自分たちの将来に希望も迷いも不安もいっぱいの小学6年生たちの、勉強と友情と砂像作りの夏の物語でした。
主人公は中学受験を目指して二つの塾に掛け持ちで通う小学生。ある時、友達の友達の同級生という、主人公からはあまり関わりのあるようには思えない女の子と一緒に『黄金のシャベル』を奪還する勝負に巻き込まれてしまう。勝負の方法は、砂像対決。砂場で作った砂山に、様々な道具で彫刻を施して作品にするというもの。今まで知りもしなかった砂像の世界に、主人公もどんどん夢中になっていく。中学受験をするのかしないのか、将来どんな風になりたいのか、感性の細やかな子どもたちの心は固めては流れる砂のようで、柔らかく、力強く、眩しく輝いている。そんな爽やかな一冊です。
何を意識して選んだ本でもなかったのですが、読み始めてすぐの印象は、主人公の状況や話の雰囲気から以前読んだ『中学受験を目指す小学生の青春』のようなものを描く作品なのかな、という感じでした。
けれど、読み終わった印象は初めとは随分と異なるものです。
自分に向き合うこと、自分が世界とどんな接点を持っているのか探ること、何かに夢中になること、自分の将来に希望を持つこと。そんな、キラキラとした可能性を持った子どもたちが眩しくて仕方ありませんでした。
小学生の、まだまだ世界の狭い子どもと思ってしまいがちな年齢で受け止める『世界』が、どれほど大きな影響をもっているものなのかを感じた心地です。大人たちが「ああ、またか」とテレビのニュースで聞き流してしまうようなものにも敏感に反応していたり、受験のことも将来のことも、分からないなりに一生懸命自分で考えていたり、友達のことで傷ついたり、逆に力になっていたり、今まで知らなかった世界に目の前が開けていったり。本当に、豊かな世界を見せてもらいました。
改めて表紙の装画を見て、なるほどと感心もしました。
主人公に砂像作りを教えてくれた女の子と主人公の、お互いのニックネームをとって「ハム」と「タマゴ」から『サンドイッチ』。その『サンド』は『砂』ともかけられていて、表紙の装画の背景は砂の上に乗っているような質感になっています。
読み終わってから改めて装画を見ると、表紙から伝えたいものが伝わるような作品は大好きです。
新しく何かに挑戦する勇気を、もうずっと持てていない気がします。だからこそ、『挑戦する練習』をするために受験をしようと決心できる彼女たちは強いなと感動します。
今一度、世界に向けたアンテナの感度を上げて、私も将来のことを考えられる人になりたいと思わせられるお話でした。