作品一覧 2023/07/19更新 カラマーゾフの妹 試し読み フォロー カント・アンジェリコ 試し読み フォロー グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船 試し読み フォロー 大天使はミモザの香り 試し読み フォロー まぜるな危険 試し読み フォロー 翼竜館の宝石商人 試し読み フォロー 1~6件目 / 6件<<<1・・・・・・・・・>>> 高野史緒の作品をすべて見る
ユーザーレビュー グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船 高野史緒 青春小説でSF。「SFが読みたい! 2024年度版」ベストSF2023国内編第1位の作品。 以前から読みたいと思っていたのだが、なぜか踏ん切り(?)がつかずズルズルと積読状態だった。パラレルワールド物で、しかもガールミーツボーイ物だ。夏紀と登志夫、やはりラストは切ない。 そのうちアニメにな...続きを読むりそうな気がする。 Posted by ブクログ グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船 高野史緒 女子高生の夏紀と大学生の登志夫(年齢は夏紀と同じ)は異なる宇宙(並行世界)にいる。土浦に到着する飛行船グラーフ・ツェッペリンを介して出会う。この二人は量子の性質である情報のあるなしが同時に存在しているのと同様な存在である。この二人の関係は恋人になるものではなく、恋人でもあり兄弟でもあり本人でもあるよ...続きを読むうな量子的存在だ。だからこそ、ラストに向かう現象は、シュレディンガーの猫のように観測されるまでは状況が確定しないことになる。量子の振る舞いを17歳の男女として表現したところが、あやふやな立場と相まってより揺れる心の不安定さが伝わってくる。さくっと読めて面白かった。 Posted by ブクログ カラマーゾフの妹 高野史緒 『カラマーゾフの兄弟』はドストエフスキーが死の直前まで執筆していて、本来は続編が予定されていたという。これを日本人の著者が独自に読み解き、解釈し、勝手に続編を書いたのが『カラマーゾフの妹』だ。と言っても、ドストエフスキー自身が構想していたとされる設定も引き継がれている(アレクセイが革命家を志している...続きを読むとか) 『兄弟』で描かれた「カラマーゾフ殺人事件」から13年後、捜査官となったイワンが再び事件の真相に迫る中で新たな事件が起こる展開。ミステリーとしても面白いし、多重人格者や異常なフェティシズムなどサイコな面も描かれつつ、更にはスチームパンク得意の”ディファレンス・エンジン”が登場し、その計算能力によって、ロケット・ランチャーや宇宙船を開発するなどという、トンデモ系SF的な展開も盛り込まれている。(ここは好みが分かれるところだろう) この小説は語り手が”著者自身"であることも面白い。著者がドストエフスキーを前任者と呼びながら、これを執筆した経緯や、前任者の意図を解説するようなメタ視点が書かれている。「『兄弟』では、なぜ無駄なシーンが長々と描かれたのか?」とかサラっとディスってたりするのも楽しい。(その無駄なシーンを伏線として活かしている。勝手に) ちなみに『兄弟』の要約も書かれていて優秀。(あんなにわかりにくい小説をわかりやすくおさらいしてくれる) Posted by ブクログ カラマーゾフの妹 高野史緒 日本の小説家が『カラマーゾフの妹』という小説を出したとしたら、まずは日本を舞台にした小説で『カラマーゾフの兄弟』にアリョーシャ、いやいや、アリュージョンがあるようなもの、と推測されるではないか。それが『カラマーゾフの兄弟』の続編とは大胆不敵。なぜ100年以上も続編が書かれなかったのかといえば、ドス...続きを読むトエフスキイ翁が亡くなってしまったからである。……のだが、翁の死後、続編の執筆に挑戦する者がいなかったのはなぜかといえば、それはドストエフスキイを凌駕する重圧に挑戦者たちが退けられたのだろうと作者は述べる。しかしドストエフスキイに互するものを書こうなんて思わなければ簡単じゃないかというのが作者の意見。なんと謙虚にして不遜。 文庫版には解説の代わりに、作者と亀山郁夫、沼野充義の鼎談が乗っており、それによれば、作者はベストセラーとなった亀山訳『カラマーゾフの兄弟』と『続編を空想する』を読んで続編の執筆に駆り立てられたのだという。