日本SF作家クラブが編んだホラーSF短編集。収録されている作品数は20編。
まえがきや解説が非常に分かりやすく、今まで読んだことの無い作家さんがこの本には沢山いらっしゃったのですが、この本を読むだけでその方達の書いた短編が読めるだけでなく、簡単な来歴や代表作の名前なども知れて、SFホラーの入門編としても良質な一冊だと思いました。
まえがきや解説を執筆した井上雅彦は2024年10月から日本SF作家クラブの第二十二代に就任した作家で、長年「異形コレクション」というホラーアンソロジーを監修されているとのこと。私は恥ずかしながら「異形コレクション」の存在自体を知らなかったのですが、ホラー好きの人たちに大変愛されているアンソロジーとの事でそちらもとても気になりました。でも最新刊が59巻とのことだったので軽く追える感じでは……無い……?(すごいや!)
「恐怖とSF」は20編の作品が8つのグループに分類されています。目次は以下の通り。
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・まえがき
井上雅彦
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●幽霊のゆくえ
・#
梨
・タタリ・エクスペリメント
柴田勝家
・始まりと終わりのない生き物
カリベユウキ
●身体のゆらぎ
・幻孔
池澤春菜
・あなたも痛みを
菅 浩江
●侵食する獣
・ロトカ=ヴォルテラの獣
坂永雄一
・戦場番号七九六三(ななきゅうろくさん)
小田雅久仁
・我ら羆(ヒグマ)の群れ
飛鳥部勝則
●進化する人怖(ひとこわ)
・フォトボマー
イーライ・K・P・ウィリアム
・幸せのはきだめ(bissPit://moth)
平山夢明
●物語の魔
・現代の遭遇者 The Modern Encouter
小中千昭
・牛の首.vue
空木春宵
・初恋
牧野 修
●異貌の歴史
・ヘルン先生の粉
溝渕久美子
・漏斗花(じょうごばな)
篠たまき
●地獄にて
・愛に落ちる
久永実木彦
・まなざし地獄のフォトグラム
長谷川京
●彼岸の果て
・『無』公表会議
斜線堂有紀
・開廟
飛 浩隆
・システム・プロンプト
新名 智
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・解説
井上雅彦
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短編ゆえに内容に触れるとすぐ核心に届いてしまうので、私が個人的に好きだった作品を3つだけちょろっと触れさせてもらいます。
・柴田勝家「タタリ・エクスペリメント」
じっとりしたジャパニーズホラーの雰囲気からぐわっと周囲を巻き込むあの感じ……ぞっとするお話だった。
・菅浩江「あなたも痛みを」
AIに「痛み」を研究者が教えるという話。「痛み」と「暴力」の嫌なところが出ている描写が本当に……本当に嫌だった。
・飛 浩隆「開廟」
これが一番好きだった。怖さと嫌さがてんこ盛り。でも、あの主人公が陥る地獄の様子は読者へのカタルシスでもあった!(スカッとした)
ここで上げたのはたったの3編だけれど他の作品もどれも面白かったです。ネットでこの本の他の方が書いた感想を探ってみると、やはり、人によって好きな作品にかなりバラつきがあるように思いました。好みの差が出るなぁ。
ホラーというジャンルに携わって長い井上雅彦のあとがきもとても面白かったです。世代じゃないので1~2作品しか見ていない「ウルトラQ」が気になってしまいました。解説によると日本SF作家クラブがドラマの企画段階から参画してたらしくって。そんな歴史があるんですね。
本を通して読んだ後、これらの20作品をどうして8つのグループに分けたのかをもう一回反芻すると味わい深くなるのも好きでした。作品順についてはかなり気を配られたのだろうなぁ。
色々な作家さんの作品が並んでいるアンソロジーは、ものによって、読み進めるうちに何だか散漫とした印象になるものがあるのですが、このアンソロジーは一つ作品を読むごとに段を降りていくような、そんな読みごこちがありました。
とくに最初が梨「#」で、終わりに新名 智「システム・プロンプト」を持ってきている、というのが良かったです。この二作品はまったく異なる作風と内容の作品なのに、通ずるモチーフを扱っているように思えて……。一冊の本として、構造の美しさを感じました。
「ホラーSF」というテーマだけ共有してそれぞれの作家が書き始めたのか、作家同士で「こんな話を書くよ」と、互いに調整を取りながら、創作を進めたのかは分からないけれど、一冊の本として、味わい深いアンソロジーでした。