この本大好き!ファンタジーの魔法をかけてもらえるような素敵な本。
「急に、おばあさんは、楽しくなりました。めったにないようなすてきなことが、これから始まるような気がしてきました。」
これは本文中の一節なんだけど、おばあさんだけじゃなくて私も読んでいてほんとうにわくわくしてしまうのだ。大人向けの童話と
...続きを読むいうことだけど、子供でも読めそうではある。
全編通して始まりにはしんみりした寂しさが漂っており、そこにやってくるファンタジーがぽっと明かりを灯してくれるようなお話が多い。動物たちとの素朴で楽しいやり取り、手のひらに収まる不思議な宝物。どれも好きだけど、「あるジャム屋の話」「星のおはじき」が特にお気に入り。
ただほんわかした話には収まらないところもあって、「星のおはじき」「天窓のある家」「日暮れの海の物語」は盗人・裏切りの物語だ。後ろめたい気持ちを抱えた人間と、木や動物のお話。「星のおはじき」はクラスメイトのおはじきを盗んでしまった女の子を柳が優しく慰め、おはじきと「あなたの心」を預かってあげると提案してくる。あくまで「預かってあげる」のがミソなのだと思う。預かったものは、いつか返してもらわなくてはならない(そこまではお話の中では書かれていないが)。その重さに耐え、罪を自分の中にきちんと収めて持っていなくてはいけない。他二編を読んでも、そういったことが前提されているように思うのだ。
不思議な交友の温かい思い出も、後ろめたい思い出もその人の中にあり続けて、ふとした時どこかから顔をのぞかせ、その人の胸の内に光と影を作るのだろう。読書の思い出も、そういうところがある。この本も、私の心に植わっていてほしいと思うような素朴で豊かな物語だった。また読みたい。