亀山版の翻訳については正統派ドストエフスキイ翻訳論者(かなんか)から不正確だの誤訳だの歪曲だのといった批判があるようだが、光文社古典文庫自体が、古典を現代に焼き直そうという不届きな意図から刊行されているのであり、『カラマーゾフ』の続編を書こうなどというのもその不届き路線にある。 かくて13年後である。ドストエフスキイ自身も13年後の話を第二部として書くと予告していた、13年後である。 13年前をちょっとおさらいしておこう。ドストエフスキイが主人公と述べる、天使のような三男アレクセイ、愛称アリョーシャが帰郷し修道院にはいる。引き続き、浪費家の長男ドミートリーが金をせびりに帰郷、またドミートリーに父との仲裁を乞われて虚無的な次男イワンも帰ってきて、カラマーゾフの兄弟たちが揃う。カラマーゾフの父フョードルが撲殺されたのが、当該殺人事件である。ドミートリーが裁判にかけられ流刑となるが、実はフョードルが狂女に生ませ、下男として住まわせていた異母弟スメルジャコフが下手人と思われ、スメルジャコフは「父殺し」をイワンに唆されたと示唆したあと自殺してしまう。 本書でもかなり丁寧に『カラマーゾフの兄弟』のあらすじがまとめられているので、読んでいない読者も楽しめるようになっている。評者も『カラマーゾフ』を読んでもう数年たつので、要約はありがたかったが、もちろん読んでいたほうが、倍音として響いてくるものが豊かになることは確かである。 13年後、流刑のドミートリーはすでに監獄で事故死している。アレクセイは地元で教師。イワンはといえば内務省にはいって凶悪犯罪などを専門とする特別捜査官となっている。そのイワンが「カラマーゾフ事件」を再捜査するために郷里に戻ってくることで話が回り出す。 探偵はイワン・カラマーゾフだが、それは事の半分。 『妹』が出版された同じ年、図らずも伊藤計劃/円城塔『屍者の帝国』が上梓されている。こちらはジョン・H・ワトスンが主人公、アレクセイ・カラマーゾフが重要な脇役として登場するというものである。『妹』ではイギリスの高名な探偵に捜査協力を依頼したときに通訳を務めたという、若い心理学者にして貴族のトロヤノフスキーが登場し、彼もイワンも「ホームズ氏の捜査法」は一通り心得ているのだが、この心理学者が心理学的探偵としてイワンと同道する。トロヤノフスキーはフランスでピエール・ジャネの教えを受けてきたのだ。この「13年後」は1887年、まだフロイトはほとんど世に知られていない。もっともジャネもまだ駆け出しだが。 しかし実に探偵は高野史緒なのである。ドストエフスキイが残した手がかりをあつめ、そこで語られなかったことを推理し、ついにフョードル殺しの真犯人を突き止めるのが本書の肝である。 心理学的探偵が必要なのは、探偵イワンの様子がおかしいからだ。彼が発狂寸前か、あるいは発狂してしまったのではないかという描写は『兄弟』でも描かれているが、13年たっても、彼はときに記憶が飛んでしまうことがある。それに悩んで催眠治療師にかかったことがあったが、そのとき不意に蘇ってきた記憶が彼らカラマーゾフの兄弟に妹がいるという幼時の記憶なのである。 『カラマーゾフの兄弟』は「父殺し」が重要主題であり、『続編を空想する』の中で亀山は、終盤に登場する少年クラソートキンとともにアリョーシャが革命家になって皇帝暗殺を企てるというストーリーを予測している。この予測をどう扱うのかは興味を覚えるところだが、本書ではクラソートキンが企業家になって、驚くべき発明をしているというスチーム・パンク的展開が興味深い。『屍者の帝国』がまさにスチーム・パンク的なので、何だろうか、このシンクロニシティは。 『妹』では犯人当ての推理小説としての展開だけではなく『兄弟』のテーマを引き受けようとしていることが、薄っぺらい謎解きに終わることなく、ある重みを作品に与えている。『兄弟』では「大審問官」でイワンが彼の「神学」を開陳するが、『妹』ではアリョーシャが彼の『神学』を示す。そして「父殺し」はいささか倒錯的に「父への愛」として敷衍されるのだ。 Posted by ブクログ グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船 高野史緒 さらっと読める青春SF……なんだけど、エンタメではない。エンタメの皮被った私小説、純文学寄りだ。後書きまで読むと、より尚更。 二つ別々の世界を生きる女の子と男の子。グラーフ・ツェッペリン号を中心に、茨城は土浦を舞台に繰り広げられるひと夏。ハードSFでも、単なる青春SFともエンタメとも違う、この独特な...続きを読む詠み終えた後の気持ちを、ぼくは大切にしたい。 Posted by ブクログ 高野史緒のレビューをもっと見る