子供向けながらも、大人でも面白いということと、好きな作家が何人か書いていたので読んでみた。面白かった。特に最後の恩田陸のはすごかった…。
「象の眠る山」田中啓文
象眠山(ぞうみんやま)というのが出てくるので、象?ガネーシャ?と連想させておいて、正体は昆虫。最後のオチも、もしかしたら寄生されたかも、というもの。
それでも、UMA的な存在や、横道という解説キャラが出てくるので面白かった。横道が解説して助けてくれる、便利すぎるキャラ。
「とりかえっこ」木犀あこ
人頭(じんとう)という怪異。出現条件がピンポイントすぎる。何か元ネタがあるのか?50.65センチというのは人の肩幅?何から来てるんだ?
頭が喋ると思われていたが、頭を探しているという、いわば乗っ取り型。「盗まれた町」みたいな恐怖。
デュラララ!!を通っているので、デュラハンみたいだなと思った。
「誕生日のお祝い」田中哲弥
不条理世界というか、不思議な世界というか。ダメなこと(クスノキの畑でとれたニンジンをウサギに食べさせたこと)やって許してもらおうと魚を持ってきたけど、腐ってたから、許してもらえなくて牛になっちゃった、という話。
世界観はまあまあ好き。
でも誕生日と謝罪の詫びがよくわからない。プレゼントが詫びの品に変わったわけだが、そこらへんは読者にミスリードさせようと?
「おぼえているかい?」黒木あるじ
忘れられたものの恨みの話。主人公が約束をすっぽかされて怒っている分、怪異の怒りも想像しやすくなってて良いけど、代償がデカすぎる。
「能面男」恒川光太郎
結局能面が主体?
主人公が準備した武器が彫刻刀でガチすぎる。能面を作る時に使う道具だから作者は彫刻刀をチョイスしたのかな。
父親は交通事故で死んでいるらしいが、父親像がよくわからないので、遺族の悲しみで地縛霊と能面が重なったのか、生前ひどい父親だったから能面に見出されて彷徨うことになったのか。
どういうことだ?
悪霊とかオカルト抜きで、みんなに怖がられた犯人が実は父親だったという衝撃の話だったのかな。これで実は死んでたから良かったものの、生きていたら犯罪者で、これからは加害者家族として生きねばいけない、という怖さ。そっちのほうな気がした。
能面は社会的なペルソナ(仮面)ってことか?犯罪者にも家族がいて、仮面を取れば父親。
作中では犯罪者としての仮面を母親が踏んで壊したので、父親の罪は明るみになり成仏。現実的に考えると握りつぶした展開も有り得る、という話かな。
「爪に関するいやな話」牧野修
怖い話好きが怪異になっちゃって語っているわけだけど、爪の垢を煎じて飲む、から来てる?自分みたいになっちゃダメだよという教訓話。
「骨もよう」篠たまき
トイレの花子さんみたいなゆきちゃん。
警告のための名付けを、地価が下がるからと名前を変えて、危険な場所はろくに整備もしないで放置。故に子供が亡くなった、という話だな。社会的だ。
「猫屋敷に気をつけて」我孫子武丸
鬼の描写があるけど、普通に変質者なんだろうな。
ホラーのていで、これを読む子に警告しているようで面白い。
「六年一組の学級日誌」恩田陸
タイトルで那須正幹の「六年目のクラス会」を連想したけど、内容は「The End of the World」のほうだった。
学級日誌というていで、世界がわかる話。面白い。小松左京「お召し」にも近い。
これまでのアンソロ作品は子供向けで子供が主人公なので、漢字や言い回しが平易だったが、この作品は学級日誌で子供が書いた文章を読むスタイル。
面白いのが、学力が低下していることがうかがえること。言い間違いなどのミスはないけど、6年生なら書けるだろうなという漢字が書けてないこと。
天気の記録も飛び飛びで、後半は署名もなく、句読点の。も書かれていない。
そういう書式になっているのが面白い。
内容もめちゃくちゃ面白い。
悲惨な話しか無い。しっかり読者に伝わるように書かれているのも面白い。
