。タイトルが象徴する意味は“悪循環”だろうか。
どちらも閉塞感に満ちた作品で心がひりついた。それでも読み応えはあった。今後も追いかけたい。
Posted by ブクログ
仕事と家庭のストレスから痴漢行為に走る男性を描いた表題作と、病院で介護職に就いていてストレスから次第にある患者を虐待するようになる男性を描いた『尾を喰う蛇』の2作品を収録している。
いやー辛い話だった。どちらの作品も、Twitterとかで女性蔑視思想を垂れ流してそうな有害な男性性を持つ男が主人公で、やってることは本人には自覚が乏しいけど完全なる悪なんだけど、仕事の過酷さ(休めない、ノルマ、介護職の苦労の半端なさ)があって、そういう状況では冷静さや思いやりを持って周囲に対応するのはそりゃ無理だよね…と思ってしまう。半端ないストレスがかかりいっぱいいっぱいになったとき、人は心と身体のどちらかが壊れてしまうものだろう。読む側の心は容赦なく削られていくが、夢中で読んでしまった。
Posted by ブクログ
キモくて金のないオッさん問題。
もう一歩進めると、「能力」もないオッさん問題。
生まれ落ちたら、そこにしか辿りつかない人を、人はどんな罪で磔るのか。
「被害者」はどんな道理と筋で、それを告発、断罪できるのか。
「キモい」。それはイヤな気分だろう。
しかしそこに刃を向けることを許したら、後はグラデーション。どこまで許すかを本当に線引きできるものは存在しない。
男性の生きづらさ、女性の卑怯さ、というような、今の時代、politicalに日の光を当ててはいけないことになっていることがらに向き合う佳作。
この問題を女性筆者が作品にしたことに、相互理解や協力の萌芽を感じた。
しかし。
男女、と大きく捉えると、政治的な、politicalな話として、追い詰められているものに寄り添う必要を感じたりもするが、追い詰められているそれぞれ個々を見ると、嫌悪感が先に立って、いずれに対しても距離を取りたいとしか思えないというものかもしれない。
究極は、全ての人々がほんの僅かの人の間、もしかしたら個人個人の単位でしか、相互扶助の前提となる同一性を感じられない。
それが世界が実態なのかもしれない。
と思った。
Posted by ブクログ
どちらの作品も自己正当化と他人のせいにする主人公で、ぎりぎりのところからアウトへ踏み込んでしまって終わるのではなく、その境目が曖昧で最初から最後までずっと危うい感覚でハラハラしました。
Posted by ブクログ
2作収録。『狭間の者たちへ』→チカン・アカン!!痴漢が主役の小説なんて共感できるわけないやん。主人公の中年男は通勤電車で女子高生の匂いを嗅いで勃起する。「触っていない」から自分は痴漢ではないという自覚。彼女から元気を貰っているだけ。キモすぎる。ただこの男の人生のどん詰まり感が凄まじい。仕事は無能、家庭は地獄。ただそれも「全部お前のせいなんやで」と言いたい。一生この男は気づかないだろう。『尾を喰う蛇』→前作よりもさらに上を行くキモさ。介護現場にて凶暴性を秘めた介護士。個人的にはこちらの方が気味が悪かった。
Posted by ブクログ
こちらもあらすじを読んで気になっていた一冊。
表題作の「狭間の者たちへ」は、痴漢加害者側の心理を描いたという触れ込みで、一石を投じるような鋭さを楽しみにしていたのだけど、その点ではちょっと拍子抜けだった。
ただ、うだつのあがらない中年男性が朝の電車で乗り合わせる女子高生から「ただ元気をもらっていただけ」という屁理屈はずいぶんに悪質で、しっかりと痴漢の醜悪さをみた。
新潮新人賞受賞作であるという「尾を喰う蛇」は、かなり仕上がったデビュー作でとても面白かった。
病棟の介護士として日々心身を削りながら労働する主人公の、拭えぬ疲労感や鬱憤が文章全体ににじみだしていて素晴らしい。
本作における主人公の元カノや姉や職場のパートさん達、「狭間の者たちへ」の主人公の妻なんかは、顔が見えないわかりやすくステレオタイプな女性が集まってるんだけど、男性の書き方はとても巧いと思う。人間の厭な感情がふくらんでいくさまは、小説でこそ読みたいものだから。次回作にも期待。