最後に、生理が来た時の話が書かれており、普通は家で祝うものが、この世界では町中に知られて町長から祝われるという未来になっていて、めちゃくちゃゾッとして面白かった。御赤飯で祝うこと自体、今はやめておこうとなっているのに。
「最終兵器彼女」みたいな世界になってるんだなあと感じる。
本を燃やすくだりも良かった。本が好きな子がこういう本を読むので、それを燃やさないといけない辛さを感じられるし、怖い話目当てで本自体はあんまりな子でも、本を燃やすことの悲しさが伝わってくる。良い場面だ。
日付について、5月から始まって12月に終わるけど、5月はWW2でドイツが負けた月で、12月は日本が太平洋戦争を始めた時。それに合わせたのかな?と考えた。日にちは違うけれど。
半年で核が落ちるところまで行くのか。
・地名について
主人公達が住んでる港町は「S田」。おそらく山形県酒田市。新潟とも近い。
避難先として挙げられている「Sじょう」は山形県新庄市、「O沢」は山形県尾花沢市だと思う。内陸部の山間部に逃げてく感じ。
グーグルの経路で移動時間を調べた。
酒田市から新庄市まで車で1時間。歩きで12時間半。
新庄市から尾花沢市まで車で30分。歩きで5時間くらい。
電気もガソリンも使えないだろうから、歩いて移動したんだろうな。
作中の描写から、50代以上の年寄と20才以下の女性、子供が避難しようとしてたのかな?他の大人もいるだろうけど。
・作中のキャラ
柴山君。6年生男子。体格が良かったのでシェルター作りの工事に行って事故に遭う。
柴山君の祖母。小学校の校長をやっていた。デジタル教科書世代。
柴山君の父親。エンジニアで海底ケーブルの修理に行ってて1年は帰ってきていない。
→既に死亡?戦争は1年以上前からやっている模様。
柴山君の母親の描写は無いので故人の可能性。
秋本さん。6年生女子。最後まで日誌を書く。
秋本さんの父親。医者でずっと病院にいる。最後は治る見込みの無い患者を薬で安楽死させていった模様。
→秋本さんが避難を嫌がったのは、おじさんと一緒の部屋は嫌だから=父親死亡?亡くなったとしたら、病院が閉鎖されて、患者(祖母)を死なせたことで?
秋本さんの母親。秋本さんを産んでから何度も流産してから弟を産んだので、弟のほうを可愛がっている、と秋本さんに思われている。
インフルエンザが治らず死亡。
秋本さんの弟。病弱。母親と一緒に死亡。
秋本さんの父方の祖母。おじさんに殴られ柱に頭をぶつけ血を流して入院。
→病院が閉鎖された後の描写がないので、おそらく死亡。
秋本さんは母と弟が死に、頭を怪我した祖母は父によって死なされ、父も死亡。残ったのがおじさんだけになったので、避難しなかったと思われる。
秋本さんのおじさん。秋田県から疎開。若い時に肺を患ったがタバコは吸うし酒も飲む怠け者で暴力的。
秋本さんに手を出そうとした描写もある。
→労働力に駆り出されないのはやっぱ肺の影響か、医師である秋本さんの父親の診断書によってとか?
描写的に、戦時中、身体が弱くて徴兵されなかった人間というポジションだろうな。
長沢先生。
秋本さんが憧れているので、たぶん女性。ゲームが得意だったらしい。
たぶん、この本を読む今の子供達が大人になったのが長沢先生、みたいな想定だと思う。
加藤有紀絵ちゃん。
秋本さんのすぐ近くで寝ていた子。酸欠で死亡。
→この子だけフルネーム。それだけ親しかった?
疎開で3年生以下はいなくなっていたのと、6年生は2人だけなので、4年生か5年生だと思う。
加藤有紀絵が亡くなって、秋本さんは叱られると思ったが叱られなかった。
→実際、秋本さんに責任は無いけれど、叱られないということは、この子には親もなく、また人が減って食料が浮くので、それもあって叱られなかった?
叱られる心配ばかりで人が死んで悲しい気持ちが摩耗していることも表現してるのかな〜と後から思った。
改めて読むと、シェルター作りで、めぼしい労働力を失ったのが痛いな…。助けに行くことも出来ないし、シェルターも作れない。逃げるにもどこへ?となる。
環境汚染や気候変動、物資の不足も描かれていて面白かった。
夢も希望もあったのになあ。